手と手 本当に付き合ってんのかな、俺が?あの及川と?とバスに揺られながら菅原は思う。
恋人らしいことは何もしていないので未だに実感がわかない。これから二人で会うということすら、なんだか信じられないような気がする。
それでも及川は、毎回ちゃんと待っている。バス停の横にまっすぐ立って、笑顔で手を振っている。真冬の暗い夕方に不釣り合いな存在感を放って。
カフェでたわいない話をしているだけで時間はあっという間に過ぎて、さっきのバス停の向かい側に並んで座ってバスを待つ。暖房のよく効いた店内とコーヒーの温もりはとうに消え失せていた。
辺りは真っ暗で静かで、自分の隣にいるのが誰なのか分からなくなるような変な気分になる。俺ってまだ及川のこと全然知らないなと思う。
寒すぎて自然と身体を寄せ合うと、手と手が触れた。
「手冷たいね」
「心がホットだからな」と、どこかで聞いたような返しをする。もっと気の利いたことが言えたらいいのに。
及川が温かい指を絡めてくる。その動作はごく自然なのに、少し照れくさそうな横顔を見るとたまらないような気持ちになって、黙って二人の手ごと及川のコートのポケットに無理やり突っ込んだ。
「なに」とそっけない言葉とは裏腹に、ポケットの中で絡めた指をきつく握ってくる。
「痛いんですけど」と笑うと、「スガちゃん冷たあ」と言って、こちらに顔を寄せてくるその声、その瞳が熱を帯びている。それで菅原は他のことを何も考えられなくなる。刺すような寒さも、明日のことも。