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    手入れバグの話

    #くりつる
    reduceTheNumberOfArrows

    金繕い 手入れバグ、なのだという。
    「いつ直るのかはわからんが、まあ、血は止まっているから問題はなさそうだな」
     そういって鶴丸は傷口を撫でた。
     本来ならば、手入れ部屋に入ればそこは再生されるはずである。しかし今は、痛々しいほどの傷跡が残っていた。出血が多かったのか頭がぐらぐらすると鶴丸は枕から頭を起こすこともできない。手入れ直後の貧血症状は珍しいことではなく、これについては深く気にする必要はなさそうだった。
     大倶利伽羅は、ゆっくりと傷口を撫でる。
    「痛むか」
    「いいや。それについては問題ない」
     傷口は硬い。まるで瘡蓋のようであったが、異なるのは傷口が輝いていることだ。金継ぎのように、鶴丸の傷口は金色に光っている。鶴丸の白い肌に、金はよく映えた。
    「まあ、破損を修繕しているのだから、相違ないだろう。よくよく考えてみれば、俺たちは怪我をすればすぐに手入れ部屋送りになるし、そうでなくたって溢れる血で傷跡などまじまじと見ることはそうないから、こうして眺めるのはなんだか面白くもあるな」
     日常でできる軽い切り傷ならともかく、戦場で負う傷は軽傷であっても必ず帰還後に手入れするのがこの本丸の鉄則である。確かに、こうやって傷跡を見るのは珍しいことだった。
    「戦い方がよくわかるだろ。傷口を眺めながら、敵がどういう動きをしていたのか改めて考察するのも勉強になるものだな」
     背中には傷がない。真正面からすべての攻撃を受け止めていたのは、鶴丸らしいともいえる。笑う鶴丸の頬にも、金の線が引かれていた。
     ふと、思い至ってそこを舐めてみた。
    「おい」
    「……味はしないな」
     血の味もしない。一応、手入れ自体はできているからだろう。ふむ、と考える大倶利伽羅に、鶴丸は呆れたようだった。
    「きみ、ときどき驚くようなことをするな」
    「その割には嬉しそうじゃないな」
    「俺が望む驚きにはほど遠いからだ」
     なにが違うというのだろう。大倶利伽羅は身体を起こした。一応、手入れは終わったのだから手入れ部屋は出るべきだろう。まだ身体を起こすのは辛そうだが、そろそろ第二部隊が帰還する。部屋は空けておかなければならない。
    「なあ、この傷口を見てどう思う」
    「あいにくそれに景色を見出すほど、美的感覚に優れてはいない」
    「金継ぎのようだからってそこまで望んじゃいないさ」
     では、なにを望んでいるのか。鶴丸の考えることなど、大倶利伽羅にはわからない。そう返すと、鶴丸は拗ねたように唇を尖らせ、手を伸ばした。起こせ、とのことらしい。溜め息を吐いて、腕を引っ張り、そのまま身体を抱える。
    「腹を斬られたからせめて横抱きにしてくれよ」
    「傷は塞がってるだろう。問題はない」
    「きみの顔が見たいからに決まっているだろう。馬鹿め」
     背中から聞こえる声に、思わず止まった。しばらく悩み、仕方がなく鶴丸の望みの通りの抱え方をする。大倶利伽羅の首に腕を回した鶴丸は嬉しそうに、からかうように、笑った。
    「俺はそう、美的感覚に優れているわけじゃないが、」
     先ほどの鶴丸の問いに、今更ながら大倶利伽羅は答える。
    「うん?」
    「誉疵を美しいと思わないやつはいない」
     ぱちん、と鶴丸は瞬きをした。長い睫毛が揺れ、傷口と同じ淡い金色が大倶利伽羅を見上げる。
    「だろ!」
     大倶利伽羅の言葉は鶴丸にとって百点の答えだったのか、ぎゅっと鶴丸は強く大倶利伽羅に抱きついたのだった。
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    PROGRESSセンチネルバース第三話 進捗報告 後半も書き終わったらまとめて推敲してぴくしぶにあげます
    忘れ草③進捗 耳を劈く蝉の鳴き声、じめじめと肌に纏わりつく湿気、じりじりと肌を焼く灼熱の陽射し。本丸の景色は春から梅雨、そして夏に切り替わり、咲いていたはずの菜の花や桜は気付けば朝顔に取って代わられていた。
     ここは戦場ではなく畑だから、飛沫をあげるのは血ではなく汗と水。実り色付くのはナス、キュウリ、トマトといった旬の野菜たち。それらの世話をして収穫するのが畑当番の仕事であり、土から面倒を見る分、他の当番仕事と同等かそれ以上の体力を要求される。
    「みんな、良く育っているね……うん、良い色だ。食べちゃいたいくらいだよ」
    「いや、実際食べるだろう……」
     野菜に対して艶やかな声で話しかけながら次々と収穫を進めているのは本日の畑当番の一人目、燭台切光忠。ぼそぼそと小声で合いの手を入れる二人目は、青白い顔で両耳を塞ぎ、土の上にしゃがみ込んでいる鶴丸国永だ。大きな麦わら帽子に白い着物で暑さ対策は万全、だったはずの鶴丸だが仕事を開始してからの数分間でしゃがんで以来立ち上がれなくなり、そのまますっかり動かなくなっていた。燭台切が水分補給を定期的に促していたが、それでも夏の熱気には抗えなかったようだ。
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