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    uncimorimori12

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    uncimorimori12

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    みずいこ
    さとぴ誕生日おめでと〜
    このネタ皆やってるけど俺は書いてないから書くぞ

    #みずいこ
    waterLake

    天国にいちばん近いところ 君はなぜ冬という季節がクソ寒いのかを知っているだろうか。
     日照時間が短いから? 地球が公転してるから? 北半球の宿命? いいやいいや、全部不正解。よくもまあゴミのような解答が出揃った。正解は『愛しい恋人が隣にいない寂しさを北風が刺すから』だ。
     勿体ぶった癖になんだそのポエミーでセンチメンタルな答えはと批判する者もいるだろう。馬鹿らしいと鼻で笑う者も。それらの人間の反応を俺は否定しない。実際、ほんの数年前までならば自分も同じ様にアホらしいと呆れ、鼻で笑い、無駄な時間を使ったと出題者に三行半を突きつけさっさとその場を立ち去ったことであろう。しかしまあ、人間とは常に出会いという名の矯正装置により価値観の変容を迫られ化学反応を起こし、昨日の自分とは全く意見が合わなくなることなんてザラに発生する悲しき生き物である。よって、どちらかと言えば他人の悲壮感たっぷりのlemonだかなんだかを笑う側の人間だった俺は、気が付けば今年の冬は隣に騒がしくて忙しなく愛しい恋人がいない事実に打ちひしがれ一人のアパートで萎びる情けない男に作り変えられてしまったのだ。全く、夢ならばどれほど良かったことだろう。
     それならばなぜ俺が愛しい恋人の元をわざわざ離れ一人寂しくアパートで身を切る寒さに凍えながら持ち帰った仕事に明け暮れているのか、疑問に思ったのではないだろうか。別に破局したとか、喧嘩したとか、そんな理由ではない。むしろ自分達は上手く関係を育めていた方だと思う。では何故か。それは俺自身が恋人に直接「しばらく顔を見せないでください」とお願いをしたからだ。

     突然の辞令であった。
     年明けのこと、人使いの荒い上司は俺を呼び出すと「メディア対策関西支部を作るから暫く向こうで指揮を取ってくれ。関西は水上君のホームグラウンドだろ」と悠然とデスクに肘をつきながら口にした。むしろ「暫く故郷で仕事できるじゃん。良かったね」と顔に書いてあるくらいには悪びれる様子も無く、俺を無情にも関西に飛ばしたのだ。
     いきなり問答無用で俺を関西に出荷した上司のキツネ顔には心中で鼻フックをかますとして、確かに上司の言う通り三門の地に対して特別な思い入れがあるわけでは無い。ソースは種類が少ないし、雑に関西弁をいじってくる輩はいるし、他にも挙げればキリがない程には不満がある。三門の地で培った人脈もあるが、それも数年離れるのが身を切るほどに辛いのかと問われれば、全くぜんぜんそんなことは無い。今はスマホでいくらでも連絡が取れるし、今生の別れでもない。どうせ数年経てば自分はまた三門の本部に戻ってくるのだ。その時に今いるメンバーが全員揃っているとは思わないが、それで連絡が途絶えてしまう様ならば所詮その程度の仲だったのだろう。人生とは根底から価値観が覆されるようなエキセントリックな出会いもあれば、反対に打ち捨てられるような別れもある。自分はどちらかと言えば別れという物に対しドラマ性を求めない人種であった。
     ならばどうして、ここまで自分がぐずったかと言うと。それはただひとえに同棲真っ只中の恋人がいたからに他ならない。アタックやら丸め込むやらうんたらして交際にまで漕ぎ着けたイコさんとは、大学時代からの付き合いでもうかれこれ五年以上になるだろうか。俺とイコさんがお付き合いに至るまでの紆余曲折については盛大に割愛させていただくが、無事『イコさんの彼氏』の座を射止め五年間じっくりと恋人として甘やかされ尽くした結果、俺はとてもじゃないがたかが二、三年程度の遠距離恋愛にも耐え得ることが出来ない身体に作り替えられてしまっていた。数ヶ月に一度会ってデートしてセックスする程度の繋がりで満足できる気がまるでしない。腐るほど電話をしたとしてまだ恋しくなる。会えない時間に変な虫がイコさんにつかないかと不安やら嫉妬に駆られ居ても立っても居られない。そう情緒不安定になってしまう自分が瞼の裏に鮮明に浮かび上がった。
     ならば、どうするか。悩んだ末出した結論は『出張中の数年はイコさんとは顔を合わせない』というものであった。恐らく一度会ってしまえば自分は我慢が効かなくなり、もっとイコさんを求めてしまう。顔を合わせている間はそりゃ楽しいだろうが、その分離れた時の喪失感も一入だ。共にいれる時間が穏やかで楽しく美しい分、再び離れた時自分が自分を保ったまま生活を送れる自信がまるで無かった。
     よって、俺は年度始まりから数年関西に出向することと、その間は連絡は取るが会うことは避けたい旨とその理由について断腸の思いでつらつらとイコさんに語って聞かせた。イコさんは俺の話にうんうんと頷きながら黙って最後まで聞くと「寂しいけど仕方ないなあ」と、なんともアッサリと俺の主張を受け入れた。そして「角煮って食うてる間も美味いんやけど作ってる間もなんや楽しない? 今もキッチンからむっちゃお肉のええ匂いするもんな。これだけでご飯食べれるわ、俺。でも最近どうも胃がもたれるようになってなあ、やっぱ若い頃のまんまとはいかんわ。あ、でも安心してな。これ作った後そんまま冷蔵庫で急速冷蔵すんねん。すると余計な油は浮くし、味はしみしみになるしええこと尽くしやねん。ヤバない? 天才かもしらん」と、マシンガンお料理うんちくトークで俺の話は流れていった。さて、この時の俺の心情を百文字以内で述べよ。正解は『アンタが俺と同じ気持ちやなくてもぜってえ別れてやらんからな』だ。百文字も要らなかった。まあ俺みたいな男に目をつけられてしまったのが運の尽きということでイコさんには潔く諦めてもらって死ぬまで俺に騙くらかされて頂きたいものである。

     そんなこんなでイコさんと離れ一人単身赴任で大阪にやって来てかれこれ半年以上の月日が経過した。季節は快、不快、快を経て、コタツ無しではとても過ごせない超絶不快な時期へと突入した。イコさんと付き合って数年、すっかりと忘れてしまっていたのだが自分はそういえば冬という季節がいっとう嫌いであったのだ。寒さで夜はなかなか寝付けないし、朝も起きるのが辛いし、パフォーマンスは下手したら普段の三割減といった有様である。電気代だって馬鹿にならないし、冬という季節自体が身にまとう辛気臭さもどうにも鼻について好きになれない。
     ではそんなにも目の敵にしている冬への恨みつらみを何故今年に入るまで忘れられていたかというと、それはひとえにイコさんが俺を暖めようと必死になって世話を焼いてくれていたからに他ならない。寒さに晒された途端生産性が著しく低下し、動きが億劫になりコタツ以外に居場所がなくなってしまう俺を、イコさんは「雨の岩屋戸ってこんな気持ちやったんかなあ」などと言いながら甲斐甲斐しく暖めてくれた。朝は俺が起きる前に暖房をいれ、眠気覚ましのホットコーヒーを差し出し、出かけ先ではイコさんの分のマフラーを巻いてくれ、寝る時は同じベッドに入って暖をとる。そんな生活を数年続けた結果、冬嫌いであったはずの俺はすっかり克服したどころか、むしろイコさんに合法的に構ってもらえる理由ができるとあって悪くないとまで思い始めていたのだ。
     甘かった。本当に、カスタムしまくったフラペチーノより甘い見通しであった。イコさんにこれでもかと甘やかされること数年、身体が寒い冬の季節の中触れ合う体温のぬくさに慣れきってしまっていた俺はいきなり放り出され途方に暮れた。一人での冬の越し方をすっかり忘れてしまっていたのである。冬といえばまずは朝一番にイコさんのおはようのキスで起こしてもらってイコさんが淹れたコーヒーで頭を覚醒させ、イコさんが焼いてくれたトーストを齧るところから一日が始まるのが常識ではなかったのか。こんなの詐欺だ、聞いてた話と違う、訴えてやる。
     恨みつらみはいくらでも出てくる。けれども、大阪に出向することを受け入れたのも、その間会わないと決めたのも、気が付かぬ間に骨抜きにされてたのも全て自業自得、己で決めたことである。んなこたあ言われなくとも頭では理解している。けれども、それでも、抱えてしまった寂しさだけはどうしようもない。せめて会えない分頻繁に連絡を取り合えれば良かったのだが、それも自分から会わないことを言い出した手前憚られる。まさに八方塞がりの状況としか言いようがなかった。
    「クッソ疲れた……」
     パソコンから目を離し疲労を訴え始めた眉間を揉み込む。休日でもこうやって家のパソコンの前に齧り付いているのだ、いくらブルーライトをカットしたところで追いつかないだろう。俺は一旦休憩しようとラキストに手を伸ばした。最近ではこのように家にまでわざわざ仕事を持ち帰り処理することが増えていた。別に急ぎの仕事というわけでも無いのだが、部屋で一人何もせず閉じこもっているとついイコさんのことばかりを考えてしまうのだ。すっからかんの冷蔵庫、滅多に湯が張られない浴室、妙に広いワンルーム。そういう現実がチクチクと俺を突き刺しイジメ抜く。生駒達人という人はその体積を遥かに越す存在感でもって俺の隣でわやわやと喋り続けていたことを、一人になってから思い知らされたのだ。
     イコさんは今頃どうしていることだろう。いつも通り任務をこなし、友人と過ごし、たまに趣味の料理にでも励んでいるのだろうか。めっきり更新されなくなった俺のインスタとは違い、イコさんのインスタには近頃家にザキさんら友人を呼び手料理を振る舞っている写真の投稿が増えた。俺が一人残業しながらカップ麺をデスクで啜っている間、俺がかつて座っていた椅子にイコさんの友人らが座り、イコさんの手料理を頬張っているのだ。ほんと死にかけの理性を総動員し社会性のある大人として衝動に任せスマホを地面に叩きつけずにただ呻くだけで終わった俺を誰か褒めて欲しい。いや、分かっている。元々がほぼ詐欺みたいな形で交際にまで漕ぎ着いたのだ、俺とイコさんの気持ちが釣り合っていないことなんかとうの昔に理解している。シーソーで言えば俺がずっと地面についたまま微動だにしていない状態だ。その証拠にイコさんは俺としばらく会わないことをなんの抵抗もなく、反論もなく、素直に受け入れた。そらそうだ、だってイコさんは俺と離れたところで俺みたいに私生活が荒れてどうしようもなくなるなんてことは起こり得ない。全部分かって、承知して、それでも手に入れたかったから我慢すると決めたのに。イコさんがただいつも通りの日常を楽しく送っているという事実が、俺には喚き散らかしたくなるほどに耐え難いことなのだ。
    「……腹減ったな」
     空腹を主張し始めた腹をさする。時刻は夕方の五時過ぎ、今日一日珈琲しか口にしていない身体は流石に限界であるようだ。俺は仕方なく何か食べにでも行こうかと財布を掴む。この家にはちょっとした空腹を紛らわすためのカップ麺一つ存在していないのだ。玄関を開け外に出れば冬特有の刺すような冷たさに包まれる。俺はひとまず駅前の繁華街に向かおうと踏み出したところで、動きを止めた。
     やたら見覚えのあるシルエットが何やら駅方面から歩いてきている気がする。
     いや、そんな、馬鹿な。働きすぎてついに幻覚まで見え始めたか。そういやさっき目が疲れすぎて頭痛までしてきてたしな、うん。そう思い再度目を擦り、もう一度シルエットが見えた方向を確認する。するとそこには先ほどよりもさらに近く、ハッキリとしたシルエットの、今日一日、どころ何ヶ月も恋焦がれて想いすぎてパンクしそうなほどに頭に思い浮かべていた、生駒達人その人が呑気にキャリーケースらしきものを引きながらこちらに歩いてきているではないか。呆然と立ち尽くす俺に気がついたのだろう、イコさんはブンブンと手を振るとこちらに駆け寄ってくる。とうとう俺の目の前までやってきたイコさんは白い息を吐き出すと相変わらずの無表情で「久しぶり」と言った。
    「いやー、ホッとしたわ。住所知ってるとはいえほんまに合ってるか不安やったしな。しかもその様子やとこれから出て行こうとしてた所やろ? 入れ違いにならんで良かったわ。あ、それともこれからお出かけ? 俺バッドタイミングで来てしもうた?」
    「い、や。あの、飯食いにこうとしてただけなんで」
    「あ、ほんま? 良かったあ。俺も昼からなんも食うてないからお腹ペコペコやねん。今から一緒に食いにいこ、案内してや。あ、でもその前にお前の家に荷物だけ置かしてもらっていい? ちょお、見てやこのサイズ。デカいやろー、こんなんハリウッドセレブとかが持ってるサイズやで? お前と遊ぼう思ったら普段のキャリーじゃ入りきらんわってなってそんならもうデカいサイズ買ったら? って迅に言われてん。でも迅の言う通りにして正解やな、人生ゲームも楽々入ったわ」
    「二人で、やるゲームや、ないでしょ……」
    「あ、水上の知らないセカイやな、それは。人生ゲームは二人でやっても楽しいで。俺この間もザキとやってんけどザキむっちゃ子沢山になって車から子供溢れ出」
    「ちょっと一回黙ってもらっていいっすか?」
    「生駒黙る、了解」
     ようやく静寂を取り戻した俺は一旦目の前で起きた事象を整理しようと深呼吸をする。今日は休日。家で黙々と仕事していた俺は飯を食おうと外に出て、そしたら駅方面から暫く会わないでおこうと話していた恋人が突然やって来た。うむ、なるほど。
    「なんでイコさんおるんすか?」
     この流れの中だと至極当然な質問を投げかける。イコさんはパチパチと瞬きを繰り返すと、またぼわりと白い息を吐き出した。
    「水上明日誕生日やろ。んで俺今年の夏休みまだ取ってなくてな。ほら、ボーダーってお盆休み好きなところで取る制度やん? せやから丁度ええし思って明日から休み取ってん。今日も任務終わってからそんままこっち来たんやで」
     そうか、なるほど。俺の誕生日に合わせて長期休みを取りに来たのか。あまりに忙しくて忘れてしまっていたが、明日はカレンダー上では俺の誕生日ということになっている。例年イコさんにはケーキやらプレゼントやらで盛大に祝ってもらっていたのだ、今年も気合を入れて祝いに来てくれたということなのだろう。なんとも義理堅く情に厚い人である。だが、実は俺が確認したかったことはこれではない。
    「いや俺こっちいる間は会わんとこ言いましたよね?」
     俺もまた白い息と共に吐き出す。鼻が詰まって、声が少し上擦ってしまった。イコさんは俺をじっと見つめると、珍しくばつが悪そうな顔をする。どうやら俺との約束を忘れていたわけでは無いようであった。
    「ごめんな。お前が言い出したことやし、叶えてやりたかったんやけど。でもどうしても我慢できなかったんや」
    「は……」
    「水上がおらん部屋は寒いし、広すぎるし、寂しいし。あんまりに寂しくて家にみんな呼んでご飯食べさせたりとかしたんやけどな、俺が作った飯みんなが食べてくれてもやっぱ水上の味のあるコメントが恋しいなあって思って。そういうんがいっぱい積み重なって、もうお前に会わなどうにもならんなってところまで来てな。せやから会いに来てもうた」
    「……」
    「約束守りきれんくてごめん。でも水上に会えてほんまに嬉しい」
     真っ直ぐと、迷いの無い瞳とかち合う。その瞬間俺はたまらずイコさんの手を引くと足早に自分の家に戻りイコさんを中に引き摺り込んだ。扉が閉じた瞬間イコさんを力一杯抱きしめる。泣きたくなるほどに温かい身体から立ち昇る、汗と太陽が混ざり合ったような懐かしい香りが俺の肺を満たした。
    「俺も、俺も会いたかったです」
    「うん」
    「休み取るなら言うてくれたら良かったのに」
    「お前言ったら断りそうやったから。結構頑固やもんな」
     それは、イコさんの言うとおりである。きっと事前に相談されていたら「自分から言い出したくせにやっぱ無理ってなって会うのはダサいやろ」とか言ってイコさんからの申し出を断っていたに違いない。とっくに限界なくせして意地を張り、己のプライドを取るのだ。けれどもこの人はそんな俺のちっぽけなプライドもなんもかんもを見透かして、こうしてでっかいキャリー一つ持って会いに来てくれる。「我慢できなかった」なんて、俺がいちばん欲しかった言葉を易々とくれる。
     それがどれだけ俺を舞い上がらせるか、この人は知っているのだろうか。
    「水上ー? ずっと玄関おるんもアレやし、そろそろ荷物置いて外に飯食いに行かん?」
    「なんで?」
    「え? お、お腹空いたから?」
    「こっから外出るとか意味分からん、アホやろ、イコさんが減る……」
    「減るんか? 俺? でも確かに最近筋肉落ちてきたし食事見直した方がええかな?」
    「宅配とかでええやろ……」
    「んー、でも俺ご飯食べたらエッチする気満々やったんやけどなあ」
    「はっ!?」
     聞き捨てならない発言に俺はようやくイコさんの首筋に埋めていた顔を上げる。イコさんはまたシパシパと瞬きを繰り返すと、俺のアホ面をまじまじと覗き込んだ。
    「あれ? 俺やる気満々で来たんやけどフライングしてた? 気分とちゃう?」
    「ヤります!!!」
    「うお、声でか。でもゴムとか無いやろ? ある?」
    「あっ……、お……、あ…………、ない……」
    「そんならやっぱ買いに行かなあかんなあ」
     そう言ってイコさんは俺の腕の中から抜け出すと、キャリーを玄関の隅に寄せる。そして混乱のあまり動きを止めてしまっていた俺の手を掴むと、少しだけ鼻を赤くして言った。
    「さっさとご飯食べて、ドラスト寄って、風呂入って。そしたらいっぱいエッチしよ」
     ご飯食べて、ドラスト寄って、風呂入って、いっぱいエッチ。いっぱい、えっち。おい、いや、おい、そんな、えっ? エッチって、つまりエッチって事か。まずセックスでもヤろうでもなく、エッチって、言い方。えっちて、なあ。
    「……………………アカン」
    「ん?」
    「エロすぎる……」
    「どした?」
    「許されるんか?」
    「今日のお前ほんまおもろいな」
     俺はイコさんに引きずられるがまま外に連れ出されると、どこか夢見心地で駅の方向になんとか歩き出す。掴まれた掌が温かくて、背中も顔もポカポカする。というかむしろ熱いくらいだ。やっぱりこの人は俺を温める天才なのだろう。
    「食いたいもんとかあります?」
    「そやなあ。お腹空いてるし、結構ガッツリ中華とかでもええかな。あ、でも駅前で見かけたオシャレそうなイタリアンも気になるな。一人やと入れんけど水上となら行けそうな気するし」
    「分かりました、カレーですね」
    「えっ?」
    「パッと出てきてパッと食えるんで」
    「やる気が漲っとる」
     まあええけど。イコさんはそう言うと自分のマフラーを俺の首に巻く。暖かくて、触り心地が良くて、イコさんの香りがして。そうだ、ずっとこれが欲しかった。こうして甘やかしてくれる、この人の温もりが欲しかった。俺はまた詰まってきてしまった鼻をすする。
    「……イコさんくさい」
     鼻の頭まですっぽりマフラーに埋めながら俺は深呼吸を繰り返す。イコさんはそんな俺を眺めながら、隣で「嵐山とこの間アメ横行ったら嵐山がおばちゃん達に入れ食い状態で大人気になってアメ横が騒然とした話」を語り始めた。

     一週間後、案の定三門に帰ろうとするイコさんを前にして年甲斐もなく俺がグズりまくりイコさんを困らせ盛大にあやされたりなんだりを新大阪の駅のホームで恥ずかしげもなく繰り広げ周囲を恐怖のどん底に突き落としたりするのだが、まあその話も割愛させて頂く。
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    uncimorimori12

    PASTみずいこ
    Webオンリーで唯一ちょとだけ理性があったとこです(なんかまともの書かなくちゃと思って)
    アルコール・ドリブン「あ、いこさんや」
     開口一番放たれた言葉は、普段の聞き慣れたどこか抑揚のない落ち着いたものと違い、ひどくおぼつかない口ぶりであった。語尾の丸い呼ばれ方に、顔色には一切出ていないとはいえ水上が大変酔っていることを悟る。生駒は座敷に上がると、壁にもたれる水上の肩を叩いた。
    「そう、イコさんがお迎え来たでー。敏志くん帰りましょー」
    「なんで?」
    「ベロベロなってるから、水上」
    「帰ったらいこさんも帰るから、いや」
    「お前回収しに来たのに見捨てんって〜」
    「すみません生駒さん」
     水上の隣に座っていた荒船が申し訳なさそうに軽く頭を下げる。この居酒屋へは荒船に誘われてやって来た。夕飯を食べ終え、風呂にでも入ろうとしたところで荒船から連絡が来たのだ。LINEを開いてみれば、「夜分遅くに失礼します」という畏まった挨拶に始まり、ボーダーの同期メンツ数名と居酒屋で飲んでいたこと。そこで珍しく水上が酔っ払ってしまったこと。出来れば生駒に迎えに来て欲しいこと。そんなことが実に丁寧な文章で居酒屋の位置情報と共に送られて来た。そんなわけで生駒は片道三十分、自分の家から歩いてこの繁華街にある居酒屋へと足を運んだのである。
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    uncimorimori12

    DONEみずいこ
    書きながら敏志の理不尽さに自分でも爆笑してたんで敏志の理不尽さに耐えられる方向けです。
    犬も食わない「イコさん」
     自分を呼び止める声に振り返る。そこには案の定、いや声の主から考えても他の人間がいたら困るのだが、やっぱり街頭に照らされた水上ひとりが憮然とした顔でこちらに向かって左手を差し出していた。はて、たった今「また明日な」と生駒のアパートの目の前で挨拶を交わしたばかりだと言うのにまだ何か用があるのだろうか。生駒は自身のアパートに向かいかけていた足を止めると名前の後に続くはずの水上の言葉を待つ。すっかり冷え込んだ夜道にはどこからか食欲をそそられる香りが漂ってきて、生駒の腹がクルクルと鳴った。今晩は丁度冷蔵庫に人参や玉ねぎが余っていたのでポークシチューにする予定だ。一通り具材を切ってお鍋にぶち込み、煮えるのを待ちながらお風呂に入るという完璧な計画まで企てている。せっかくだしこのまま水上を夕飯にお誘いするのも手かもしれない。うん、ひとまず水上の話を聞いたら誘ってみようかな。そこまで考えて辛抱強く水上の言葉を待ち構えていたのだが、待てども暮らせども水上は口を開くどころか微動だにすらしない。生駒は訳が分からず水上の白い掌と顔を交互に見比べた。
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