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    おわり

    @owari33_fin

    アズリド/フロリド同軸🆚
    ここに上げたお話は、大幅に加筆してpixivに置いてます→pixiv https://www.pixiv.net/users/31202925

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    ミーティア3️⃣ Az-7『夕焼けの草原』

     その日の闇の鏡の前には、インターンに向かう有象無象で溢れかえっていた。人数が多いため、地方に分けてタイムテーブルが組まれ、夕焼けの草原に向かう生徒が集まる時間に向かえば、大半が獣人ばかりで僕は頭が痛くなった。
    「あれぇ!? アズールくん何してんすか??」
     大きなカバン一つの生徒の中に、特大のトランクを三つも引きずる僕が目立ったのか、ラギーさんが声をかけてきた。
    「今は夕焼けの草原に向かう連中が集まる時間っすけど、この列に並んでるってことは、まさかアズールくんも?」
    「そのまさかですよ」
     そう返せば、ラギーさんはあり得ないと驚いた顔で僕を見た。それはそうだろう、いまだ僕が一番あり得ないと思っている。
     ラギーさんのインターン先は、夕焼けの草原の王宮らしい。これもレオナさんがラギーさんを侍従にすると決めて王宮の侍従長に掛け合ったようだ。それを聞いた僕は、どうして僕がそっちじゃないんだと叫びそうになった。あの男の侍従なんてなりたくもないけれど。
    「おっ! アズールくん、順番が回ってきたみたいっすよ」
     意を決して鏡を潜る。砂嵐のようなノイズが開けると、ムッとした湿気と、肌を刺すような太陽に僕は顔を顰めた。
    「アズールくん、夕焼けの草原にようこそ!」
     シシシっと笑うラギーさんに言われ、目の前に広がる景色に、あぁやはり人魚には合わない土地だと、僕は笑顔の下で毒を吐いた。
     ラギーさんはすでに待っていた王宮からの迎えの車に乗り込み、僕に「じゃあまた!」と挨拶して、インターン先である王宮に向かった。
     その場にポツリと残された僕は、ジリジリと焼かれる肌に痛みさえ覚えながら、担当の獣人が迎えに来るのを待った。待って待ちに待って、真上にあった太陽が少し傾いた頃、やっと一つのピックアップトラックが僕の近くに止まった。絶対にアレではないと目を逸らしていたら、そのトラックはトロトロと僕の前にやってきて、フロントウィンドウが開いた。
    「君が、ナイトレイブンカレッジからウチに研修に来る、アーズル君?」
     遅刻した上謝らず、初っ端から名前を間違える男にイラッとした。
    「アズール・アーシェングロットです」
     それでも何とか笑顔で訂正すれば、興味のなさそうな男は、トラックの荷台を指差し荷物を乗せろという。だがその荷台も土で汚れていて、ここにトランクを乗せることに少々戸惑いがあった。すると、僕の見た目に「これだから軟弱な若ぇやつは」と車を降りた男が、僕のトランクを乱雑に投げ置いた。
    「ちょ、ちょっと!!?」
     中には割れ物も入っている。何より人の持ち物なら少しは丁寧に扱えと、ガサツな獣人に先程からストレスがひどい。
    「職場行く前に、先に今日から君の寝床になる独身寮の方に行くぞ」
     走り出したトラックは、小刻みに揺れ、朝食べた食事が胃から登って口から出そうだ。この国は、観光地はそれなりに舗装されていたが、少し離れると酷い舗装は波打って、この国の現状は本やネットで書かれたより酷く感じる。
     いつのまにか小刻みな揺れに顔が真っ青になった僕を見て、ガハハと笑った男は「そのうち慣れる」と言ってガタガタ道をさらに進んだ。闇の鏡のあった場所から三〇分、着いた独身寮は酷いものだった。
     五階建のコンクリートビル、築年数四〇と数年あまりの建物は、玄関に大量の砂が溜まっていた。
    「おっちゃん〜連れてきたよ」
     男が叫ぶと、奥から出てきた男が「ついてきな」と顎をしゃくる。奥の階段を上がれば、サバナクローのような男臭い臭いの中、これから数年使う予定の僕の部屋に案内された。
     風呂トイレ共同、キッチンももちろん個室になく、食事は朝晩決まった時間に食堂に来れば食べれる。もちろんそれとは別に個人的に何か作りたいなら食堂のキッチンを使うように言われた。
    「ここがお前の部屋だ」
     案内された部屋は、突き当たりの薄汚れた壁に窓が一つ。剥き出しの茶色く汚れたマットレスに、デスクとチェアだけの簡易な部屋だ。備え付けのクローゼットの中では、黒くて大きな虫がカサカサ動き、ジャミルさんがこれを見たらきっと悲鳴を上げただろう。
     これが部屋? どう見ても独居房だ。
    「荷物を置いたら職場に行くぞ」
     トランクを部屋まで運び込むために三つ抱えて階段を上る僕に、男は「なんだ、ひよっこじゃあねぇようで安心した」と、背中をバシバシと無遠慮に叩き、もう顔も作れなくなっていた僕は、せめて文句だけは言わないようにと、固く口を閉ざした。

     あのやたらと揺れるトラックに乗って、そこからさらに一〇分。先ほどよりゆっくり車を走らせてくれたおかげで吐き気も少しマシだった。
     先ほどの独身寮も古かったが、職場となるビルはそれ以上に古かった。鉄鋼建築の建物は、赤錆が浮いて如何にも古い。床タイルはところどころ剥がれ、壁に亀裂が入り、皆タバコをよく吸うのか、壁は黄色く黄ばみ。獣人しかいない職場は、男女比率が九対一。事務職と聞いていたのに、なぜか皆、着ているツナギが汚れていた。
    「お前ら、注目!」
     広くもない事務所の中男がそう言うと、皆の視線があつまった。
    「あの、第二王子も通っていた名門ナイトレイブンカレッジから、わざわざインターンで来てくれたアーズル・アシェーグロト君だよ」
     お前もうワザと間違えてるだろうと言いかけて、初めの挨拶は肝心だと、今日一番の笑顔を顔面に張り付けた。
    「ご紹介に上がりました、アズール・アーシェングロットです。ナイトレイブンカレッジでは、二年よりオクタヴィネル寮の寮長をしていました。此度は、夕焼けの草原第二王子であるレオナ・キングスカラー様より直々に、こちらを紹介され参りました。若輩者ではありますが、みなさまよろしくお願いします」
     どうだ! 完璧な自己紹介だろう!! 脳内で胸を張った僕を、奴らはキョトンとした顔で「オクタヴィネル?」「第二王子のコネを使って来れたのがここか」ボソボソと話す。リドルさん、あの時学園の外では寮長の肩書など華やかなポケットチーフ程度と言いましたが、撤回します。名門ナイトレイブンカレッジの寮長という肩書が、華やかなポケットチーフにすらならない人種も、この世には大勢いるようです。
    「はい、アーズル君、ありがとね」
     男が拍手〜といえば、その場にいた数人がまばらに拍手を返した。
    (ああ、これが夢なら、誰か、僕を殴って目を覚させてくれ)
     このまばらな拍手と共に、僕の地獄のインターンシップは始まったのだ。
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