「悠仁、手出して?」
「ん? 包帯?」
手の平に乗せられたのはクルクルと纏められた白い包帯。
「俺別にどこも怪我してないよ?」
「これはね、悠仁とまだ出会う前、このアイマスクの代わりに使ってた物なんだ」
「へー。それで? なんで急に俺に?」
率直に思ったことを口にしたのだが、何故か先生はちょっと不服そう。
沈みかけの夕陽が窓から差し込み、先生の白い髪の毛がオレンジに染まる。二人の間に出しっぱなしだった腕が急に引かれたもんだから、乗っかっていただけの包帯が落ちないようぎゅっと掌に力を込める。と同時に先生の胸の中へダイブ。
そのままいつもの『飛ぶ』ってやつで連れて来られた先はどこかの屋根の上。同じ高さだったはずの太陽は、遥か下。目下の廃墟は、数週間前まで人が賑わうコンクリートジャングルだったのに。
「一々包帯巻くのって結構面倒だったんだよね。でも包帯ってさ、丁寧に巻かないとずれたりするでしょ? だからどうしても時間がかかる。ま、僕の場合は術式もあるし、ちゃちゃっとやってもずれないけど」
抱き締められていた体が解放され、手だけがしっかり繋がれた横で先生が話始める。 俺はただ、右手に包帯を握り締めたまま、先生の横顔をじっと見つめた。
「だから大事な時、これを巻きな。落ち着かせる為のちょっとした儀式で、僕からの呪い」
そう言ってアイマスクを首に下げた先生が此方を向く。残光が反射した青い瞳は、吸い込まれそうな程綺麗だった。
「呪いは祓わなきゃだよ先生? でもなー。先生に呪われるのは嫌じゃないからなー。そもそも俺、呪物だし」
「なぁに言ってんの。お前は人間だよ」
「先生もだろ? 最強で、それが当たり前で。何でも出来ちゃうから、俺たちは先生に頼ってばっかだったけど。……ちゃんと人間」
「うん。そうだね。……しかし寒っ」
「いくらさっきまで稽古つけてくれてて暑かったとは言え、流石にこんな格好で外出たら寒いに決まってんじゃん。それに先生、俺より動いてないからそもそも暑くなかったっしょ?」
「ははは。間違いない。お腹も空いたし、帰ろっか」
「応! でもこれ先生ずっと使ってた割には綺麗じゃね? 物持ち良いね!」
「ん?ああ、あれ嘘だよ? 汚れるし、僕だってもう何十個も消費してきたから。これは新しいやつ」
「そ……っか。そりゃそうだよな」
「ふふ、そんな残念そうな顔しない! ちゃんとお下がりが良かった? それなら今ここで一回」
「わあああ、いいって!」
「何そんな慌てて」
「だってなんか使用済みパンツ請求してるみたいじゃん」
「否、人の包帯をパンツと一緒にすんなよ」
「大事な所守ってんのは一緒じゃん」
「そっか、悠仁にとったらコレ(アイマスク)もパンツだったか。僕、たまに悠仁がコレ持ってハスハスしてるの」
「うぉっああああ何言ってんの先生」
「可愛いね、悠仁」
「もーやだ」