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    Rahen_0323

    @Rahen_0323

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    Rahen_0323

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    呟いてた「スグリ対策を密かに練っていたカキツバタ」のif話です。全て幻覚。
    ネタバレ、捏造、妄想、自己解釈、原作改変とやりたい放題です。カキツバタもやりたい放題してます。私はゲーム内でもバトル下手な部類なのでバトルシーンはフワッと読んで欲しい。
    二ヶ月前の「お前を殺す夢を見た」の派生なのでそちらから読んだ方がいいかもしれません。一部端折ったりもしてるので。
    続きは未定です。尚現在ひんしです。

    地獄の沙汰もバトル次第全ての始まりを、あの少年が歪んでしまったきっかけをオイラは知らない。
    それは他の仲間達殆ど全員にも言えることのようで、気付けばアイツは狂ってしまい、気付けばオイラ達もその暴走に巻き込まれていた。
    理不尽な侮辱に、よく知りもしない上での否定。追放。糾弾。自分も他人も追い詰めて追い詰めて。

    その果てにあるのは孤独と虚無のみと知る由も無い子供は狂って、「自分は強い」「お前らは弱い」と言い張り、"なにか"を盲信する。

    「バカげてんな」

    オイラは知ってる。強いだけでは『特別』にはなれないと。いや、少し考えれば大多数のポケモントレーナーは気付くことだ。
    だが狂気に呑まれ弱さと自分を忌み嫌った愚かな少年は気付かない。仲間として先輩として、まあ哀れには思った。誰かが目を覚まさせてやらなくてはいけない、と。
    横暴なリーダーによりリーグ部員達の心は次々離れていく。今更手遅れかもしれないが、それでも正さなくてはいけない。負けた責任を取らなくてはいけない。

    追い出すだけなら方法は幾らでもある。だがそれではダメなのだ。その方法を取ったところで、待つのは破滅だけで誰の為にもならない。

    だから頑張った。オイラがやるしか無いと思ったから。本物の頂点、最強そのものとオイラが信じて疑わないイッシュ本土のチャンピオンに協力を頼んでまで、頑張った。

    きっとアイツも一度負けてお灸を据えられれば、自分を追い込んでも仕方ないと伝えれば、きっと、きっと。

    そう祈って、そして。

    楽をするのが板についていた自分にしては、早めに準備を整えられた。

    暗い自室でモンスターボールを握り締め、大きく深呼吸を繰り返す。

    「ふぅー………よし。行くか」

    あの愚かで哀れな独裁者を『普通』の少年に戻したい。楽しかった部活を元に戻したい。

    たった二つの小さく無謀な願いを胸に、部屋を出た。

    これがあの少年にとっての二度目の地獄、その始まりになるとも知らずに。









    地獄の沙汰もバトル次第









    「おーっす皆、おはよー」
    「あ、カキツバタ先輩!おはよう!」
    「おはようございますカキツバタ」
    「おはようございます。カキツバタがこんなにも早く来るとは珍しい」
    なるべくいつもの調子で欠伸しながら部室に来ると、愛しい後輩の筆頭である四天王仲間……アカマツ、タロ、ネリネが居た。……探し人は見当たらないけれど、まあ想定内だ。
    三天王の他にも部員がチラホラ居るが、どいつも開いた自動ドアから現れたのがオイラ、カキツバタであることにホッとした様子で。
    すっかりあのチャンピオン様は怖がられてるな。悲しいことに。
    しかしアイツの絶対王政も今日で終わりだ。終わりにしてやる。こんな楽しくない日々はだーれも望んじゃないだろう。
    ……きっとチャンピオンも、スグリも本心では望んでない。そう信じていた。だって元はあの心優しい臆病な少年なのだから。
    「なあ、ちょっと訊きたいんだけど」
    「なに……ってうわ!?先輩大丈夫なのそれ!?」
    「え?」
    一刻も早く終わらせる為にもスグリを探そうとアカマツに近寄れば、何故だかギョッとされる。
    なんの心配、と首を捻っていると、両頬を両手で挟まれた。
    「隈!!凄いよ!?昨日ちゃんと寝た!?」
    「あー」
    そういえば、ポケモンの最後の調整の為に詰めててここ二、三日あまり睡眠を取っていない。辛うじて飯は食ってたけど。……食事パワーの為に。
    アカマツの大声にタロとネリネも慌てて顔を覗き込んできて、とんでもない表情になる。
    「なんでそんな顔になってるんですか!?カキツバタのクセに!!」
    「明らかな睡眠不足を確認。その調子ではスグリのことを言えない。今直ぐ仮眠を」
    「いやいや、へーきへーき。後で寝るから」
    「今!!寝て!!」
    「そんなことよりさ」
    「『そんなこと』じゃない!!」
    オイラなんかのことはいいから、早くスグリをどうにかして皆も安心させないと。スグリに至ってはオイラ以上に限界だろう。本当に勝負が終わったら休むから話を聞いて欲しい。
    キャンキャンとパピモッチみたいに吠えられるも、無視してアカマツの手をそっと退かした。
    「スグリを探してんだ。オイラ一人じゃチャンピオン戦の申し込み出来ねえからさあ。何処に居るか知らねえ?」
    「それはカキツバタの普段の行いの所為、って」
    「…………またスグリに挑むの?」
    「前回から少々期間が空いていますが。……勝算があると?」
    「まーねぃ。とっておきってやつ?」
    「それ前もその前も言ってましたよ」
    「あれ?そうだっけ?」
    チャンピオンスグリに何度目かの挑戦をすると言えば、三天王も聞き耳を立てていた部員もあまり良い顔をしなかった。
    まあ一応前までは最強とか持ち上げられてたオイラだ。負ける度に皆が落胆していたのは知ってる。もう幾度も敗北を喫しているが為に、とうに失望されているとも。

    「だけど今回は違う。ツバっさんもガチの本気なのよ」

    『スグリには勝てない』?『あの努力を超えられない』?

    そんなことは無い。勝てない相手など居るわけが無いと、そのスグリがオイラを使って証明したじゃないか。

    「努力すれば強くなれるだろ」と言ったのはアイツ本人だ。ならば見せてやればいい。「お前だけじゃなくてこっちも努力してんだ」ってところを。

    「…………まーどうせテラリウムドームか自習室だよな。知らないならいい。勝手に探してくるわ」
    「あっ、待って!分かった!オレが探してくるよ!だから先輩はちょっと休んでて!」
    「いやあいいっていいって。直接言わないと煩えだろ、アイツ」
    「それはそうかもしれませんが、でも貴方までフラフラの状態で戦うとか、そういうの良くないと思います!」
    「…………スグリは、ネリネが救いたい。でも、ネリネの気持ち以上にスグリや皆の気持ちの方が大切。ネリネも協力を申し出ます」
    「はい!!分かったらソファで横になる!!」
    「ええーー…………マジで大丈夫なのに」
    皆まで言わずとも今回は違うと察したらしい。三天王だけでなく部員達も手伝うと言って出て行き、結局オイラは部室のソファに横たえられた。
    いつになく優しい後輩達に感動と戸惑いが湧く。部室に居るかも?と思いながら来ただけで、全然「一人で探しに行けば?」とか言われると思ってたのに。

    「期待されてるってことか、それとも」

    それだけスグリに引き摺り下ろされて欲しいってことか。

    どちらも違うかもしれないしどちらも当て嵌まるのかもしれない。本当楽しくねえなあー。

    だけど、それじゃあダメだ。以前のスグリに戻す為には、どんなに精神的にも物理的にもキツくてもオイラが楽しめなければ。

    楽しく戦って、その上で勝つ。それが可能だと示さなければ同じだろう。

    大丈夫。今回は勝てる筈だ。ポケモンを信じろ。ポケモンを信じる自分も信じろ。自信を持て。そしていつものように楽しく戦えばいいんだ。

    「…………………………」

    顔を覆っていた腕を退け、大きく息を吐き出す。
    分かってる。皆の為だとか殊勝に言ったところで、全部オイラの我儘なんだ。ただ自分が楽しく過ごせる部活に戻って欲しいだけ。ただスグリの姿を見るのが苦しくて嫌で、楽しくバトルするアイツに戻って欲しいだけ。
    その我儘にポケモンや仲間を巻き込んでるのだから、オイラもアイツと同類だ。
    でも、同類だからこそ救ってやれるかもしれないと。ただ希望を抱いて、今戦おうとしてる。

    「勝つ為じゃない……チャンピオンに戻る為じゃない」

    頂点にもリーダーにもハナから興味は無い。自分より向いてるヤツは幾らでも居るとすら思ってた。だから名乗ってなかったし、実際仕事も碌に出来なかった。

    勝利だって、拘りが無いとまでは言わないが一番大事なわけじゃない。自分がポケモン勝負に於いて最も重要視するのは楽しむことだ。

    ……でも、望まれるなら。自分が部長であることを、勝つことを望まれるのなら。少しくらいは叶えてやりたい。

    オイラは皆の先輩なのだから。思い上がりでも後輩を守りたいのが先輩ってやつだろ。

    そんでもって、声無き悲鳴を上げ続けるスグリも正しい道に戻す。ネリネの「自分の手で」という熱い想いや、ゼイユの気持ちには到底敵わないだろうが。オイラで戻せるならやってやるよ。

    全部、全部、楽しく勝って、元に戻す。スグリの言いつけ通りその為の努力は惜しまなかった。だから…………

    ……正直、緊張は……する。だが覚悟は三日前に決めた。

    いつでも来いよ、チャンピオン。

    決意を固め直しながら天井を見つめていれば、暫くしてスマホロトムが鳴った。電話が来たらしい。
    掛けてきたのは……スグリの姉、ゼイユ。しかもビデオ通話だ。
    その意味を察しながら起き上がって応じる。
    「おーっすゼイユ様ー!!おはよーお疲れーい!!」
    『うわっうるさ。なによアンタ、全然元気そうじゃない。萎れた間抜けヅラが見れると思ったのに』
    「ひでー!」
    多分ネリネ辺りに諸々聞いたのだろう。本気で残念そうにされて笑ってしまった。
    あーいつものゼイユだ。彼女こそ最近元気が無さそうだったが、今日はちょっとはいつものノリで居られるらしい。よかった。
    安心しながらもそれは一切表に出さず、わざとらしく「どーしたぃ?ゼイユからなんて珍しい」と問い掛けた。
    彼女は溜め息を吐く。
    『どうしたもなにも、またスグに公式戦申し込むんでしょ。あたしもさっきネリネから聞いたわ。それで直ぐに二人で見つけたから、エントランスのバトルコートに行くよう言っといた。感謝しなさい』
    「さっすがネリネ、仕事が早いねぃ!」
    『あたしも探して説得したんですけどお!?いいからアンタもさっさと行きなさい!!』
    「へーい。手伝ってもらって悪いねえ、助かった助かった」
    『…………はぁー』
    なにはともあれ、いつでも行けるらしい。あまり待たせて帰られても困るので、お望み通り今直ぐ行ってやろうと立ち上がれば。
    ゼイユは溜め息の後にオイラを指差した。

    『今回こそ!!勝ちなさいよ!!勝って、スグにえげつない反省させるの!!もう……"学園には"アンタしか居ないんだからね!!』

    ……"学園には"、ねえ。

    まるで外には別の希望があるみたいな言い方だ。本当になにがあったんだか。

    疑問に思いながらも、オイラはなにも訊かずに応えた。

    「ま、いつも全力だと疲れちまうが……偶には本気出さねえと鈍るからよ。精一杯やらせていただきますとも」

    ゼイユは一瞬押し黙って。
    『アンタは勝負だけは常に全力でしょ!!余裕ぶってんじゃない!!ていうか走りなさい!!』
    「手厳しいー!」

    急かしてくるので、オイラもなるべく急いでエントランスに向かったのだった。















    「遅い。五分待った」
    「陰湿〜〜!五分くらい許してくれぃ!」
    エントランスに到着して早速外に出ると、待ち構えていたチャンピオン様……スグリに舌打ちされた。
    呼び出しといて後から来たのは流石に悪いとは思うが、顔見るなりそんな反応するってさあ。ツバっさん泣いちゃうぜ?
    「後輩パシって俺を呼び出す小者に『陰湿』とは言われたくないな」
    「いや違えよ!?パシってねえよ!?アイツらが自分で探すって言ったの!ツバっさんも常識くらいありますぅ!」
    「どうだか」
    「はい塩ー!」
    手を叩いて笑うとまた舌打ちだ。空気和ませたいだけだったんだが逆効果かぃ。
    「まあいい。俺と公式戦がしたいんだろ。……ホンット、お前も懲りないよな。お前は俺より弱いんだから、どうせ負けるのに」
    「……………………」
    言い返さずただ微笑んでいたら、お望みの反応ではなかったらしく顔を顰められた。なにやっても不機嫌だなコイツ。知ってたけど。
    「まあいい。そんなにサンドバッグになりたいなら受けてやるよ。お前も一応俺の次には強いからな。良い練習台だ」
    「…………へえ?」
    完全に下に見られてんなあ。まあ負けまくってるのは事実だからそれはいいけど。
    人を貶さないと死んでしまいますみたいな性根が気に食わない気持ちもある。オイラだけならまだしもそのトゲは他の部員にも刺されているんだ。助けてやりたいが、それはそうと簡単に許せるような狼藉でもない。

    だから"お灸を据えてやる"。敗北という名の否定を、コイツも味わわなければ変わらないだろうから。

    正直気は進まねえけど、しっかりボコボコにしてやらないとスグリも大変だろうからねぃ。心を鬼にしてやりますとも。

    「準備しとけ。いつも通り俺から言っとく」
    「へーい」
    スグリは溜め息混じりに事務員に話しかけ、公式でチャンピオン戦をやりたいと告げた。
    すっかり慣れた様子の事務員はオイラに呆れた眼差しを向けながら端末を操作する。『どうせ負ける』とでも思ってんのか?余計なお世話だバーカ。
    この学園の職員は教師含めてあまり慕えるタイプではないので、内心不満を零す。口には出さないけど。思うだけはタダだ。本当に言って人を傷付けるのは普通に良くない。

    なあ、分かってるか?スグリくんよ。

    「準備終わった。始めるよ」
    「………………」
    「急に静かになって……気味が悪い。お前なんなんだ?」
    審判役が現れ、いつでもいいと言うので位置につき。
    いつものルーティーンとして右手でモンスターボールを弄びながら、なけなしの余裕を絞り出して笑った。

    「いいかいチャンピオン様。今回お前に教えてやるよ。……ポケモン勝負ってのは、結局楽しんだヤツが一番強いってな」

    距離を置いて正面に立つスグリは、ピクリと反応する。

    「土の味噛み締める心の準備くらいはしとけよ?」

    何度か跳ねさせたボールをキャッチし、突き出しながら笑みを深める。

    そう、これは遠回しの宣言だ。『今回もオイラは変わらず楽しくやる』『楽しく戦った上でお前に勝つ』という宣戦布告。

    理解したスグリは益々不機嫌そうになった。

    「ホンッット気持ち悪い。やけに自信満々だな?楽しむなんて甘い考えで強くなれるわけがないだろ。この俺が!身を以て知ったんだ!!」

    彼は吐くように叫び、ボールをギリギリ握り締める。

    「負ける心の準備だって?お前こそ、ここでその自信ごと粉々に砕かれる覚悟くらいはしろよ、元チャンピオン」

    ……そんな覚悟、とうに決めてるさ。

    黙って光を失った目を見据えて、また笑う。

    「それでは!!只今よりブルベリーグ公式戦、チャンピオン戦を開始します!!」

    こんなやり取りを目の前でされて尚なにも気付かない教師は捨て置き、眼前の存在に集中した。

    「四天王及びチャレンジャーカキツバタvsチャンピオンスグリ!!勝負開始!!!」

    最早単純作業のようにスグリはボールを投げた。
    「ニョロトノ、カイリュー」
    予想通り、いつものメンツだ。『練習台』呼ばわりしながらも、オイラで新たな戦法を試すなんて真似はしないらしい。

    だがそいつは愚策だぜ、チャンピオン。

    眉を顰めるスグリを他所に、オイラもまた手持ちポケモンの先鋒を繰り出した。

    「行け!ボーマンダ!!サザンドラ!!」

    「は………!?」
    「「「えっ!?!?」」」
    何処か諦めムードが漂っていた全体が騒つく。
    特に観客席に座っていた三天王とゼイユは立ち上がるほど驚いて、オイラはこめかみを指で叩いた。
    「おいおい、なぁに驚いてんだぃ?……残念ながらオイラは皆が思うほど馬鹿正直じゃなくてねえ。まー頭捻って考えさせていただいたんですわ」
    考えた結果、ほぼ最終手段と言えるが、手持ちを変えることにした。長年固定し続けていたパーティメンバーを、全員ではないが変更したのだ。
    おまけにこのボーマンダとサザンドラは、オイラの義姉に当たる人から譲り受けたポケモン。
    正確に言うと、彼女から貰ったタマゴから孵り成長したポケモンだ。イチからそれはもう愛情たっぷりに育てた新たな仲間になる。

    驚かれるのは分かっちゃいた。勝つ為に育てたと指摘されれば言い返せない。だがコイツらを道具だと思ったことはたったの一度も無い。

    「おや?随分と驚かれてる様子だな、チャンピオン?」
    「…………!!」
    「まーいいや。始めようぜぃ?」
    ニコッと笑顔を浮かべれば、スグリは歯噛みした。

    彼は良くも悪くも勉強家だ。特に元々学園トップであったオイラの対策は散々頭に叩き込み、ポケモン達の動きもパターン化させていたのだろう。

    しかしその『カキツバタのいつものバトル』という前提が今、一気にひっくり返り崩れた。動揺するのも無理はない。

    だが、ここで負けるわけにはいかないとなんとか切り替えられたのだろう。震えながら目を鋭く見開いた。

    「大丈夫……俺は強い……カキツバタなんだから勝てる筈だ……!!」
    「へっへ……そう来なきゃなあ」
    ニョロトノのとくせいにより、フィールドに雨が降り出す。
    同時にオイラ達はポケモンに指示を飛ばした。
    「ボーマンダ、カイリューに"かみくだく"!!サザンドラも同じくカイリューに"りゅうのはどう"!!」
    「っ、ニョロトノ、サザンドラに"れいとうビーム"!!カイリューは"ワイドブレイカー"……!!」
    すばやさの種族値はオイラのポケモン二匹の方が高い。加えてレベルもこちらの方が僅かに上回っていた。
    先に動いたボーマンダの"かみくだく"でカイリューのとくせい"マルチスケイル"は意味を無くし、続け様に放たれた弱点技の"りゅうのはどう"で彼は技を繰り出す前に呆気なく倒れる。
    遅れて出されたニョロトノの"れいとうビーム"はサザンドラに直撃するも、ひんしまでは至らなかった。
    「クソッ!!」
    「よーし。偉いぜぃお前ら。……次はオーロンゲだな」
    「っ!!」

    以前まではオイラの方が手の内はバレバレだった。オイラがチャンピオンだった時のバトルなんて、こっちのなにもかもはバレてるわ逆に向こうの動きはさっぱり分からないわで殆どハンデと言えるほどスグリが有利だったんだ。

    そのアドバンテージが今ここでは逆転している。スグリはきっと焦燥で必死に頭を回転させていることだろう。

    「行けオーロンゲ!!」
    「ボーマンダ、ニョロトノに"かみなりのキバ"。サザンドラはボーマンダに"ドラゴンエール"」
    「……!?ははっ、ニョロトノにはソクノのみを持たせてんだ!!無駄だよ!!ニョロトノ、サザンドラにトドメの"れいとうビーム"!!オーロンゲは"リフレクター"、」
    ソクノのみは、持たせたポケモンに対してこうかがバツグンの時に限りでんき技のダメージを一度だけ半減させる。
    当然のようにニョロトノは耐え、スグリはこちらの動きを嘲笑うが、次には固まった。

    ニョロトノが怯んで動けなかったからだ。

    「お?"かみなりのキバ"の効果は忘れたかい?一割程度の確率でまひ状態か怯み状態になるんだぜーい」

    「な、なっ…………」
    まひを狙ったんだが、まあ上出来だろう。
    怯んで動けないニョロトノは"れいとうビーム"など撃てるわけがなく、それからオーロンゲは驚きながらも"リフレクター"を張る。
    「な、っにやって、ニョロトノ!!オーロンゲ!!」
    「ボーマンダ、もう一度ニョロトノに"かみなりのキバ"。サザンドラはオーロンゲに"ハイドロポンプ"」
    そしてニョロトノは次の一撃で倒れ、オーロンゲも元々高威力な上に雨と持たせていたものしりメガネにより威力が増した"ハイドロポンプ"でひんし寸前になった。
    ニョロトノを倒したボーマンダが咆哮する。
    「おっと、きあいのタスキ持たせててよかったねい?スグリくん?」
    「こ、のっ……!!オーロンゲ!!倒れる前にサザンドラを落とせ、"ソウルクラッシュ"!!」
    サザンドラに"ソウルクラッシュ"が炸裂する。
    だが、流石に倒れるかと思われたサザンドラは、トレーナーであるオイラを悲しませまいと持ち堪えた。
    「は、」
    「お前らは良い子だねぃ。……次に任せて"ひかりのかべ"張った方がよかったかもな?これで六対四だ」
    「ひっ………!!」
    先に言った通りちゃんと楽しくやってるし、それを示す為に微笑んだつもりだったんだが、何故だかスグリは小さく悲鳴を上げてしまう。なんでかなあ?
    「ぽっ……ポリゴンZ!!」
    さて、"はかいこうせん"と"れいとうビーム"という厄介な技を持つポリゴンZが出たな。
    早めに倒しておきたいところだが、でもオーロンゲも無視出来ない。ここは……
    「ボーマンダ、"じしん"」
    「っ!!」
    味方のサザンドラのとくせいは"ふゆう"。じめんタイプの技は食らわないので遠慮なく全体技を使い、オーロンゲを落とした。
    「っポリゴンへのダメージも大きい……!?"リフレクター"あるのに、なんで、バフ技は"ドラゴンエール"だけ、ならいのちのたま?いやそれだけじゃない、まさか、そんな嘘だ、」
    気付かれたようだ。こちらのボーマンダはいのちのたまを持っていて、おまけにとくせいは"じしんかじょう"。自分の技で相手を倒す度に攻撃が一段階上がるというもの。つまりさっきニョロトノを倒したお陰で物理技のダメージはそこそこに大きくなっている。
    「サザンドラ、"ハイドロポンプ"」
    「しまっ」
    スグリは忘れかけていたようだが、まだバトルは四巡目。雨は降り続けている。
    例の如く"ハイドロポンプ"は命中してくれて、ポリゴンZは倒れ伏した。
    「おーおー今日はよく当たるねぃ。ラッキー」
    「はぁっ、はぁ、う、うそだ、まだ一匹も……なんで、相手はカキツバタなのに………!!」
    勝負は六対二。しかしオイラのサザンドラはシンプルにひんし寸前で、ボーマンダもいのちのたまの副作用でジリジリ削れている。
    流石に6タテは難しいよな、そりゃあ。スグリは強いもんなあ。
    「ガオガエン!!カミツオロチ!!けっぱれ!!」
    なにはともあれ、大将の二匹が現れた。相変わらず素早さで負けちまってるがいいのかなあ。いやバトル始まったら手持ちは変えられないんだけど。
    「ボーマンダ、"じしん"!サザンドラはガオガエンに"りゅうのはどう"!!」
    「ガオガエン!!クソッ……!!」
    カミツオロチより先にガオガエンを一斉攻撃でひんしに追い込む。

    最早ギャラリーは声の一つも上げずに愕然としていた。運も絡んでいたとはいえ、あまりに一方的だった。

    「カミツオロチ、テラスタル……!!」
    スグリは泣きそうな顔でカミツオロチをテラスタルした。テラスタイプはいつも通りかくとう。生憎とひこう、エスパー、フェアリーが弱点なのでこちらにバツグン技は無い。
    「カミツオロチ!!ボーマンダに"ジャイロボール"!!」
    「おわっと!」
    ここでボーマンダが倒された。スグリにとってはやっとの思いだったろう。
    雨が上がる。
    「サザンドラは確実にあと一撃でやれる……でも残り五匹も居る。五匹?そんなに居るのか?カミツオロチ一匹だけで五匹?"きまぐレーザー"で、いやそもそも次のポケモンはなにが来る?まさかまた違うポケモンが?ドラゴン以外まで使う可能性もあるんじゃ?そんな、嫌だ、負けない、俺は負けない、まだ負けてない……!!」
    オイラはボーマンダを戻して見遣りながら、次のポケモンをどいつにするか数瞬迷って。
    いつものメンツから抜擢していたポケモンのボールを握った。
    「行け、フライゴン!!」
    「!!」
    出したのはフライゴン。スグリは一瞬だけ安堵したような顔になるが。

    残念ながらこっちも勝ちに来ているんだ。全部同じなままと思われちゃあ困るねぃ。

    「フライゴン。

     "げきりん"」

    「えっ」
    途端、フライゴンは凶悪な鳴き声を上げカミツオロチに飛び込んだ。
    弱点ではないが高威力である"げきりん"を受け、カミツオロチは追い込まれる。

    「トドメだサザンドラ」

    「は、えっ、え、」

    「"りゅうのはどう"」

    静かに下した指示は、まるで死刑宣告だなと自分でも思った。

    冷徹なオイラに懐き従順なポケモンはほんの僅かな温情すら与えず、攻撃を叩き込んだ。

    一身に受けたカミツオロチは完全に体力を削られ、脱力する。テラスタルの結晶が粉々に割れ、辺りに飛び散った。

    「え……えっ?」

    カミツオロチがボールに戻る。そのボールさえ握れないほどスグリは茫然自失だった。

    エントランス全体がシンと静まり返る。一拍遅れて、審判が正気に戻った。


    「しょ……勝負アリ!!勝者、チャレンジャーカキツバタ!!

     これによりランキング変動!!ブルベリーグチャンピオンは、カキツバタとなります!!」


    ハッとした様子の三天王が漸く座り、少し安堵したように力を抜く。
    ゼイユはスグリを心配そうに見つめていた。

    他のギャラリーは、

    「うわっ、スゲー圧倒的だったな……」
    「カキツバタもやれば出来るじゃん」
    「あーあ、やっとスグリが部長じゃなくなるのか。辞めてなくてよかったー」
    「ていうかあんなに威張っておいてこんなボコボコにされるとか……スグリも案外大したことないな」
    「拍子抜け」
    「バトル終わったしもう行こう」
    「カキツバター、今度はちゃんと仕事しろよー!」
    「スグリくんの作ったルールも変えてー!」

    いやいや、おいおいおい、そりゃねえだろ。

    スグリの横暴さが余りにもアレだったから予想外かと言われたらちょっと違うが、幾らなんでもドライ過ぎて頭を抱えるしかなかった。

    簡単に見放され、健闘を讃えられることも無く背を向けられたスグリは膝をつく。

    「あ、あぁああ……!!うあああ………!!こんな、こんなはずじゃ…………!!」
    「……あーあ」
    せめてこう、本人の居ないところで色々言って欲しかった。オイラだけ悪者にしてくれた方が全然嬉しかったぜ、マジで……

    やっちまったモンはどうにもならない。覆水盆に返らずってやつだ。オイラだけでなく、スグリにも言えてしまう。

    罰だとかそこまでキツいことは言い難いが、まあ……スグリも散々暴走したのは事実で、皆はどちらかと言うと被害者で。スグリの自業自得とされても、正直否定は出来ねえし………

    「あー、スグリ。大丈夫かぃ?」
    「…………………………」
    普通にオイラはなんも悪くねえ気がするけれど、たった今チャンピオンでなくなり"元"チャンピオンに降った少年に歩み寄った。

    ……勝ったら言いたいこと山程あったけど、今じゃない方が良さそうだな………

    色んな感情を抑え込み、蹲るスグリに手を差し出す。

    「まあ、なんだ。お前の強さと努力は認める。実際チャンピオンにまでなったわけで、皆もそこだけは認めてるだろ。でも、お前はちょっと頑張り過ぎだし、やり方が悪かったんだよ。でなきゃ皆こんな反応しない」
    「…………おれは、俺は……」
    「自分追い込んで、皆も追い込んで……見てるこっちが苦しいぜ。だから、なあ。…………また前みたいに楽しくやろうや。オイラも皆も、相談くらいになら乗れるからよ」

    仲直りの握手をしよう、というつもりだった。

    しかしスグリはブツブツなにやら呟く。

    「ちがう……俺はまちがってない、おれは強い……俺はまだ負けてない、おれは、おれは……!!こんなんじゃ、アイツに……!!」
    「あー、スグリ?聞いてる?もうそのやり方止めた方がいいってオイラは思いま、」
    「煩いっっ!!!!!」
    「っ!!」
    触れようとした瞬間、思い切り手をはたき落とされた。
    残っていた三天王とゼイユと、まだ居た一部ギャラリーが騒然とする。
    「ちょっとスグリ!!」
    「カキツバタ、大丈夫!?怪我は!?」
    「あ、いや、平気……」
    「スグ!!!なにしてんの、謝りなさい!!!ここまで言われてまだ分かんないわけ!?カキツバタはただアンタを、」
    「煩い!!!弱いクセに俺に命令するな!!!」

    これは、もしや

    「はぁっ、はぁ…………カキツバタ」
    「あ、はい」
    「俺はまだ負けてない……次は勝つ……もっともっと強くなって……俺は……!!」
    「ま、待て待てスグリ、勝負は受けるがこれ以上は」
    「俺のやり方に口出すんじゃねえよ!!!お前に俺のなにが分かる!!!」
    「スグリ、その言い方はいけない」
    「スグリくん……ちょっと!!何処に行くんですか!?まだ話は」

    間違えたかも。

    察した頃には、スグリはフラフラと去っていってしまった。

    「「「…………………………」」」
    沈黙が痛い。自分に原因があるとしか思えなくてマジでキツい。
    「…………なんか、ごめんな?」
    「いやいや!!カキツバタ先輩はなんにも悪くないって!!」
    とりあえず謝ったら即座にアカマツに否定された。
    うん、冷静に考えればそうなんだけど。不正とかしたわけじゃないし正々堂々やった結果だから悪くないんだろうけど。なんか罪悪感。
    「スグのヤツ……!!人のこと『弱い』『弱い』言って、いざ負けたらあの態度ってなによ!?強い人が正しいならカキツバタの言うこと聞きなさいってば!!」
    「しかし……ネリネ達は少々誤解していたようです」
    「そうですね……なんとなく負ければ少しは大人しくなると思ってたんですけど、事情はそう単純ではなかったようです」
    「んー……そうなるとオレ、スグリがなに考えててどうしたいのかちっとも分かんないよ………」
    「大丈夫。オイラも分からん。分かってたらバトルしなかった」
    「…………………………」
    四天王で揃って肩を落とす。まあオイラこれからまたチャンピオンだけど。
    一方ゼイユは自身の髪を握りながら俯いてて、なんと声を掛けるか悩んだ。

    ……スグリは林間学校から帰ったその時にはもうあんな調子だった。強さをガムシャラに求めて、追い込んで、突き詰めて………

    その林間学校にはゼイユも同行していた。それに彼女はスグリの実姉でもある。となると、なにか知ってる可能性もあるが……

    (オイラが訊いても答えてくれないだろうなあ。ネリネにさえ話してないっぽいし)

    あー、なーんにも上手く行かねえ。

    「と、とりあえず、カキツバタがチャンピオンに戻ったので書類とか……」
    「それとルール!皆も言ってたし変えよ!」
    「ネリネもあまり好ましくないと感じていた規則が幾つかありますが……」
    「……ゼイユ、大丈夫かぃ?」
    揃って困り果てながらゼイユに気を遣うも、彼女は作り笑いで首を振った。
    「平気よ。スグだってちょっと反抗期なだけだろうし!もう一回くらい叩きのめされれば流石に目覚ますわよ!」
    「そうかなあ」
    「とにかく!!もう負けんじゃないわよフワ男!!サボり魔なアンタは知らないかもしれないけど、チャンピオン交代って案外色々面倒なんだからね!!」
    「…………へーい」
    ゼイユはいつもの調子で噛みつきながら一足先に去っていき、ギャラリー達もオイラに声を掛けつつ去っていった。
    残された三天王とオイラは顔を見合わせる。
    「……私達も引き揚げましょうか」
    「同意」
    「言い忘れてたけど、先輩お疲れ様!なんていうか、凄かった!頑張ってたね!」
    「あーうん、ドーモ」
    「あと寝て!!」
    「ハイ。ごめんなさい。寝ます」
    睡眠不足なの忘れてもらえてなかった。黙ってれば流れてくれると思ったのに。
    タロとネリネもバッチリ憶えていたらしく、「書類はサインだけすればいいようにするからとにかく休んで」と睨まれ、渋々頷く。

    こうしてチャンピオン戦はオイラの勝利で幕を下ろし……しかし何一つとして解決しないまま、チャンピオンとリーグ部長は交代となったのだった。
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    Replies from the creator

    Rahen_0323

    DOODLE完結したシリーズの補完話という名のおまけです。全て幻覚。
    学園に戻って来た時のカキツバタの話、姉弟が戻って来た時のちょっとした話、カキツバタとスグリの和解っぽい話の三本立てです。あんまりしっかり書くとまた長くなりそうだったので全部短い。
    手持ちとの話とかお義姉様との話とかまだまだ書きたい話はありますが、構想固まり切ってないので書かないかもしれない。
    地獄の沙汰もバトル次第 おまけ「たでーま戻りやしたー!」
    退院したオイラがそう部室のドアを潜ると、室内に居た全員が一斉にこちらに注目して。
    座っていた部員は全員立ち上がり、他の皆と一緒に震える。
    「かっ、カキツバタぜんばいいいっっ!!!!」
    「カキツバタ!!!!」
    「ツバっさーん!!!」
    「うおおおっ」
    かと思えばアカマツが号泣しながら突撃してきて、タロやネリネ、ハルト、他後輩達も集った。
    「うわーん!!!帰って来てくれて良かったぁ!!!おかえりぃいーー!!!!」
    「シャガさんや、アイリスさん来て、っ、スグリくんもゼイユさんも休学して……っうう、カキツバタ、もう戻って来ないのかと……!」
    「ネリネも不安でした……怪我も回復したようでなにより」
    「おかえりー!!」
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    Rahen_0323

    DONEスグリ対策考えてたカキツバタif、最終話です。全て幻覚。
    怪我の描写とか色々好き勝手してるのでなんでも許せる方向け。1〜8話と過去作の「お前を殺す夢を見た」を先に読むことを推奨します。
    一応今回で終わりです。お付き合いいただきありがとうございました。書きたいシーンがまだあったりするので補完話も書く……かも……?って感じですね。既に大分満足してるので分かりませんが書きたい気持ちだけはあります。
    地獄の沙汰もバトル次第 9(終)検査が「異常無し」ということで終わり、僅かに負った擦り傷の処置をされた後。
    エリアゼロは一応パルデアにあったので、僕はオレンジアカデミーの先生や保護者であるママを呼ばれてそれはもう心配されてしまった。大穴に入ったのはアカデミー理事長でもあるオモダカさんの許可の上とはいえ、クラベル校長やジニア先生はとても怒っていて。校長なんて「私の方から理事長に抗議します!」とまで言っていた。
    ママもぎゅうぎゅうと僕を抱き締めて凄く叱ってきた。「冒険するのはいいけど、そういう場所に行くならせめて事前に伝えて」と。以前無断で侵入したのもより不安を加速させてしまったのだろう。それについては何度目か深く反省した。
    「とにかく、手当ては済んだのでしょう。理事長への報告などもブライア先生からされると聞きました。今日のところはアカデミーなりご実家なり、落ち着ける場所でお休みを……」
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