幕間会議室、手首を拘束されたまま行儀悪く座る鳴瓢を前に、百貴は彼の態度を咎めない。荒んだ顔の男が言う。
「名探偵ってなんで俺の顔なんですかね。
ランダムで生成した架空のアバターのほうが
都合がいいでしょ、自分を思い出しちゃいけないっていうなら」
「名探偵の姿には被験者自身の記憶と精神状態が反映されていると推測されている」
「俺、あんな調子のいいこと言ってそうですか?」
にやにや笑う鳴瓢、複雑そうな顔の百貴。
「名探偵は謎を解くのが仕事だ。投入された名探偵は、他のあらゆるものがほとんど気にならないように精神状態を調整される。その過程で、名探偵として最大のパフォーマンスを発揮できる時代が選ばれるのだろうという話だ。身体(しんたい)に不都合なく、健康で、気力体力ともに充実している……頃が」
《↑台詞かぶせ》
過去の記憶。大急ぎで仕事に出かけるときの玄関、見送る綾子の笑顔。路上で犯人を取り押さえる瞬間。振り仰ぐと百貴がいる、息せき切って鳴瓢のもとに駆けつけた彼が「仕方ないな」とでもいうふうに笑う。
(会議室のふたり)鳴瓢は少し真顔になるが、また薄く笑う。わずかに俯いている百貴の顔には影が差している。
シーン切り替え。嵐の空。数字の地面にしゃがむ酒井戸の背中。目覚める前の七井戸の背を起こすところ。
(モノローグ)今の百貴さんじゃない。
酒井戸と同じくらいか。(目を閉じている七井戸の顔)
(酒井戸の横顔)
誰からも信頼されてきた人だ。
でも今のほうが部下との関係性は深いだろう。
(記憶:井戸端の面々に駆け寄られている百貴をチラ見する鳴瓢)
体格が落ちたようには思えない。
給料だって比べ物にならないはず。
それでも……
酒井戸、口元だけのカット
渦巻く空を見上げ、七井戸を抱え上げた酒井戸——暗い瞳の鳴瓢が不敵な笑みを浮かべる。
「残念だったな、井戸端。
お前らは選ばれなかった。
——悪く思うなよ」
(モノローグ)どこまでだって逃げてやる。
あなたを人殺しにするくらいなら。
歩き出す。
砂嵐に背中が消える。