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    小島🐬

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    影菅 1h程度で書く練習

    #影菅
    kagesuga

    サマーカット'14 言うまでもなく2人に学生向けアパートの風呂場は狭い。エアコンの冷気が少しはここまで届いているはずだけど、やっぱりじっとりと蒸し暑い。影山はおとなしくゴミ箱を抱え、空っぽのバスタブの縁に腰掛けていた。菅原が操るハサミの小気味良い音だけが響く。
     明日から合宿だから、また髪切ってくださいといきなり頼んだのは影山だった。
    「お前さあ、最初から姉ちゃんに切ってもらえよ」
     どのくらい前だったか、影山がこの部屋に行った時、「バーバースガワラ開店」とか言って半ばその場のノリで散髪が始まり、その出来は菅原曰く「どちらかと言うと失敗」だった。散髪代渡すからこのまま床屋行ってこいと命じられたが、影山は本当に仕上がりなどどうでもよかったので断って帰った。
     そうしたら、たまたま帰省中だった姉に手直しを施されたのだった。
    「ご家族にプロがいながら、俺はなんつう……」
    「あれは頼んだわけじゃないです。そういや、美羽が俺の髪は初心者向きじゃないって言ってました」
    「初心者向きの髪質とかあんの?影山の髪、ド直毛だからかな」
     前回の反省を生かし、風呂場には影山家から持ち込まれた新聞紙が敷かれていた。半裸の影山の胸から上にも雑に新聞紙が巻き付けられている。
    「あれからネットで動画見てカットの研究したからさ」と菅原は言った。次があるかも分からないというのに、妙に真面目なところがある。確かに前回よりいくぶんスムーズな様子だった。本職よりも真剣な表情で、慎重な手つきのわりに躊躇いなくジャキ、ジャキと切っていく。
    「けっこう短くしていいんで」
    「暑いもんな。バリカンあったらツーブロにできるのに」
     髪型の名前だということはなんとなく分かるけど、影山の頭には2枚ブロックのイメージしか湧いてこない。
    「でもツーブロなんかにしたら影山モテちゃうからな〜」と歌うように菅原は言った。風呂場に声が響いて少し耳に残る。あちい、と言いながら腰をかがめてこちらを覗き込んでくる目線が、なんだか新鮮だった。
    「あ、いっそ田中リスペクトで刈っちゃう?」
    「気合い入っていいかもしんないすね」
    「言ったな?バリカン買っとくぞ?……つーか、先輩って後輩のヘアカットまで担うもんだっけ」
     おかしそうにそう言われ、後輩たちの姿をなんとなく思い浮かべて、あいつらの髪なんてこれっぽっちも切ってやりたくはねえな、と考える。3年になり、影山なりに主にプレーに関して導いたり気を配ったりという振る舞いも多少は板についてきたものの、あの時の菅原のような先輩には到底なれそうもない。
     短くなった前髪を指で整えて、ちょっと身体を離して全体を眺め、うん、まあまあまあ……と菅原は誰にともなく呟いた。
     いつの間にか、その指先にもぺらぺらのTシャツから伸びる腕にも、デニムをまくった脚にも、自分の真っ黒い細かい毛が無数に張り付いていた。たぶん湿っているからすぐには取れない。白い肌の上のそれらがひどく邪魔くさいものに思えて、一本残らずすべて払い落としたいような乱暴な衝動に駆られ、影山は戸惑いとともに目をつむる。言いようのない苛立ちを持て余して、まぶたの裏の暗がりに意識を向けようとしても、その先の白さばかり焼き付いている。
     硬い刃がこめかみの辺りに当たる感触がする。また、菅原の指がさっと額を払う。目元の毛をやさしく落とす。影山は、そんな風に無遠慮に目の前の相手に触れることなどできないのに。
     身動きが取れないのがもどかしい。今すぐここを飛び出して走りたい。思いきりサーブを打ちたい。
    「おい、動くなよ!もう終わるから!」
     焦ったような声でふたたび目を開くと、こちらを見下ろして笑っている菅原からぽたりと水滴が落ちて、影山のくちびるの端を濡らした。あ、しょっぱい、と思った。
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