いちごあじ「一旦、休憩にしましょう」
青い人の声を合図に大の字に寝転がる。
今日は放課後の時間を使って、Switchとの合同ライブに向けてダンス練習をしている。
相手は最近ノっているユニットだから自分達も負けてはいられない。
「明星くん、さっきのところもう1回いいかな?」
「もちろん!」
申し訳なさそうに話しかけてくるウッキーに対して返事をして、足を振り勢いをつけて立ち上がる。
今回のライブでは新曲を7人で歌う。
月永先輩が俺たちのために書いてくれたと聞いている。
ソロパートもあるその振付はSwitchが担当した。
ダンスにも力を入れているSwitchだから、その振付は普段俺たちが踊るものより難易度が高い。
ダンスが苦手なウッキーはついて行くだけで精一杯という様子だった。
「あれウッキー、そこってこうじゃなかった?」
「あれ? そうだったっけ?」
「えー、そう言われると俺も自信ないな〜」
2人で正解を探すが埒が開かない。
ここは振り付けを考えた本人に確認するのが良いだろう。
そう思い辺りを見回すが、目的の人物が見当たらない。
「あれ、夏目は?」
飲み物でも買いに行ったのだろうか。
でも夏目のことだから、水分は事前に用意していそうなものだ。
その答えは夏目より低い声に返された。
「すみません、夏目くんは少し疲れてしまったみたいなので先に練習を再開していてください」
その声の奥には、心配そうな顔をした黄色い子と壁際に横になる夏目の姿があった。
青い人は"夏目は疲れた"と言っていたけれど果たして本当にそうだろうか。
学年1位の成績を誇る彼が、この程度の練習で根を上げるとは到底思えなかった。
体調でも悪いのだろうか。
「え、夏目大丈夫?」
「大丈夫ですよ。俺が夏目くんについているので、宙くんも練習に混ぜてあげてください」
「宙もししょ〜についています!!」
こちらの会話が聞こえていたらしい。
黄色い子はこちらをみあげて声をあげた。
「ソラ」
その優しい声色に、黄色い子は振り返る。
夏目は、2人にしか聞こえないような声で何かを話しているようだ。
黄色い子も最初は抵抗していたようだが、最後には諦めたように小さな声を出した。
「わかりました......」
黄色い子がタッタッタッとこちらへ駆けてくる。
俺の前で立ち止まるとジッとこちらをみてコテンと首を傾げる。
「きらきらのおにーさん、一緒に練習してもらえますか?」
「もちろんだよ!」
「HiHi〜、ありがとうございます」
いつも通りの俺でいられただろうか。
――あぁ、かなわないなぁ......
「ハァ......ハァ............」
――振付はそこまでハードにはしていないはずなのに...
今回はtrickstarとの合同ライブだから、と気合を入れ過ぎただろうか。
膝に手をつき呼吸をするが息が整う気配はない。
「一旦、休憩にしましょう」
長い時間続いていた練習もセンパイの声で休憩に入る。
今のうちに水分補給をして息を整えないと。
フラフラと自分の荷物に向かって歩みを進める。
――あれ、なんか視界がチカチカするような......
「ハァ......ハァ............ッ」
急に感じた頭への鋭い痛みに思わずしゃがみ込み床に手をつく。
またやってしまった。
前回は徹夜明けでろくに食事も摂らずにユニット練習をして、ターンのタイミングで目眩に襲われ倒れてしまった。
その時にセンパイから散々食事は摂るようにと注意されたのに......。
また今日も朝から何も食べずに練習をしてこれである。
「夏目くん」
センパイの優しい中にも怒りを含んでいるような声が聞こえる。
――あとでまた怒られるんだろうな、いやだな
そんなことを考えながら目眩と頭痛に耐えていると甘い香りを感じた。
いちごの匂いだろうか。
「......く......あ............」
センパイが何か言った後、口に砂糖の甘さが広がった。
――うん、やっぱりいちご味だ
予想が当たったことを得意気にしながら、いちご味を舌で転がした。
「ちょっと失礼しますね」
どれくらいの時間が過ぎただろうか。
飴はまだそれなりに質量を感じるから、そこまで時間は経っていないと思われる。
センパイは僕の耳元に一声かけて、膝裏に手を滑り込ませた。
きっと抱えられているんだろう。
嗅ぎ慣れた匂いと、よく知る体温はボクをひどく安心させた。
ほんの少し揺れたあと、まるで割れ物を扱うかのようにおろされる。