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    パイプ

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    パイプ

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    燐音の口調が不安...
    次回、もうちょっと燐音出る予定なんだけどな...

    #ひよジュン
    Hiyojun

    九尾の日和と人の子ジュンと白虎の燐音ここ数日、日和の様子がおかしい。
    いや、おかしいといっても自生しているハーブから作ったお茶はよく飲むし、たくさん採れた木の実でつくったパイも、どこに入るのかと疑問に思うほどには食べるので病の類ではない。ただ、ジュンの話を殆ど聞いていなかったり・・・というのは都合が悪いといつもだが、ぼーっとする時間が長かったり、かと思えばウザいくらいに騒いでいたりする。
    何かあったんだろうなと想像はつくものの、もう何年も日和の選び与えるものだけを世界だと思っていたジュンにはその"なにか"についての想像が及ばない。
    不安だ。時折「お仕事だね」と出掛けてしまう日和にはきっと自分の知らない日和の世界がある。そこで何かあったのか?と思わなくもないが、以前、会合とやらで嫌なことがあったらしい日には家が壊れるのではないかと思うほどの騒音をたてながら怒り、最終的には「悪い日和」とジュンの腹回りでめそめそ泣いていたのでたぶんちがう。怒りも泣きもしていないから。
    他の理由・・・と考えてある一つの可能性が浮かんでから、ジュンの瞳に影がさす。
    (おひいさん、きっと他に楽しい場所ができたんだ。そこにはきっと、オレよりも愛しい存在がいて・・・)
    膝を抱えて丸くなる。これは哀しくて心が苦しい時のジュンの癖。「哀しい時、心がつらくなっちゃった時、ジュンくんは膝を抱えてできるだけ小さくなろうとするね。でも、ぼくがいるからにはそんなに寂しいことはさせないね。寂しい時はぼくがだきしめてあげようね。」と日和が教えてくれたもの。そんな事を言っていたのに同じ部屋にいるはずの日和の目には自分は映っていないようで。その事実にまた哀しくなって無意識に身体をちいさくする。

    ぐるぐる、ぐるぐる。思考が重く暗く渦を巻いていく。
    一度悪い方に引っ張られてしまうと、そのままズルズルと落ち続ける。オレはいらない。邪魔な子。オレがいなくなれば、おひいさんは自由に行きたいところにいけるんだ。いらない、いらない・・・そっか。
    回り続けた思考は最悪の着地点へと落ちる。いらないと分かればやるべき事はひとつ。ここから出て行かなきゃ。

    そっと立ち上がり、大好きだった家を出る。そういえば、先日勝手に出掛けて日和に怒られたところだったと足を止めかけたけれど、いや、怒られることももうないんだと小さく頭を振って一歩を踏み出す。どこへ向かって歩けばいいのか分からない。この地に来てから殆どの時間をあの家の周りだけで過ごして来たからどこに何があるのかも知らない。そもそもこの辺りって誰かいるのだろうか。寝食できるところはあるのだろうか。分からないけど進むしかない。どれくらい歩いたかも分からなくなってきた頃・・・ぁあ、あの頃と同じだなとふと立ち止まる。訳もわからず両親の元を飛び出したあの頃。無償の愛というものを日和に与えられて初めて知った。それからは毎日が幸せで、あたたかくて。でも、こんなに辛く哀しい気持ちになるのなら知らなければよかった。知らなければただ辛いだけだったのに。また心が痛くなってその場にうずくまる。


    「あれあれあれ?見かけねェ顔だな?」

    知らない声に顔をあげると、そこに立っていたのは白く美しい毛皮と着物を纏った人だった。
    「おめェさん、どこから来たんだ?てか、こんなとこで蹲ってたらあぶねェっしょ?」
    日和以外に人の姿をした者から話しかけられるのは両親以来だった為、ジュンは固まってしまってうまく声が出ない。ただ、目の前の男を観察する。
    赤い髪に青い瞳。はっきりとした顔のパーツはどれも整っていて日和とはまた違ったタイプの美形だ。この辺りには綺麗な顔の人しかいないんすかね?と場違いな事を考えていると鼻先に手を翳される。
    「お〜い!聞いてンの?話せねェの?」
    少し鋭くなった目つきにハッとしてようやく言葉を紡ぐ。
    「あ、あの、オレ・・・えっと、」
    話し出してみたものの、なにを言えばいいのか分からず結局口を詰むんでしまう。
    「ん?てめェもしかして、日和ちゃんとこの子?なんだァ?日和ちゃんの愛が重すぎて逃げて来ちまったの?」
    きゃははと変わった笑い方をする男にジュンは目を丸くして驚く。
    「おひいさんのこと、知ってるんすか?」
    「ん?あの最恐の九尾を知らねェ奴はここいらにはいねェよ。」

    どこか軟派な印象を持つ男は人ではなく白虎という妖怪らしい。名前は燐音。日和のことを"最恐"と評したことが気になって話を聞くつもりが、思いの外話術に長けていて気づけばジュンはなぜ日和の元から抜け出して来たのかをこの男に話していた。

    「へぇ。言葉足らずのすれ違いってところか。」
    小さく呟かれた燐音の言葉はジュンの耳には届かず、何を言ったのか聞いてみてもはぐらかされてしまう。
    「ま、折角逃げて来たンだ。俺っちがちょいと外の世界ってヤツを教えてやんよ!」

    おら!と抱え上げられて連れてこられたのは池のほとりの大きな木。池に突き出すように伸びた太い枝に降ろされる。日和もそうなので別段驚くことはなくなったが、どこから取り出したかのか、手に釣り竿を持った燐音が二本のうちの一本をこちらに差し出してにかりと笑う。
    「この池には五メートルを超える池の主がいるらしいぜ。釣るか引き摺り込まれるか、命懸けの勝負といこうじゃねェの!」
    なんだそれ。と思ったものの、ここまで来てしまって断る理由も池の主とやらに食われて困る事もなくなってしまったので燐音から釣竿を受け取る。それに、そんなにデカい魚がいるのなら見てみたいという興味もないわけでもない。
    「お?いい度胸じゃねェか。」
    「別に。そんなにでかい魚って見た事ないですし。それに・・・オレが死んでも困る人はいないんで。」
    ジュンはそう答えた後、釣り糸を投げて池に向き合う。燐音からの返事がなく、ただ沈黙が流れる空気に素っ気なさすぎたかと不安が溜まっていく。気まずい。そう思っていると燐音が同じように釣り糸を垂らして静かに話し出した。
    「さっき聞いた話と今のジュンジュンの言葉で大体のことは分かった。まずはジュンジュン。てめェは日和ちゃんに思ってる事を話した事、ねぇっしょ?俺っちたちみたいな妖者ならまだしも、人間のジュンジュンが思ってる事を日和ちゃんが全部理解してくれると思ってる事がまず大間違いだ。」
    燐音に言われてはっとした。日和に思いを伝えた事?今までにあっただろうか。全てが伝わるとは流石に思っていなかったが、ジュンの望む事は日和が先回りして叶えてくれた事が殆どだった。
    分かりやすく落ち込むジュンに燐音は更に言葉を続けた。
    「勿論、ジュンジュンにも悪い点はあるっしょ。けど、今回悪ィのは日和ちゃん。言葉が無ェと伝わらないなんて事は全部分かった上でジュンジュンの言葉を待たずに手を差し伸べてきた。しかも、自分が困ってる時にジュンジュンに何も話さずにおめェを不安にさせちまった。領主・・・ジュンジュンにとっての絶対であるのなら自分を信じて着いてきてくれる民を不安にさせるなんてことはあっちゃならねェ事っしょ。」
    一瞬、ギラリと光った燐音の瞳とその言葉の裏に隠された強いなにかを感じてジュンは言葉に詰まる。でも、これだけは言わなきゃと竿を持つ手にぎゅっと力を入れる。
    「・・・ちがいます。おひいさんはぁっ?!おわっ!!やば」
    竿が引かれる。これは、当たりなんてかわいいものじゃない。いよいよ落ちるかと思った時、一瞬ふわっと竿が軽くなる。
    「おわ?!」
    池の主が、跳ねた。
    「ッ!やべェ、手を離せ!ジュ・・・」
    燐音の焦る声に慌てて手を離すも、数瞬遅く、跳ねた主にあわせてジュンの身体が宙に浮く。まるでスローモーション。いつも日和に抱かれて森を飛び回る時のような感覚だ、と思っている間に目の前は主の口で真っ暗になり———ジュンは食べられてしまった。


    あぁ、死んだのか。
    ジュンが目を開いたそこは光の一切ない、真っ暗な場所だった。あまりの闇に自分の輪郭さえ曖昧だ。先程見た池の主に食われて死んだのだ。・・・そう思うとジュンは心がふわっと軽くなった気がした。
    これでおひいさんに迷惑を掛けなくて済むと、そう思った。正直、日和の元を飛び出してみたものの、日和の元以外で生きられる気がしていなかった。こうやって痛みを感じる間もなく死ねたのであればなんて幸せな事だろうかと。そう思った。
    ふと、全身の力が抜ける。思えば短いながらに数奇な人生だったなとそっと瞼を伏せようとした時、鈍く、肉の裂けるような音と共に目の前に光が広がった。

    「ッ、ジュンくんっ!!!」
    次の瞬間、ジュンは日和の温もりと香りに包まれる。こんな幸せなオプションまでいいんすかねぇ?と日和を見上げて、その苦しい表情に息を呑む。どうしてそんな辛い顔をしてるんです?笑ってください。と手を伸ばそうとして、今度こそジュンの意識は遠のいた。


    ふわり、ふわり。意識が浮上する。死ぬ時ってこんなに何回も意識が浮上したり遠のいたりするもんなんすねぇ〜と他人事のように思う。・・・ん?なんか、うるさい?意識がはっきりするほどにどうやら近くで言い合っているであろう声が輪郭をもって耳に入ってくる。・・・これは、おひいさんと燐音って人の声?正確に声を拾った瞬間、ジュンはがばりと起き上がる。
    「なんでおひいさんたちも死んじまったんですか!」
    自分で思っていたよりも大きな声が出たようで、言い合いをしていたはずの二人が目を丸くしてジュンを見ている。
    「なんで、どうして?もしかして、オレを助けようとして主に食われちまったんですか?オレなんて、放っておいてくれればよかったのに・・・!!」
    そう言い震えるジュンをいつの間にか側にきた日和がふわりと抱きしめる。
    「ジュンくん、落ち着いて。誰も死んでなんかないね。ジュンくんも、ぼくたちも生きてる。・・・ほら、ぼくの鼓動を聞いて。」
    言われるままに日和の身体に体重を預けて鼓動を感じる。———生きてる。
    「たしかにジュンくんは池の主にぱくっと食べられちゃったけど、燐音先輩が主の腹を掻き切って助け出してくれたね。・・・元はと言えば燐音先輩が悪いんだから感謝はしなくていいね!悪い日和っ!」

    感情の忙しい日和になお抱かれたまま、ジュンは燐音から主に食われてから此処に戻るまでの話を聞いた。日和と燐音が言い合っていたのは、燐音がジュンを危険な目に合わせた事と、ジュンの失踪は燐音が連れ去ったからだと思い込んでいる日和からの叱咤だったようだ。
    「ジュンちゃんくんが主に食われちまったのは俺っちの責任だ。それは悪かったと思ってるよ。謝る。だが、俺っちがジュンちゃんくんを連れ去ったってェのは違うって言っても聞き入れて貰えねェんだよ。これはおめェの口から納得いく理由が聞けるまで黙らねェぜ?」
    怒涛の展開にツッコむのも忘れていたが、「ジュンジュン」とか「ジュンちゃんくん」ってなんだよ。と思う。まぁ、そんな事を言っている状況でないのは流石のジュンにも分かったので言及はしないが。
    オレが、この家を去った理由。話してしまって大丈夫だろうか、またおひいさんを縛り付けてしまわないだろうか、と忘れかけていた不安が積もっていく。

    「・・・ジュンく「ジュンジュン。また、日和ちゃんに手を差し伸べさせるのか?言わなくて不安になったンだろ?なら、自分で勇気を出さねェとっしょ?」
    「ちょっと、燐音先輩!「日和ちゃんは黙ってろ。黙ってジュンジュンの話を聞いてやれ。・・・ほら、ジュンジュン。てめぇの気持ちってヤツを喋ってみな?」

    燐音に促されて、ゆっくりと少しずつ思いを打ち明ける。燐音の言葉は不思議だ。あんなに言えるわけが無いと思っていた言葉がすらすらとはいかずとも出てくる。不思議な力に後押しされているみたいに。
    おひいさんの様子をおかしく感じた事。それが前回の"お仕事"の頃からだったから外の世界に気に入った子ができたんだと思った事。ジュンのことを・・・いらなくなってしまったのなら消えなきゃいけないと思って家を出た事。ここまで話した後にもうひとつ、とずっと心のどこかで感じていた事を打ち明ける。
    「オレ、おひいさんのことなんも知らない。・・・知りたいです。オレが弱いから、知っても何の役にも立たないからだって、分かってるんです。分かってるけど、アンタのこと知って、丸ごと愛してやりたかった・・・!!」キリキリと痛む胸の辺りをぐっと掴んで自傷気味に笑う。「ははっ。後の祭りってやつですよぉ。アンタに大切な人ができる前に言えりゃよかったっす。こんな事、今更言われても、」
    迷惑ですよね、という言葉はそのまま日和のキスに呑まれてしまった。
    「ん、んぅ・・・ッ、は、」
    どのくらい貪られたか。最初こそ抵抗しようとしていたジュンの力が完全に抜けた頃、日和から解放される。
    「ばか!ジュンくんのおおばかさん!・・・いや、ばかはぼくだね。自分のことにいっぱいいっぱいになっちゃってきみの変化に気づいてあげられなかった。ごめんね。きみのことを何よりも大切にしていたはずなのに。」
    ぽとりと一粒、日和の瞳からこぼれ落ちた涙にジュンは内心で大きく取り乱す。自分が日和を泣かせてしまった。こういう時、どうすればよかったっけ?泣いてる時。悲しい時。日和ならどうしてくれたっけ?そこまで考えてジュンは自然と日和のことを抱きしめていた。ベッドの上に膝立ちになって、左手は日和の頭を包み込み、右手でその背中をとんとんとタッチングする。うまい言葉はでてこないけど、泣かないで。笑ってくださいと気持ちを込めて優しく触れる。

    「ふふ、ジュンくん、慰めてくれてるの?ありがとう。あと、頑張ってたくさんお話ししてくれてありがとね。あのね、ぼくからも、ジュンくんに聞いてほしいお話があるんだ。少し長くなるけど、」
    聞いてくれる?と微笑んだ日和の顔があまりにも綺麗で、気付けば初めてジュンから日和にキスをしていた。
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    パイプ

    PROGRESSお久しぶりです。
    久しぶりすぎてこの世界観に帰ってこれてないかもしれない...
    今回、一旦最終章となります。
    生きる時間の違う九尾と人の子は果たして同じ時間を同じ気持ちで生きていくことはできるのでしょうか?
    九尾の日和と人の子ジュン「燐音先輩。」
    「きゃはは!どうしたァ?ジュンジュンちゃんよお。そんなマジな顔しちまって。遂に俺っちにホレちまった?」
    「人の子って大人になっても変化していくもんですよね?」
    「は?」

    日和が会合とやらで出掛けていると風たちが噂しているのを聞き付けた燐音がジュンで遊んでやろうとこの家に遊びに来たのが凡そ一時間前。ところが今日のジュンはどこか浮かない顔をしていて、いつもならやれやれと言う顔をしながらも燐音の悪戯や遊びに付き合うジュンだが今日はそれさえもなく、やっと口を開いたかと思いきや先の一言だ。

    「ナニそんな当たり前のこと聞いてンだ?成長して老化して死んでいくっしょ?ニンゲンなんてモンはよォ?」
    その当たり前さえコイツは知らないままここに来たんだっけかと燐音が思い直しているとジュンは「そっすよね」と知っていたような口ぶりで返して視線を完全に窓の外へとやってしまった。
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