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    こたつ

    @kotatu_gohan

    だいたい落書き。
    基本的に脱字します。

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    こたつ

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    ペンギンの飼育員さんパロ。
    ※モブ視点です、気をつけてください

    #チルライ

    「日曜日は蜂蜜のかんばせ」 幼い顔つきの少年に目を惹かれたのは偶然だった。娘にねだられて頻繁に行く水族館。ペンギンコーナーでガラスに張り付く小さな後ろ姿を見守る。この水族館は週末に餌やりの様子を見せてくれるのだが、娘はとりわけそれがお気に入りのようだった。今日は帰りに前回欲しがっていたキーホルダーを買ってあげようか。そんなことを思っていた際、その少年と目が合った。ぐりりと大きい目に不釣り合いな顰めっ面。比較的幼い子供が多いガラス周りに、小柄とはいえ小学校高学年ぐらいの子がいるのはさすがに目立つ。家族との待ち合わせか何かだろうか。少年はかち合った視線をすぐに逸らして、また不機嫌そうにガラスを睨んだ。それが先週のことだった。
     まもなくしてきゃーと子供達の歓声が上がる。どうやら主役が登場したようだ。柱に沿って作られたスツールに腰を下ろす。隣の女性と二、三言挨拶を交わした。彼女の娘もあの幼児たちの軍団の中にいるらしい。食い入るようにガラスの向こうを覗き込んでいる後ろ姿に頬を緩ませていると、あの少年が視界に入った。今日も一人。親御さんは一緒じゃないのだろうか。人の家庭にはあまり踏み入れるべきではないが、どうにも気になって目で追ってしまう。相変わらず不機嫌そうな顔つきは、我が子と同じくガラスの向こう側を見ていた。
     ペンギンたちの餌やりが始まると、幼児たちの群れが更に騒がしくなった。少しでもその様子を長く見ようと場所の取り合いが始まってしまったらしい。毎週起きるトラブルは慣れっこで、隣の母親と思われる女性と困ったものですねと笑いながら駆け寄る。顰めっ面をした少年の真隣を一瞬横切る。やっぱり小柄だなそう思った時だった。僕は見てしまったのだ。あの少年の険しい顔つきが緩み、その目が優しく細められた瞬間を。ただ、その眼差しが向いていたのは同じガラスの向こうでも、白黒の鳥類でもなかったが。
     少年の目はただ一つ、ガラスを隔てた向こうで楽しそうに餌やりをする青年だけを見ていた。寒色の多い水槽で一際輝く金茶の髪をした青年を。どうやら彼は今日の餌やり担当の飼育員さんらしかった。大柄な体躯に似合うしっかりした腕で優しくペンギンたちへ平等に餌をやる。ただそれだけの行動にも動物への愛情が伺える仕草や表情が印象的な青年だった。ペンギンたちも彼によく懐いているようで、足元にすり寄る姿は構ってほしいようにも見えた。
     一通り餌をやり、バケツの中身が空になった様子を幼児たちへ見せる。それから青年はふと視線を上げると、こちら側へキョロキョロと視線を漂わせた。そしてあの少年を見つけると照れくさそうに笑ったのだ。それはこちらまで照れるほど緩んだものだった。少しの好奇心と罪悪感に駆られながらもそっとあの少年に視線を向ける。予想通りその真っ直ぐな視線はあの少年のものだった。少年だけのものだったのだ。彼は口をはくはくと動かせて何かを伝えた後ふいとそっぽを向く。勢いよく振り向いた視線から、僕は逃げ切るタイミングを失った。どうも悪態の一つでも吐いていたようだ。少年はバツが悪そうにそろりとまた前を向いた。
    「パパー!」
     興奮冷めやらぬ様子で娘がこちらへ駆けてきた。小さな体を抱き止めて、早口で捲し立てられる言葉に耳を傾ける。拙い言葉を懸命に告げる音を聞きながら、僕はあの少年の視線の意味を理解してしまって思わずくすりと笑ってしまった。
    「パパ? お話聞いてたの?」
     もう! と怒る娘を宥めながら、胸の中に舞い込んだ甘酸っぱさをそっとしまった。他人の恋路は見ず知らずの人間が首を突っ込むものではない。頭の中で詫びながら、今度は別のスツールに座ろうと心に決めた。
    「よし、今日はペンギンさんのキーホルダーを買って帰ろうか」
     小さな恋を見送って、ペンギンコーナーを後にする。少年は気づいていないかもしれないが、飼育員の彼を見る目は時々とびきり優しい色を帯びていた。首の後ろへ手を回し見守る姿は誇らしげにさえ見えて。出来の悪い子供を見るような、それでいてどきりとしてしまうようなそんな色だった。きっと少年の視線も全てあの青年のものなのだ。
     僕は娘の手を繋いで、土産コーナーへと足を向ける。きっと来週ここへ来た時もあの険しい目つきの彼はいるのだろう。悪態を吐きながらほんのりと口元を緩ませて、ガラスの向こうを蜂蜜のような表情で眺めるのだ。
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