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    インクの話

    #くりつる
    reduceTheNumberOfArrows
    #文具沼住人な大倶利伽羅くんと本の虫な鶴丸さん

    文具沼住人な大倶利伽羅くんと本の虫な鶴丸さん① 大倶利伽羅の部屋は物が多い。とにかく、物が多い。綺麗に整頓されているから散らかっているという印象は受けないのだが、私物の多さでいったらおそらく本丸一ではないかと鶴丸は思っている。
     まず、万年筆だけで三十はある。そのほかにも、ボールペンだとかガラスペンだとか、書く道具だけでかなりの数になるのだ。それらは綺麗にケースに納められていて、大倶利伽羅は非番の日によくそれを眺めていた。表情筋が硬くなかったらそこに笑顔が浮かんでいたかもしれない。
     筆よりも現代に出てきた筆記用具の方を好むようで、よく自分のノート(これもまた、大量にあるのだ)に和歌や漢詩を書き写している。書いている内容には興味なく、ただ書く題材として選んでいるだけのようで、真顔で恋の歌を書き写していたときは、流石の鶴丸も驚いた。

     主に言わせれば、大倶利伽羅は「文具沼の住人」らしい。

     ある日のことである。大倶利伽羅が木材を大量に切っていたのでどうしたのかと尋ねると、棚を作っているのだという。買うのじゃ駄目なのかいと首を傾げると、高さや奥行が好みではないと返すのだ。数日後、大倶利伽羅の部屋には完成したばかりの木製の棚が置かれ、そこには大量のインク瓶が並んでいた。
     完成した棚を見て満足げに頷く大倶利伽羅の姿に、沼の住人というのはすごいものだなあと鶴丸は感心したのである。
     鶴丸も、彼が大切にしているものを無粋に触れたりなどはしたくないから、大倶利伽羅の趣味をただ見守っていた。ちょっとうちの伽羅坊、変わってるかも、とは思いつつ。
     鶴丸がとある時代に遠征中、売られていた限定品のインクを見て、なんとなくそれを買ってみた。地方の店舗限定なので大倶利伽羅は所持していないかと思ったし、たとえ持っていたとしても消耗品だ、不要ならば自分が使えばいい。
     そんな感じで帰ってラッピングもされていないそれをポイッと大倶利伽羅に渡せば(大袈裟に渡すのは押し付けがましいと思ったのだ)、意外や意外、大倶利伽羅はとても喜んだ。顔こそいつもの仏頂面ではあったが、少しばかり頬が緩んでおり、感謝する、とまで言われてしまった。思わず、きゅんときた。
     なあ、使ってみてくれないか。
     と、ねだってみるくらいはいいだろうと思う。
     大倶利伽羅はひきだしの中から、一本のガラスペンと、メモ帳を取り出した。
     なにか書いて欲しいものはあるか、と問われたため、じゃあ俺の名前と鶴丸は答えた。
     ガラスペンが紙を走る。黄緑色の線が、意味のある言葉を作っていく。
     ——鶴丸国永。
     小さなメモ帳に書かれた文字が、なんだか嬉しい。
     次、きみの名前。
     続けて願えば、鶴丸の隣に大倶利伽羅の文字が書かれる。
     それを嬉しく思いながら、眺めた。
     これくれよ。
     メモ帳を指差せば、大倶利伽羅は一枚千切って鶴丸に差し出してくれた。
     今度なにか礼をすると言われたが、構わないさと鶴丸は首を振った。
     これだけで満足だからな。
     大倶利伽羅が大量にある筆記用具で鶴丸の文字を書いたのはそれきりのことであるが、その一枚のメモ帳は今も鶴丸の部屋の目立つところに飾られている。大倶利伽羅が渋い顔をしていても、こればかりは鶴丸の特別なのである。
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    DOODLEドッペルゲンガーだった鶴丸と一振り目の大倶利伽羅の話
    ドッペルゲンガー、恋を知る。第四話 窓辺に吊したてるてる坊主がこちらを見ている。
     鶴丸が顕現した春から季節は過ぎ、本丸には梅雨が訪れた。遠征先で雨は体験していたものの、毎日続く雨には驚きもなくうんざりとさせられる。じめじめとした湿気は気分を憂鬱にさせられるし、気晴らしに外へ出ることもできない。なにより、いつもの習慣であった大倶利伽羅との手合わせができないのは辛かった。道場は手合わせの相手を求める刀剣男士たちでいつもより溢れかえっていて、彼らと一汗流すのもよかったが、やはり大倶利伽羅との手合わせが鶴丸にとって格別なのだというのを再認識してしまうのだった。
    「ええと、これは、美術の棚か」
     書庫の中、鶴丸はワゴンを押す。
     青江の勧めに従って、鶴丸は書庫の管理人となった。司書と呼ぶには知識は足りないので、本当にただの管理人に近い。それでも返却された本を棚に戻したり、今まではなかった貸し出し管理簿を作ったり、やることはそれなりにある。特に、書庫の書籍をリスト化する仕事はなかなかやりがいがあった。鶴丸が顕現するまで本は適当に管理されていたらしいというのは青江から話には聞いていたが、終わるまでにどれくらいの時間がかかるものか。
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    PROGRESSセンチネルバース第三話 進捗報告 後半も書き終わったらまとめて推敲してぴくしぶにあげます
    忘れ草③進捗 耳を劈く蝉の鳴き声、じめじめと肌に纏わりつく湿気、じりじりと肌を焼く灼熱の陽射し。本丸の景色は春から梅雨、そして夏に切り替わり、咲いていたはずの菜の花や桜は気付けば朝顔に取って代わられていた。
     ここは戦場ではなく畑だから、飛沫をあげるのは血ではなく汗と水。実り色付くのはナス、キュウリ、トマトといった旬の野菜たち。それらの世話をして収穫するのが畑当番の仕事であり、土から面倒を見る分、他の当番仕事と同等かそれ以上の体力を要求される。
    「みんな、良く育っているね……うん、良い色だ。食べちゃいたいくらいだよ」
    「いや、実際食べるだろう……」
     野菜に対して艶やかな声で話しかけながら次々と収穫を進めているのは本日の畑当番の一人目、燭台切光忠。ぼそぼそと小声で合いの手を入れる二人目は、青白い顔で両耳を塞ぎ、土の上にしゃがみ込んでいる鶴丸国永だ。大きな麦わら帽子に白い着物で暑さ対策は万全、だったはずの鶴丸だが仕事を開始してからの数分間でしゃがんで以来立ち上がれなくなり、そのまますっかり動かなくなっていた。燭台切が水分補給を定期的に促していたが、それでも夏の熱気には抗えなかったようだ。
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