右腕の恋人「ライナー!ここにいたか!」
「あ?なんだ?」
バンっと自習室の扉が開いたかと思うと、整髪料で髪をびっちり固め、黒の革ジャンを着込んだ不良男(暑くないのだろうか)が、こちらを指差して叫んでいた。
「お前!昨日の飲み!すっぽかしやがって!」
「あぁ」
革ジャンの不良男ことジャン・キルシュタインは、イライラとした様子でツカツカとバイクブーツを鳴らしながら歩み寄ってきた。
ジャンが苛立ちをぶつける張本人、ライナーはこともなげに「忘れてた」と答えてみせた。
「お前目当てに集まった女子連中、白けてすぐ帰っちまったんだぞ!」
「ジャン、いい女がいなかったからって俺に当たるなよ」
「おーおー女に不自由してないジョック様はいいよなぁ!電話もメッセも無視しやがって!ほんとにフリーなのかぁ!」
「そんなに気になるか。今は右腕が恋人だ」
「そんなん聞きたかねぇよ!…おいベルトルトォ!お前ジョックのメッセンジャーしてんだろ!スケジュール管理ちゃんとしろ!」
ライナーの隣で我関せずとレポートに使う資料をまとめていたベルトルトは、急に矛先を向けられて目を丸くする。
「えぇ…?」
「つーか、次はお前が来てくれてもいいぞ。どこぞのジョック様はお忙しいみたいだし?」
それにお前だってどうせフリーだろ?なんて失礼な言葉を投げかけられ、ベルトルトは困惑気味に眉を八の字に下げる。
「え?えぇと、僕は…」
「おいジャン、ここ自習室だぞ。そんなに興奮してはしゃぐな。周りに迷惑だ」
「別にはしゃいでねーよ!文句言いに来ただけだ!」
「じゃあもういいだろ。埋め合わせは…まあ、また今度な」
「…チッ仕方ねぇな」
ライナーの一言で、まわりから注目を浴びていたことに気づき、冷静になったジャンは大人しく引き下がった。
「あ、ジャン。それからな」
バツが悪そうに踵を返そうとするジャンへと最後、ライナーは一言声を掛ける。
「コイツは、彼女を作る隙なんて一ミリもないんだ。だから誘うな」
「…は?」
ライナーの言葉にジャンは怪訝な表情を向けたが、ライナーの微笑みとその隣で強張った表情をしたベルトルト、そしてそんなベルトルトの肩をゆったりとライナーが抱くのを見て、何かを察したように目を逸らした。
「あー…はいはい。わかりましたよ…」
もうあいつら、二度ッと誘わねぇ!
そう考えながらジャンはそそくさと自習室を後にした。