ビスケットを焼こう!(ビスケットの煌めき) 真っ暗闇の中で一人泣いていると、そっと僕の涙を拭うものが現れた。その指はとても大きく、体も人の何倍もの大きさなのだと知れた。
「何を泣いている」
「母さんに叱られて」
「何を叱られることがあったのだ」
「わからない。ゼータと仲良くなれたらいいのにと言っただけ。それだけなのに」
いつも優しい母さんが見たこともないような顏で怒り狂った姿を思い出し、また涙が出た。母さんはいたって普通の母親だ。僕が悪戯すれば叱り、甘えれば抱きしめてくれる。こんなわけのわからない怒られかたをしたのは初めてだった。
「ああ、ああ、そんなふうに泣くんじゃない。どれ、顔を見せてみろ」
さっき涙を拭った大きな指先が僕の顎を掬った。そいつは相変わらず暗いところにいて全貌が見えないのだが、天井近くには青い光が二つ。こちらを向いているのだから、あれが目なのだと僕は思った。
1916