君について知っていることを挙げよう「君について知っていることを挙げよう」
そういってダンデがキバナの手を握る。
「まず、君は俺が知る限り世界で一番良い男だ。笑顔がかわいくて、笑った時に見える八重歯も、最強にキュートだ。気遣いが上手で、穏やかで、でもバトルの時は嵐のように激しくて……」
温かく穏やかな部屋の中先程まで飲んでいたココアより甘い声でダンデが言葉を紡ぐ。
それを聴きながらダンデを見つめれば、こちらの視線に気付いたダンデとパチリと目が合った。
その瞬間先程まで淀みなく紡がれていた言葉が途切れダンデが顔をうつむかせてしまう。
「?」
首をかしげれば
「……君のその瞳に見つめられるとドキドキしすぎて死んでしまう」
といった。
その言葉にニヤリと笑い、握られた手を握り返し口許に寄せる。
チュッと軽い音を立てダンデの手の甲にキスを落とせばうつむいたその顔は真っ赤に染まった。
「うぅ……君が小悪魔過ぎてたまに憎くなるぜ」
「嘘言うなよ。小悪魔なオレさまも大好きな癖に」
そう意地悪なことを言えばダンデがうつむいていた顔を上げる。
真っ赤に染まった頬に、羞恥からか水の膜が張った黄金の瞳。
こんなダンデを知っているのは世界でただ一人キバナだけ。
その事実がたまらなく胸を擽り、キバナはふふっと笑い声をあげた。
「そうだよ、大好きだよ。君が知っての通り俺はキバナが大好きだ。世界で一番愛してる」
半分拗ねたようにそういったダンデの声は先程よりもさらに甘さを含み、他の人が聞いたら胸焼けを起こすだろう。
でも、キバナはそうはならない。
だってキバナもダンデを同じ様に愛しているから。
「知ってる。オレさまも世界で一番ダンデを愛してるから」
そういってキバナは空いた方の手で自らのポケットを漁る。
「なぁ、ダンデ」
「…………なんだ?」
「オレさまがダンデについて知ってることを挙げようか」
「は?」
「まずダンデはとんでもなく方向音痴だ。ついでに、家事が苦手で、ファッションにも疎い。バトルはべらぼうに強いけど、書類仕事や会議が苦手でしょっちゅう秘書さんからオレさまにヘルプが来る。」
他にも、甘いものが好きだとか、ブラックコーヒーは飲めないだとかキバナが知るダンデを挙げていけば
「君俺のカッコ悪いとこばっかり挙げるじゃないか……」
と唇を尖らせていった。
その言葉にキバナがきょとんとした顔を見せまた笑う。
そしてさらにキバナは言葉を紡ぎ続ける。
そしてすっかりダンデが双葉をしんなりとさせた頃キバナが
「まぁ、そんなダンデがオレさまは世界で一番かっこいいと思うんだけどね」
と言葉を締める。
「嘘だ……」
「嘘じゃないぜ?」
「絶対嘘だぜ……うぅ」
そういってダンデは机に突っ伏してしまう。
そんなダンデを見ながらキバナがポケットから手を出し机の上にコトリとなにかを置いた。そして
「あ、そうだダンデ」
とわざとらしく声を挙げた。
「………………これ以上俺のカッコ悪いとこがあるのか?」
そういってもぞりと顔を上げたダンデが机の上の物を見て固まる。
「オレさまダンデがキバナのことを結婚したいくらい大好きってことも知ってるんだけど」
固まったダンデにそういえばいまだに状況が呑み込めないようで、机の上の箱をみて、キバナの顔をみて、また箱をみてを繰り返している。
「で、ダンデどうする?」
「…ぇ……あ?…どうする?!」
キバナの言葉にダンデは飛び上がらんばかりに驚いている。
そんなダンデを見つめながらまた
「結婚する?」
と聞けばダンデは
「………………するぅ……」
と蚊の鳴くような声で答えたのだった。
暖かな部屋の中、リビングのソファの上に二人でぎゅうぎゅうになりながら寝そべる。
キバナの胸に頬を乗せたダンデは
「ずるい!ずるいぜキバナ!あの時俺がプロポーズしようと思っていたのに!」
柔らかな頬を膨らませてそう言った。
「お前、何年前の話をしてんだよ」
呆れたようにキバナが言えば、ダンデはキバナの胸にグリグリと頭をすり付ける。
「くすぐったいって」
そういって笑うキバナの腰をしっかりと抱き
「だって、俺かっこよく決めようとしたのに……」
と呟いた。
結婚記念日が来る度におこなわれるこのやり取りはもう二人のお決まりになっている。
「どんなダンデでもオレさまかっこいいって思うんだけど」
そうキバナが言えば途端にダンデは笑顔になる。
「んふふふ」
「急にご機嫌じゃん」
「だって君がかっこいいって言ってくれたから」
そういってダンデが上体を動かしキバナに触れるだけのキスをする。
「本当にダンデはオレさまのことが好きだね」
キバナの言葉にダンデは
「あぁ、世界で一番愛してる」
と答えたのだった。