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    岩藤美流

    @vialif13

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    岩藤美流

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    3年後から始まる予定だったらしいアズイデちゃんを発掘したので供養です

    魔が刺す、とはそういう事だったんだろうと思う。あの時、あんな事をしなければと、今でも後悔をしているし、夢にまで見る。それはある種の悪夢だったのに、僕は何故だかその時のことを思い出すと、妙に胸が痛んだ。




     ちゅ、と。
     微かなリップ音を立てて、二人の唇が離れた。
     それは本当に魔が刺したとしか言いようのない事件だった。同じ部活の先輩後輩の仲を超えて、二人は友人かそれに近い関係になっていた。深夜までゲームに明け暮れた末に、イデアのベッドで寝落ちをしたアズールが、あんまり美人だったのだ。
     すう、と寝息をたてる顔は、イデアのそれと違って健康的な色白で。透き通るような肌は柔らかそうだったし、いつものコロンのいい香りがした。閉じられた両目の睫毛は長くて、唇の下にひっそりと存在するほくろも色っぽくて。
     常々思っていたのだ。美人だと。そのふっくらとした、艶のある唇にキスができたら、どれほど幸せだろうと。
     気が付いたら、唇にキスをしていたのだ。深夜は人の背後に魔物が立つ。イデアは、いつの間にやらファーストキスを、眠っているアズール相手に落としていた。
    「……あ……」
     そして、青褪めた。自分はなにを。後輩の寝込みを襲うような事をしたのだ。
    「イデアさん」
    「ひっ」
     アズールの静かな声が部屋に響いて、イデアはびくりと震えて固まった。
     どうして、起きているのか。
    「今起きたことについて、忘れましょうか、それとも理由を問いましょうか」
     尋ねる声はあまりにも静かで、イデアは冷や汗をかきながら、天井やら壁やらを忙しなく見た。起きていた、起きていた。おまけに何をしたからバレている。
     イデアに選択肢は有って無いようなものだった。何故なら、自分にだってどうしてこんな事をしたのか、わからないのだから。
    「……わ、忘れて……」
     掠れた小さな声で、そう呟くと俯いた。背後でアズールの動く気配がする。それでも怖くて、もう後ろを見れなかった。
     と。
    「ひあ!?」
     背後から抱き締められて、イデアは悲鳴を上げた。そして耳元で囁かれる。
    「いいでしょう、ならば対価を頂きます」
    「ひっ、な、なに」
    「あなたも、これから起きる事を、忘れてください」
     どういうこと。そう言おうとした時、イデアはベッドの上に仰向けにひっくり返されていた。突然のことに目を丸くしている間に、アズールが馬乗りになってくる。見上げる彼はあまりにも美しくて、妖艶で、イデアは胸の鼓動が早まるのを感じた。
    「いいですね、イデアさん。今日のことは、お互い忘れるんです」
     アズールの唇がそう紡ぐのを見つめていると、彼はイデアに顔を近づけ、そして唇を奪った。
    「んん、ん!?」
     それはただ重ねただけのものではない。紛れもないキスだ。舌が唇を割り開いて侵入してくる。犯されている、と感じてもがいたのだけれど、アズールの力の方が強くて、どうにもならない。抵抗しようと伸ばした手を取られて、指を絡められる。
     まるで、恋人同士がする様に。体を絡め、指を重ね、貪るように口付ける。
    「は、……っ、あず、し、……っ、なんで、」
     酸欠と困惑と、そして確かな興奮で涙が滲む。途切れ途切れに尋ねた問いに、アズールは微笑んで答えた。
    「言ったでしょう、イデアさん」
     今日のことは、お互いに忘れる。そういう約束ですよ。
     そう言われて、イデアは何も言えないまま。
     結局、アズールに体を許してしまった。




     もう3年も前のことだ。
     




     呪われた家と囁かれど、シュラウド家は嘆きの島の領主だ。当主が健在と言えども、嫡男ともあればそれなりに人前にも出なくてはいけない。
     大きな、しかし古びて暗い屋敷。その一室に二人の男の姿がある。銀色の髪は、この真夜中のように暗い屋敷の中で輝くようだ。蒼い瞳は眼鏡越しに、真っ直ぐ目の前の相手を見つめている。上品で高価なスーツを着て、優雅にお辞儀をした後、彼は静かに口を開いた。
    「本日は貴重なお時間を僕の為に割いて頂き、ありがとうございます、イデアさん」
     微笑む彼の正面には、青白く燃える髪を垂らしたイデアが椅子に腰掛けている。白い顔に表情は無い。暗い部屋で炎と、その金の瞳ばかりが浮き上がるようだった。学生時代のようなパーカーではなく、彼もまた良家の長らしい紳士服を着ていた。
    「先に申し上げていた通り、実は僕たちの運営するモストロ・ラウンジの店舗を、この嘆きの島にもと思いまして、ご相談に参りました」
    「……アズール氏の好きにしたらいいよ。僕に相談することじゃないでしょ。それとそういう話し方、やめてくれない? なんだか嫌な感じ」
     イデアがボソボソと答えると、相手ーーアズールはニコリと笑顔を作って、言った。
    「それでは、本物のイデアさんとお話しさせてくれませんか?」
     イデアは一瞬アズールを見て、それから深い溜息を吐いた。
    「……コレがロボットだって見抜いたの、アズール氏が初めてだよ……」
     そう言ってイデアが自分の胸に触れる。精巧に作られた、イデアそっくりのロボットだ。対人することを極端に嫌がった結果生まれた、端末。これまでバレたことは無かったのに、アズールにはこんなに短時間で気付かれてしまった。
    「それは当然でしょう。僕とあなたの仲なんですから」
     その言葉にイデアは僅かに眉を寄せて、それから動かなくなった。その代わりに、薄暗い部屋の奥の壁が、僅かに開く。
    「なるほど、こうして暗くすることでロボットの違和感や壁の作りを隠しているんですね。よく考えてあります」
     アズールは深く頷きながら、開いた壁へと歩み寄った。
     その先が、イデアの本当の居室だ。




     本当のことを言えば、イデアは彼を部屋に入れたくなかったし、会いたくも、話したくもなかった。
     それでも招いてしまったのは、何故なのか。イデアはそれについて考えたくなかった。それを考えようとすると頭や胸がぐるぐるモヤモヤして、自分らしい姿を保てなくなりそうになるのだ。
     イグニハイド寮の自室より、さらにモニターやハイテク機器の並ぶ部屋は、よく言えば歴史有る、悪く言えば古びた屋敷に似合わず近代的というより、もはや先進的でもあった。見た目もハッカー、というよりはゲーミングなものにしたかったのだろう。薄暗い部屋の中で椅子や机がディスプレイとは別に光っているのは中々に目にこたえる。
     アズールがやや眩しそうにその明かりを見てから、イデアさん、と柔らかく名を呼んだ。それで、イデアもディスプレイとキーボードから手を離して、椅子を回して彼に向き合った。
     ロボットから届いていた画面の中と同じだ。アズールは3年前とさほど変わっていなかった。少しだけ髪が伸びたかもしれない。自分はどうだろう。イデアはあまり気にしたことはなかったけれど、アズールに「また痩せられましたか?」と尋ねられたから、もしかしたらそうなのかもしれない。


     ここまで
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    岩藤美流

    DONE歌詞から着想を得て書くシリーズ①であり、ワンライの「さようなら、出会い」お題作品の続きです。参考にした歌は「A Love Suicide」です。和訳歌詞から色々考えてたんですけど、どうも予想通りタイトルは和訳すると心中だったようですが、あずいでちゃんはきっと心中とかする関係性じゃないし、どっちもヤンヤンだからなんとかなりそうだよな、と思ったらハッピーエンドの神様がゴリ押しました。イグニハイド寮は彼そのものの内面のように、薄暗く深い。青い炎の照らしだす世界は静かで、深海や、その片隅の岩陰に置かれた蛸壺の中にも少し似ている気がした。冥府をモチーフとしたなら、太陽の明かりも遠く海流も淀んだあの海底に近いのも当然かもしれない。どちらも時が止まり、死が寄り添っていることに変わりはないのだから。
     さて、ここに来るのは初めてだからどうしたものか。寮まで来たものの、人通りが無い。以前イデアが、うちの寮生は皆拙者みたいなもんでござるよ、と呟いていた。特別な用でもなければ出歩くこともないのかもしれない。さて、寮長の部屋といえばもっとも奥まっている場所か、高い場所か、あるいは入口かもしれないが、捜し歩くには広い。どうしたものかと考えていると、「あれっ」と甲高い声がかけられた。
     見れば、イデアの『弟』である、オルトの姿が有る。
    「アズール・アーシェングロットさん! こんばんは! こんな時間にどうしたの?」
     その言葉にアズールは、はたと現在の時刻について考えた。ここまで来るのに頭がいっぱいだったし、この建物が酷く暗いから失念していたけれど、夜も更けているのではないだろうか。
    「こ 5991

    れんこん

    DONE第二回ベスティ♡ワンライ用
    フェイビリ/ビリフェイ
    お題「HELIOS∞CHANNEL」
    何度も何度も震えるスマホ、画面も何度も光って、最早充電も尽きかけてしまっている。
    鳴り止まなくなって電源ごと落としてしまうのも日常茶飯事ではあるけれど、今回は規模が違う。
    ……今朝おチビちゃんが撮ってエリチャンにアップロードした写真がバズっている。
    その写真は新しく4人の体制となったウエストセクターで撮ったもので……それだけでも話題性があるのは確かだけれど、それよりもっとややこしいことでバズってしまった。

    『フェイスくん、この首の赤いのどうしたの!?』
    『これってキスマーク……。』
    『本当に!?どこの女がこんなこと、』

    「はぁ〜……。」

    止まらない文字の洪水に、思わず元凶である自分の首を撫でさする。
    タグ付けをされたことによる拡散の通知に混じって、彼女たちからの講義の連絡も合わさって、スマホは混乱するようにひっきりなしに泣き喚いてる。
    いつもはなるべく気をつけているからこんなこと滅多にない。……ただ、昨夜共に過ごした女の子とはまだ出会ったばかり……信じて寝入っている間にやられてしまったらしい。
    今日はタワーから出るつもりがないから別にそのマークを晒していてもわざわざ突っ込んでくる 2313

    YOI_heys

    DONE第1回 ヴィク勇版ワンドロワンライ『ひまわり』で書かせていただきました!
    ひっさびさに本気出して挑んでみましたが、急いだ分かなりしっちゃかめっちゃかな文章になっていて、読みづらくて申し訳ないです💦これが私の限界…😇ちなみにこちらhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17839801#5 の時間軸の二人です。よかったら合わせてご覧下さい✨
    第1回 ヴィク勇版ワンドロワンライ『ひまわり』※支部に投稿してあるツイログまとめ内の『トイレットペーパーを買う』と同じ時間軸の二人です。
    日常ネタがお好きな方は、よかったらそちらもご覧ください!(どさくさに紛れて宣伝)



    第1回ヴィク勇ワンドロワンライ『ひまわり』


    「タダイマー」
    「おかえり! って……わっ、どうしたのそれ?」

    帰ってきたヴィクトルの腕の中には、小ぶりなひまわりの花束があった。

    「角の花屋の奥さんが、持ってイキナ~ってくれたんだ」

    角の花屋とは、僕たちが住んでいるマンションの近くにある交差点の、まさしく角にある個人経営の花屋さんのことだ。ヴィクトルはそこでよく花を買っていて、店長とその奥さんとは世間話も交わす、馴染みだったりする。

    ヴィクトルは流石ロシア男という感じで、何かにつけて日常的に花を買ってきては、僕にプレゼントしてくれる。日本の男が花を贈るといったら、母の日や誕生日ぐらいが関の山だけど、ヴィクトルはまるで息をするかのごとく自然に花を買い求め、愛の言葉と共に僕に手渡してくれるのだ。
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