ー黒猫の日ー黒猫の日
ー乱葬崗ー
「魏公子、含光君が尋ねに来られましたよ」
温寧が魏嬰のねぐらの外から声をかけるが返事は帰ってこなかった。
「また夜遅くまで術の開発でもしていたのかもしれないわね」
温情が呆れ顔で隣にいる含光君に声をかけ
「中に行って起こしてきてくれる？」
「勝手に入っていいのか」
「かまわないわ、部屋の中すごい事になってると思うけど気にしないでね」
　温姉弟にそう言われ静かに中へ入った。
　彼の気配は感じるのだが姿が見えない机の上には乱雑に置かれた紙が散乱して数枚手に取ろうとした時黒い小さな何かが飛びかかって手を引っ込めた。
「物の怪か」
　机の上には赤い紐を首に巻いた黒い猫が藍湛を見つめて威嚇していた。
「魏嬰どこにいる」
　にゃあと黒猫が返事をした。
「まさか・・」
　黒猫が大きなあくびをすると藍湛に近づいて紙を一枚引きずり出してポンと前足を叩いた。
「失敗したのか」
　バツが悪そうに手を嘗め始める黒猫。
「会話が出来ないのがつらいな」
　元気のない黒猫魏嬰に
「君の得意の紙人形は使えないのか」
　そう聞いてみると耳と尻尾をピンと立てて私に飛びついてきて大きな瞳が私の顔を映した。
「とりあえず私が人型をつくる」
　魏嬰を膝の上に乗せ藍湛は器用に紙の人形を作ってみせた。
「これで平気か魏嬰」
　大きな瞳が開かれて一声鳴くと紙人形に意識を移しているのが分かる、成功したみたいだ。
　黒猫の動きが止まり代わりに紙人形がせわしく動き出した。
「はーしゃべれないのは辛いなー助かったよ藍湛」
　ふわりと黒猫の背に乗っかって藍湛にぺこりとおじぎをして礼を言った。
「全く君は・・」
「折角遊びに来てくれたのに悪いな」
　べらべらとしゃべりだすのは良いのだがいや全然良くない。
「魏嬰今置かれている状況を」
「ああ、多分一晩立てば戻るだろ」
　頭をかくような仕草をして答えるがこのまま彼を放置する訳にもいかない。
「一晩君の時間を私にくれないか」
　ふわりと紙人形が浮き私の額に触れた抹額に触れるか触れないかのすれすれの位置だった。
「熱はなさそうだな」
「失礼だな・・」
「悪い悪い。なんか口説かれてるみたいで驚いた」
　そのまま私の肩に乗っかるとうーんと唸っている。
「温情達に全部ありのままを話せば良いだろう」
「それって乱葬崗から出るってことだよな」
「そうだ」
「それはできない」
「あら魏公子目が覚めたのかしら」
「あっ、やべっ。藍湛うまく誤魔化してくれ」
「魏嬰おちつきなさい」
　温情と温寧が朝餉を持って入ってきたが二人で目を点にして固まった。
「姉さん、黒猫がしゃべってます」
　温寧が小声で藍湛の膝にいる黒猫を指差して震えていた。
「あんたしゃべる猫位でびびるな。どうせ魏公子のいたずらでしょ。含光君まで巻き込んで」
　はらりと肩から落ちた紙人形を手に取って黒猫の方を見て名を呼んだ。
「なんだよ藍湛あれしゃべれるぞ」
膝から降りて横に座って姉弟に声をかける
「魏無羨なんであんた猫になってるの」
「しらな～い」
藍湛は首を振って黒猫を軽く撫でた
「心配してる人にその態度はいけない」
「新しい術開発してたら失敗しちゃった」
黒猫魏嬰は可愛い仕草をしてその場を切り抜けようとしたが雷を落とされ
「含光君、この馬鹿をお願いします」
　数日後に人に戻れた魏無羨は再び乱葬崗へ帰って行った。