硝子玉の君 ラザハンの露天に並ぶアクセサリー屋の前で、ルガディンの足が止まる。この国らしい色鮮やかな色彩で飾られた装飾品の陳列に目を奪われていた。
「よろしければどうぞ」
お気軽にご覧くださいと言わんばかりに、柔和に微笑んだアウラの男性店主が手を翳してくる。そう言われたら断る訳にもいかず、店主に歩み寄った。細やかなビーズで作られた腕や首飾りを眺めていると、手に取ってご覧頂いても、と声をかけられる。壊しそうだと萎縮しながら恐る恐る持ち上げ、かざして見ると光を透かしたビーズが一層輝いて見えた。好きそうだなとヴィエラの顔が頭をよぎり、買って行こうかなどと思う。しかしデザインが多くある中から彼女好みのものを的確に選べるかと言われれば自信もなく、手に取った品を棚に戻した。
店主に会釈をして、少し離れたところでリンクパールに触れる。通信音が鳴ったと思った瞬間、元気なヴィエラの声が耳に響いた。
「今、大丈夫だったか?」
大丈夫だよ、と返ってきたものの、微かに喧騒が聞こえる気がした。気を遣わせてしまったかと思ったらもしもし?と彼女が声をかけてくる。
「丁度ペルペル族の依頼も終わったとこだったし、本当に大丈夫だからね?」
念の為、といった調子で念を押され、つい苦笑してしまった。ではお言葉に甘えて、と話を切り出す。
「ラザハンの露天で、好きそうなアクセサリーを見かけてな」
ほほう、と彼女が食いついてきたのを感じた。今お店の前?と確認され、頷きながらそうだと返すと、ちょっと待ってて、と通信が途切れる。嫌な予感がして、店の前から広がった通路の方を向いて待機していると、ふわりと軽やかに彼女が降りたってきた。
「いいねぇ!」
指輪を用いたテレポで来た彼女が、陳列された商品に負けないぐらい目を輝かせる。好きな感じ〜、と呟いた彼女は物怖じせず次から次へと手に取っていった。
「これ可愛い〜!あ、この組み合わせもありだなぁ」
目移りしながらも述べられる感想と彼女の反応を楽しみつつ、同じ商品を眺めていく。どれも同じように綺麗に見えるが彼女にとっては違って見えているらしい。
「この組み合わせが好きなんだけど、こっちのこのパーツも可愛くて」
迷う〜!と両手に商品を持って真剣な横顔に、片方を買おうか提案しようとした矢先だった。
「余ってるパーツでよかったら譲るよ」
店主がにんまりと口角を上げた。欲しいのが揃ってる保証はないけど、と傍に置かれていた容器から小袋にまとめられたビーズを並べていく。数回瞬かせた目を輝かせた彼女が見せて見せて!と身を乗り出した。
「えっこれもあるの!?」
手からこぼれそうなぐらいにビーズを抱えてはしゃぐ彼女につい頬が緩んだ。その隣に並んで彼女が好きそうなものを選ぶと、やばい、と彼女が呟く。
「買いすぎちゃう〜!」
嬉しい悲鳴を上げる彼女に小さな籠を手渡してくる店主に、全てくださいと声をかけると、ニヤリと笑われた。
「安くしとくよ」
それを聞いた彼女がやったぁ!と籠へ次から次へと吟味したガラスビーズを追加していく。高価な宝石も似合いそうな人なのに、と思いながらそれを眺めていた。
「ホテル戻ったら早速作っちゃおうかな」
買ったビーズの入った袋を目の高さに翳した彼女が弾んだ声でひとりごちた。いいと思うと返せば、
「ディンのも作ったげるね」
にっこり微笑みかけられ、苦笑してしまう。1人分にしては多すぎると思った硝子玉のビーズには、彼が思っている以上の愛情が込められているようだった。