「上京して初めて誕生日を祝った友人、影浦なんです。よく覚えてます」

存じております…！！
村上くんにとって生まれて初めてのサプライズお誕生日会。祝われたのは影浦雅人くんその人だということは、彼のファンの間ではもはや有名である。村上くんが酔うとにこにこになってしまうことも、真っ赤になっちゃうことも、昔話をすると少し饒舌になることも。でもアルコール耐性はしっかりあることだって。知っている人は多いはずだ。しかし、あくまでトークと写真の情報だけ。映像で拝める日が到来するとは思わなかった。
お誕生日というトークテーマで自分自身の誕生日について話す人も多いなか、この思い出話をTVでしてくれたことが嬉しくて仕方ない。共演者に肩を叩かれた村上くんが、こちらをじっと見る。スタッフさんの出したカンペを読む姿をばっちり正面から映してくれるカメラさんに心の中で拍手を送った。

「『放送日当日は影浦さんのお誕生日です』…えっ、あ！そうですね」

本日は6月4日。我らが影浦くんの生誕祭だ。収録日は早くとも5月中なのだろうけど、放送日に合わせて周囲のタレントさんがお祝いの電話をかけてあげなよと促している。昨夜に聞いたラジオからの情報によれば今年、影浦くんのお誕生日を最初に祝ったのは村上くんだったらしいのだ。それもめちゃくちゃフライングだったと聞いている。その伏線が今、回収されようとしていた。

「もしもし」

通話もばっちり聞かせて…もとい見せてもらえるだなんて手厚い。それに、それに影浦くんが、もしもしって言った。かわいい。録画を録音する人絶対に現れると思う。

「カゲ。いま大丈夫か」
「おー。なんだよ」
「誕生日おめでとう」
「……おめー酔ってんな？」

心なしか声が優しい。そして見破るのが早い。慣れですか。慣れているんですか。

「みんな電話していいって言ってくれたから」
「誰だよミンナって」

ここで影浦くんと長期作品で共演している柿崎さんが状況を説明する。慕っているらしい柿崎さんの登場に驚いたあと、理解した影浦くんの声は少し呆れたようなものに変わった。

「…収録中なんすよね。こーのヤツ迷惑かけてないすか」

「鋼」じゃなくて「こー」って聞こえましたが。台詞の身内感が凄いのですが。というかTVだとわかってまず言うことがそれって。自己紹介とかじゃなく、村上くんの心配ってそんなのお兄ちゃんだ。今日から数日間は実際にお兄ちゃんだもんね、うん。いやそうじゃない。あの口の悪さ態度の悪さを村上くんに注意されることだってある影浦くんが…お兄ちゃんみたいなこと言ってる。上手く表現できないけど堪らない気持ちになった。その後の流れが全然頭に入ってこなくて、配信で見直そうと心に決めた直後、嬉しい嬉しい公開電話は終わろうとしていた。

「じゃあ、また。おやすみ」
「おう。んじゃあ失礼シマス」
「カゲおめでとう」
「何回言う気だ切んぞ」

ぷつり、と切れた電話。途端に女性陣を筆頭としたスタジオの面々が村上くんのほろ酔いっぷりを指摘したり可愛いとイジり始める。共感しかない。だけど、凄く気になったのは最後の影浦くん、ちょっと笑ってたよなぁ…ってことだ。わかりにくかったけど、絶対笑ってた。
村上くんがフィーチャーされたのは1時間番組のほんの5分程度の間だったけど、それでも胸がいっぱいになった。最後に柿崎さんと一緒にワートリのドラマ新シリーズの宣伝をしていた時もずっと笑顔で、これが3Cが言っていた「酔うたら鋼くんはずっと笑うてるよな」「笑ってくれる　なに言っても」「へらへらしてる」状態の村上くんなのだと思うと、感慨深い。やっとお目に掛かれました。





そしてやってきた、我らが村上鋼くん&穂刈篤くんのお誕生日。ラジオは影浦くんの時と同様、当日放送とはいかないわけだけど。お祝い企画はそれはもう大満足だった。何故か1人だけ年下になった水上くんを6月生まれのお兄さん達で甘やかすという内容だったのだけど、笑いすぎて頬が痛くなるくらい楽しんでしまった。隣部屋の人が寝ていることを願いつつ深夜まで起きていた。眠気に負けず仕事を終えて勝手ながらお祝いをしようとケーキを購入していた時のこと。タッチ決済の為に取り出していたスマホに何やら動きが見られた。タイミング的にもしやと直感する。電車に飛び乗り、空いているのをいいことに躊躇なくストレートネックとわかる格好をとった。

『何日か前に集まれるヤツで誕生会飲み。
　鋼すげえ酔ってたから家まで送った。楽しかったらしい。』

何かと話題のマウント王が降臨したのだ。

「か、拡散の勢いすごい…」

思わず呟いてしまう程には凄まじい。文章に加えてお誕生日のタグに、キャップとマスクを身につけながらも笑顔とわかる鋼くんの写真。キャップに添えられてる指は、撮影者の荒船さんのものだろう。売れっ子俳優のこんな投稿、拡散されるに決まっている。朝ドラの出演決まってるんだぞこの人。
数分後に『悪かった……』と村上くんが返信していた。『無事か』『抱かれてねえか』『だから言ったんだ　危ないからやめろと』恐らくお誕生日会に参加した面々が悪ノリをする。お酒の席でそういう冗談が口にされたのだろう。所謂、内輪ネタのノリだ。わかっている。わかっているのだけど……大喜びしているファンもいれば、気落ちするファンだっているわけで……穂刈くんも、タグだけで自分の写真がないことに怒ってくれ。
電車を降りてからはスマホを見ずに家まで足を動かした。心の整理をする為だ。

マウント王こと、俳優の荒船哲次さん。私の推しである村上くんと影浦くんの共演者で友人だ。そして村上くんとの仲の深さをアピールしがちなイケメンである。荒船さんの村上くん推しが嫌なわけでもない。彼が提供してくれる2人の情報に踊らされる私だって間違いなく存在して、決して印象が悪いだとかそういうわけでもないのだけれど。ただ、立て続けに人気作に出演して最近は何やら受賞式にも呼ばれ、以前より知名度が上がったせいなのか。荒船さんのファンの盛り上がり方が、引っかかる時がある。今回のことだってきっと…荒船さんと一番仲が良いのはやはり村上くんだ！とコメントする人がいる、はず。もう何となくわかっている。
そりゃあ私だって村上くんと影浦くんの特別仲良し感溢れるエピソードに歓喜するタイプの人間だ。だから、人のことは言えない。それでも村上くんは優しいから一番とかそういう順位づけなんてしないだろうという彼個人に対する理想とか、私達が知っている交友関係なんて教えてもらっている一部分だけだものという理性とか、そういうものを抱えながら推し活をしているわけで。アイドルでもあるまいしと言われるかもしれないが…荒船さんも、自分のファンを喜ばせるような言動ばかりじゃなく、もうちょっと満遍なくファンサービスや配慮とか、してくれてもいいのではとたまに複雑な感情が顔をのぞかせてしまう。いけないとは思いつつ、こればかりはコンビ推しのファン心理だ。許してほしい。

帰宅して荷物を机に置き、着替えを済ませる。よし、整理は済んだ。なんだかんだ冷静で頭脳派と噂の荒船さんだ。今回の悪ノリを収束させるコメントの一つくらい出してくれているかもしれない。あ、村上くんの謝罪に返信してる。

『可愛かったから別にいい。誕生日おめでとう。』

なんだその、思わせぶりなコメントはーーーーー…？！！

お洒落な紅茶でも準備しようと考えていたはずが、思わず、冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを引っ掴んでテーブルに叩きつけていた。
以降、村上くんが誰かからお酒の席に誘われたエピソードが出ると「抱かれんぞやめとけ」とコメントするファンが現れて界隈で炎上することになる。日々の小さなストレスとなっていたその蛮行が取り沙汰された際、「キメェからやめろ」とラジオで言い放った影浦くんを私は一生信じると誓った。