転生武田家〜馬場信春との出会い「——それでですね、この提案で進めると予算が30万ほどかかりまして……はい、はい……」

戦国時代に名を馳せた武将たちが転生した世界にて、一人の武将が労働に勤しんでいた。その名は『内藤昌豊』。彼は新米のコンサルタントとしてこの世界の常識と社会人経験を積んでいる。

「……承知しました。今週中に契約書を作成しますので……はい……本日はありがとうございました。失礼します」

時刻は13時を過ぎ、昼休憩にしようと席を立つ。キッチンの冷凍庫にある冷蔵庫からパスタを取り出して電子レンジで4分半待ってから食べ始めた。

「ふぅ……この生活にもだいぶ慣れてきたかな。最初はひとりぼっちで戸惑ったけど、まさか取引先が相模の獅子が社長の会社だとは思わなかったよ。僕以外にも転生した武将がいたなんてね。ところで、御館様や信春たちは一体どこにいるんだろう。ずっと探しているけど見つからないんだよね。少なくとも僕の会社にはいなかったし、街中探してもいない。もしかしてこの世界にはいないのかも……」

パスタの容器を捨てて仕事に戻ろうとしたその時、インターホンが鳴る。画面越しに覗くと見覚えのある人が立っている。

「どちら様ですか？」

この形式言葉もようやく覚えたもので、最初は何も言わずに扉を開けたこともしばしばあった。

「……馬場信春」

扉前に立つ男は名前だけ言う。しかし昌豊は何かを察してすぐ玄関へと向かった。

「……久しぶりだね、不死身の鬼美濃」
「あぁ……だがその呼び方はやめてくれ。一度死んだ身。もう不死身ではないのだ」
「……とりあえず上がって。僕はまだ仕事が残ってるから夕方以降しか構えないけどそれでもいいかい？」

信春をリビングに招き、先ほど食べたパスタの違う味を用意した。

「君と会えて本当に嬉しいよ。ここに来るまで、何をしていたの？」
「寺で世話になっていた。あの頃は何も思い出せなくてな。掃除して修行して食事をするだけの生活を送っていた。だが数ヶ月前、突然記憶が蘇ったんだ。そこからは御館様やお前たちを見つけるため旅をしていた」
「そうなんだ……」
「ずいぶんと回り道をしたが、やっと見つけられた。あとは昌景と御館様と高坂に会いたいのだが、まだ手がかりが掴めない。何か知らないか？」
「うーん、仕事の合間に探してはいるんだけどよく分からないんだ。特に御館様は何一つ情報が無くて——」
「そうか……」

しばらくの間沈黙が続く。御館様たちが自発的に記憶を取り戻し、こちらに来てくれるなら探す手間は減るがそうでない場合、自分から動かなければならない。しかし平日は仕事がある。となると動ける者は信春しかいない状況。かといって全てを頼るわけにもいかない。

「あ、仕事！ さっきも言った通り夕方まで空いてないから、テレビでも見て待ってて！ 何かあったら2階の部屋にいるから！」

時計を見た昌豊が慌てて部屋に戻り、リビングには信春だけが残された。

「この世界でもあいつは多忙なのだな」

ソファーの上に置かれたリモコンを手に取りスイッチを押すと、今の時間はワイドショーが放送されていた。時間潰しとしてぼうっと見続けていたが高校サッカーの話題になり、とある人物の紹介になった途端、目を見開いた。

「山県、昌景……？」

コメンテーターが言うには、この世界の彼は富士見野高校の2年生で部長としてチームをまとめ上げる存在。その高校は今年初の全国大会出場ということで昌景自身、優勝せんと意気込みをインタビューを受けていた。もう少し詳しく調べたいと持っていたスマホで検索する。（ちなみにこのスマホは旅に出る時にプレゼントとしてもらったという）しかし昌景に関する情報はそれ以上得られず、名前と高校だけ知って終わった。

その日の夕方、仕事を終えたであろう昌豊がリビングにやって来たので信春はすぐに声をかけた。

「え、本当？！」

先ほど検索したページを再び開き、昌豊に見せる。

「この人？ 風貌、ずいぶんと変わってるね」
「言われてみれば確かにそうだな。名前だけで反応してしまったが……」

元の世界では背がとても低く、醜いとはいかずとも美男子とも言えない顔形をしていた。しかしここではそこそこの背丈（それでも170cmはないだろう）で犬系男子の顔をしている。痩せ型であることには変わらないが、見た目が大きく変化している。

「会いに行ってみる？ 僕たちのこと、覚えてるかもしれないよ」