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    sazanka_1031

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    sazanka_1031

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    『寒い雪の夜、待ち合わせに大遅刻するデュースをシルバーがただ待つ話』

    #シルデュ
    sirdu
    #SS

    【SS】待ちぼうけ*注意書き
    ・成人後設定(デュースが夢を叶え、警察官になっています。)


    大丈夫な方はどうぞ↓

     雪の降る夜のこと。18時に待ち合わせをしようと約束した時計の針は、もう19時半を指している。
     はあ、と白くなる息を吐くと、それはたちまち夜空に消えていく。いつの間にかコートも肌も、空気に触れて冷たくなっていた。

     スマートフォンを取り出し、メッセージの羅列を確認する。
     待ち合わせ場所についてから、10分後に送ったメッセージ。
    『今、どこにいる?』
     30分後に送ったメッセージ。
    『何かあったのか?』
     1時間後にかけてみた通話の、応答なしの文字。
    『待っている』
     直後に送ろうとして、やめたメッセージ。

     デュースは、警察官の仕事を終えてから来ると言っていた。仕事で何かトラブルがあったのならこれ以上連絡をするのも迷惑だろうと、それ以上のことはしていない。
     冬特有のイルミネーションが煌々と輝く街の中で、ただひとり、彼を想って待つ。
     だが、俺の胸は度々、不安を覚えた。ただ、仕事が忙しくて、返事もできないようなことなら、いい。だけど、もし、アイツの身に何かあって、それで連絡さえ取れなくなっているんじゃないかと思うと、今すぐアイツの仕事場まで赴いて彼は大丈夫かと問い詰めそうになってしまう。

     ……落ち着け。まだ、たった90分。一時間半のことだ。身体を暖めようと飲んでいたコーヒーもすっかり冷めてしまったが、まだ、向こうへ押しかけるようなことをするには早すぎるといえる。

     ふう、ともう一度息を吐く。俺がひとりアイツを待つ公園のベンチには、恋人たちの姿がある。……デュースが、今頃あんな風に他の人と何かをしているとは、思わない。アイツは、そういうことができるほど器用や薄情ではないはずだ。だけど、そんな仲睦まじい恋人たちの姿を見つける度に、俺は今、ひとりここで何をしているんだろうかという気分にはなる。
     とはいえ、一度ホテルへ戻るというのも、なんだか虚しい。というよりも、もし、この場を離れている間にデュースが現れたらと思うと、この場を動きたいとも思わない。

     学生時代、俺はアイツに告白した。好きだと思ったから好きだと言ったら、デュースは照れて顔を赤くした。それが俺たちの始まりだった。
     アイツと過ごした3年間の学園生活で、幼い恋愛感情を少しずつ育み、ナイトレイブンカレッジを卒業して、それぞれの夢へと歩き出した。
     それでもやはりたまには逢いたいと、手紙だ通信機器だなんだと連絡を取り、今日この日にも薔薇の王国へと赴いて待ち合わせをすることになっていた。

     その結果が、これか。なんて、呆れる気持ちにもなる。本当に何かあったんじゃないだろうかと、心配して、焦る気持ちにもなる。
     ああ、早く、元気な姿を見せてくれたら。元気な姿で小走りして、少し焦った顔をして、ごめんなさい遅れました、とひとこと言ってくれたら、それだけでこんな気持ちのすべてを許せるのに。――デュースは、まだ姿を見せてくれない。

     心に動揺や焦燥が出たのを認めて、瞑想でもして心を落ち着けるか、と眠らない程度に目を細めれば、通りすがりの誰かにお兄さんもひとりですか、と誘いの声をかけられた。人を待っているから、と断れば、さっきからずっと待ってるみたいですけど、本当にその人は来るんですか、と尋ねられた。

     俺は答えた。もしも来ないとしても、まだこのまま待つ、と。女性は、そうですかとどこかへ行ってしまった。

     ふと、かじかんだ手を暖めて、思った。このことを知ったら、誰かが、俺のために怒ってしまうだろうか。俺は、あと何分までなら、こうしてデュースを待っていることが許されるだろう、と思った。



     ――時計の針は、21時を指そうとしている。これ以上、この場で待つのは、良くない気がしていた。
     単純に、寒空の下で眠気が来てしまったら、身体に悪影響がある、というだけではなく。これ以上の時間を待たせてしまったと思わせるのは、デュースにとっても申し訳なく、良くないことだ。そんなことに、今さら思い至った。
     やはり、一度ホテルへ帰って身体を暖めるべきだったろうか。どこかの自動販売機で暖かいコーヒーでも買って寒気と眠気を覚ましたら、もういい加減に移動してしまおう。そう、思った矢先。夜空の奥に、揺れる群青の影が見えた。想像していた通りの小走りで駆け寄ってきてくれるソイツは、紛れもなく待ち人で。
    「……先輩! ごめんなさい、遅くなりました……っ!!」
    「ああ、デュース……」
     俺の目の前に来たデュースは、がばりと頭を下げる。
    「本っ当にすいませんでした!! 僕、連絡も取れないで……! 事情、はあるんですけど、そんなの言い訳ですよね……。先輩なら、待っててくれるんじゃないかって、甘える気持ちがあったんだ、きっと……。本当、すいません……」
     デュースは申し訳なさそうな顔をしているが、俺にはもうすっかりデュースを責める気はなかった。デュースは想像していた通りに、駆け寄ってきてくれたから。
    「事情が、あるんだな? なら、それは、甘えるではなく、信じると言うんだ、デュース。……お前が、来てくれて良かった。今まで何をしていたのか、聞かせてくれ。きっと、怒る必要はないから」
    「先輩……」
     デュースの手が俺の頬に触れる。こんなに冷えて、とデュースは言うと、どこからか出したブランケットを俺の肩に被せ、俺の手を握って、とにかく近くの適当な店入って、まずは身体を暖めましょう、そのぶんは絶対奢りますから、と言った。

     その後、近くの喫茶店に入り、暖かなコーヒーと、きのこと野菜のリゾット、それからカボチャで出来たポタージュスープを食べることになる。俺はリゾットだけでも十分じゃないかと思ったが、スープも飲んでくださいと言われたのでそうすることにした。
     それから、ようやくデュースに今までの事情を聞くことができた。デュースは、退勤間際、迷子の子どもが警察署にやってきて、母親を探していたのだという。そして、見つけた母親はその子の弟妹を妊娠した妊婦であって、産気づいていた。だから、慌てて病院まで付き添っていて、母親の関係者などに連絡をつけていて、バタバタして連絡が出来なかったのだという。……そうか。そうだったのか。暖かなスープに身体の冷えがほぐされるのと一緒に、心の冷えも暖められていく感覚がする。
    「お前自身の身に、何かあったんじゃないのかと心配していた。……無事、務めを果たしてきていたんだな」
    「……本当、すいません。仕事優先して、シルバー先輩のこと、後回しにしちまった。僕、なんて言ったらいいか……」
    「そんなに気にするな。俺もお前の夢は応援したいと、ずっと思っているんだ。確かに、待っている間にはいろいろな物思いがあったが……。お前が、あまり泣きそうな顔で走ってくるものだから。……つい、許せてしまった」
     だから、そろそろ申し訳なさそうな顔をするのはやめてくれ、と言えば、デュースは、また泣きそうな顔をした。
    「少し遅くなってしまったが……。ここからは俺がもらってもいい時間、なのだろう? 事情は分かって、俺が許したんだ。楽しい話をしよう、デュース」
    「……はいっ!」

     それから俺は、デュースと共に少し遅めの夜の逢引を楽しんだ。煌々と輝くイルミネーションの中、言いたかった言葉なんて、すべて忘れてしまいながら。

    *おしまい
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