虹の雲に乗せて「…ふぅ、」
一息をついて、椅子にそっと腰をかける。
ボクは今,コピーロイドでママのお手伝いをしていた。
お洗濯物を畳んで、お客さんの来てる間お茶を出したり、お掃除をしたり、
今はそれが終わり、少し空いた時間でPETに戻ろうかな、と思っていたところ。
扉ががちゃりと開き、とてとて、と走る足音が聞こえる。
徐々に迫ってくる足音。走る方向に目線を逸らせば「どーん!」と言いながらその男の子はボクに抱きついてくる。
「うわっ、?!もう…危ないよ、熱斗くん。」
「えへへっ…」
にこにこ、とボクの膝で笑う小さな少年。
この子は熱斗くん。
ボクの大事なオペレーター。
まだ5歳の彼は毎日こうやってボクに甘えてくる。
「危ないよ」なんて口を出しちゃうけど、ほんとは嬉しい、ってのが本音で。
「ただいま!ろっくまん!」
「うん、おかえり、熱斗くん!今日もがんばったね、偉いよ!」
よしよし、と撫でてあげれば目を細めて彼は笑う。
つい笑みが溢れれば彼はボクの膝からちょこんと降り,「ん!」と小さな手をあげた。
「…?どうしたの、熱斗くん、」
「ろっくまんも、まいにちがんばっててえらい!えらいえらい!」
「…!」
小さな手のひらが、ボクの頭をそっと撫でる。
身長が足りなくて背伸びをしているところがまた可愛い。
「ありがと、熱斗くん!元気でたよっ!」
「えへへ…あ、そうだ!」
彼は手提げかばんの大きな袋からがさごそ、と何かを探している。
「…?」
「あった!」
少し待てば「じゃーん!」と彼は白い紙を掲げた。その中には「ぼくとろっくまん」とかかれた絵が描かれている。
2人はにこにこと笑っており、手を繋いでいる。
「ぼくとろっくまんが、ずっといっしょでありますように」という文字を添えて。
主に使う色が青色、というとこが彼らしい。
「あげる!」
「え…ボクに?」
「うん!あのね、これをまくらの下にひいてねると、これとおなじゆめがみれるんだよー」
彼はきらきらした目をし、ボクに説明をする。
そのために描いてくれたのかな、と思うと無いはずの胸の奥がぎゅっとなる気がした。
「ふわあ…」
「おねむの時間だね。」
軽く目を擦りながらボクの胸に頭を預ける。
彼の瞼は段々と閉じ、軽く頭を撫でて「おやすみ」と伝える。
次見た時には彼の幸せそうな寝顔が見れて思わず微笑みが溢れる。
寝室に移動しようと立ち上がり、ゆっくりと彼をベッドに置く。
「また少しおっきくなったんだね。」
すうすうと眠る彼に伝わるはずのない言葉をぽつり、と呟く。
コピーロイドの残りの充電音が鳴り、充電の為にPETに戻る。
1人になった途端、思わずさっき熱斗くんが渡してくれた絵のことを思い出す。
本来、「光彩斗」が見れない光景をボクが見ていて。
ボクは弟である熱斗くんと毎日を過ごす。
光彩斗にとってボクはなんてずるいやつなんだろう。
おまけに、絵なんかプレゼントされちゃってさ。
「…あ、」
そういえば、と彼の言っていたことを思い出す。
「これをまくらの下にひいてねると、これとおなじゆめがみれるんだよー」
「…これと同じ夢、かあ。」
この絵と同じ内容の夢、なんて見れたらどれだけ素敵なんだろう。
もしかしたら、という期待が胸を踊らす。
「ふふ…っ、ずっといっしょに、ね。」
ボクは枕の代わりに絵をぎゅーっと抱きしめ、スリープモードに入った。
これが正夢になりますように、と願いながら。