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    Rahen_0323

    @Rahen_0323

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    Rahen_0323

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    スグリ対策考えてたカキツバタif、八話目です。全て幻覚。
    エリアゼロ編。やたら長くなってしまった。
    怪我の描写があったりします。とても好き勝手してるのでなんでも許せる方向け。1〜7話と過去作の「お前を殺す夢を見た」を先に読むことを推奨します。
    多分次で最後です。

    地獄の沙汰もバトル次第 8「君達には私と……エリアゼロと呼ばれる秘境を共に探索して欲しいんだ!」
    ブライア先生のお呼び出しに従い教室に来たオイラ、スグリ、ゼイユ、ハルトの四人は、その前置きの後に概要を説明された。

    パルデアの大穴、秘境エリアゼロ。普段は立ち入り禁止とされている未知にして危険な地帯。

    そこは過去のポケモンが居るとか、まるで天国だとか、様々な憶測だか説だか伝説だかがあり。ブライア先生はテラスタル現象の調査や結晶の採取、そして伝説のポケモン『テラパゴス』の発見を果たすことを目的としているらしい。

    途中で現れたパルデアリーグ委員長オモダカさんと四天王チリさんも加わり、委員長から説明が続いた。

    なんやかんや小難しいことを言っていたが、要するにエリアゼロから凶暴なポケモンが飛び出しそうになる事案等が起こり、再調査をしたいと考えていて。その為の人員や時間をパルデアリーグでは捻出出来なかったので、前々から大穴の調査申請をしていたブライア先生に白羽の矢が立った、ということらしい。

    勿論同行は任意、なんて言われたが、はてさてどうしたもんか。

    「僕は……さっきのこともあるんで戦力としての自信は無いですが、オモダカさんが言うなら行こうかな」
    「流石はハルトくん!心強いよ!」
    ハルトと、続けてゼイユも同行の意を示す。すると次にはずっと沈黙していたオイラとスグリに視線が集中した。
    「カキツバタさんとスグリさん、と言いましたね。お二人はどうなさいますか?」
    「えー、じゃあオイラはパ」
    「来なさいこのすっとこどっこい!!アンタこの中では結構強いんだから!!」
    「そうだよカキツバタさん。結構どころか一番だと思うし、僕とゼイユじゃちょっと戦闘力に不安が……」
    「その言い方も腹立つわね!!」
    パスしようとしたけれど、後輩に頼られたら断りづらいなあ。面倒くせえしリーグ部長として学園離れるのは気が進まねえんだが……
    「わーったよ、行きゃいいんでしょ行きゃあ」
    「ではカキツバタさんも決定ですね」
    色々と疲労も溜まっていたし非常に不本意だが、年長者として学園最強として後輩を守ってやらねえとな。
    とはいえ、偶々ここではオイラが一番で偶々説得されて、偶々気が向いただけであるけど。それでもブライア先生達は喜んでいた。
    「元チャンピオン様はどうする?遠慮しとくかぃ?」
    と、オイラとは不仲で知られるスグリにも訊けば。
    俯き加減だった彼は、意外にも頷いた。
    「行く。伝説のポケモン、テラパゴス……興味あるから」
    「それでは決まりだね!私、ハルトくん、ゼイユくん、カキツバタくん、スグリくん、以上五名で調査します」

    なんだか流されたような気もするが、こうして五人でのパルデア地方エリアゼロ探索が決定した。

    準備が完了し次第エントランスロビーのブリッジ前に集合、という言葉を最後に話が終わったので、オイラ達生徒は続々立ち上がった。
    一番にスグリが思い詰めた顔のまま出て行き、そんな弟をゼイユが追う。姉弟はそっとしておくべきだと判断して、反対の扉から教室を離れ二人とは真逆の方向へ歩き出した。

    「カキツバタ!」

    途中、覚えのある声が。
    足を止めて振り向くと、四天王であり仲間であり後輩でもあるタロが駆け寄ってきていた。
    「おーっすタロ。どーしたぃ」
    「どうしたもなにも……ブライア先生のお話は終わったんですか?一体なんの……」
    「あー、まあお前さんには説明しとかにゃあな」
    どうやら彼女なりに心配していたらしい。学園を離れる以上黙っているわけにもいかないので、掻い摘んで……目的地がエリアゼロという点は伏せて説明した。
    「校外活動!?チャンピオンと四天王トップまで連れて!?じゃあその間部活の運営は……」
    「タロに任せることになっちまうねえ」
    「…………まあ、必要なことでしょうし、校外活動もまた勉強の一環ですから流石に反発はしませんが……でも大丈夫なんですか?体調とか……」
    「パルデアだから移動時間は多いだろ。飛行機の中でゆっくーり休むよ。ついでにタイミング見てスグリとも話せるだけ話してみる」
    「そう、ですか…………」
    シンプルに不安そうな面持ちのライバルに、「ンな顔すんなって」と笑う。
    「なんにせよあの面々の中で一番腕が立つのはオイラらしいからなあ。そこそこ危険な場所っぽいし、行かねえとも言えなかったし、引き受けた以上精一杯護衛するわ」
    「よろしくお願いしますね。特にブライア先生は戦えるポケモンを所持していませんから」
    「おーう任せろーぃ。そっちも頼むぜ?」
    「勿論です。……カキツバタとスグリくんがいつ帰ってきても大丈夫なよう、頑張ります。待ってますからね」
    「ん。そんじゃ準備あっから」
    お互いに頼み事をし合って、それからオイラは再び歩き出した。タロはもう引き留めたりせず、「気を付けて!」という激励のみを言ってくれる。
    フェアリータイプのドラゴンエールに、片手を挙げて答えた。















    間も無くエントランスにメンバーが集合し、オイラ達はパルデア地方へと旅立った。
    飛行機の中でもタクシーでの移動中も会話らしい会話は無く、気まずい空気が漂っていて。

    そのままエリアゼロにまで到着してしまった。

    ゼロゲートにあったワープポイントから大穴の中の観測ユニットに移動したオイラ達は、本物のエリアゼロの景色を目の当たりにする。思わずといった様子でブライア先生とキタカミ姉弟が駆け出した。
    「ここが……これこそが……夢にまで見たエリアゼロ!」
    「なによこれ……すっごい」
    「わやじゃ……」
    空から落ちる光に出所の分からない水源、鮮やかな草原、未だ底の見えない穴……まあそれなりの景色だよな、と欠伸していたら、ずっと標準語で喋っていたスグリが方言を零した。
    ゼイユが揶揄うように笑う。
    「え、えっと……ハルトは、前に来たことあるん……だよな?」
    「うん、友達とね」
    「……友達……」
    「先生に注意されてただろうに飛び込むたあ、お前もお友達も案外ヤンチャなんだねぃ」
    とか話しているところ、ハルトの持っていたモンスターボールが勝手に開いて。
    赤い身体のモトトカゲっぽい、しかし似ても似つかないポケモンが飛び出した。バトルでも使っていたコライドン……の別個体のようだ。
    「アギャッス!!」
    「ひゃ!ビックリした!!」
    「君がエリアゼロで見つかったと言われているポケモンだね!この子もとても気になるが……今回の調査で確かめたいのはエリアゼロの最深部……その"更に奥"なんだ!」
    嘗てハルトがここに来た時も一緒だったらしいコライドンを手持ち無沙汰に撫でながら、今更語られる詳細を聞く。

    ブライア先生の持つヘザーの手記によると、ヘザーは最深部の更に下へ落ちた。ただ道筋も行き方もまるで憶えていないとか。

    それでもその人物の言うことが正しければ、エリアゼロの奥の奥には知られざる空間がある。そこを調べてみたいってことらしい。

    とにかく一先ずはゼロラボに行こう、というわけで、道を一番熟知しているだろうハルトを先頭に進み始めた。

    「きゃっ!ちょっともう、なんかアーマーガアが凄い群がってるんですけど!?」
    「放っとけ」
    「気付かれないように行けば問題無えさ」
    「デカヌチャン出す?」
    「ははは、君達は肝が据わってるね!」
    「あたしが臆病みたいな言い方しないでください!」
    途中途中ゼイユが喚き、その度にスグリが溜め息を吐き、ハルトは苦笑いを浮かべ、ブライア先生は楽しげに笑う。
    危機感もなにも無くて、オイラはかなり呆れていた。幾ら経験者が居るとしてもここは本来立ち入り禁止の危険な場所。気を緩めていい理由などありはしないのに。
    ピクニック気分か?と言いたかったが我慢した。ここで口にしたところで変わらないと悟ったから。
    「ていうかなにアレ……プリン?」
    「サケブシッポだよ」
    「叫ぶ尻尾……」
    「あのポケモンはチヲハウハネ、あのポケモンはアラブルタケで………」
    「地を這う……荒ぶる……」
    「素晴らしい!是非とも近くで観察、」
    「ブライア先生、危ないので止めてください。いちいち構ってたら目的地に着きませんよ」
    前を行く三人がなにやらワーワーと喋り出す。
    ……オイラとスグリは。
    「…………………………」
    「…………………………」
    「「…………………………」」
    目も合わせずお互いに向かって喋ることも無く、ただ黙々と進んでは他の面々とばかり話していた。
    オイラとしては出来ることなら仲良くしたいんだがねー。そうもいかないよなやっぱり。積み重ねてきたアレとかコレとか……和解するには障害物が多過ぎる。スグリ的にはプライドも許さないのだろう、ピリピリしたまま進行した。
    「なんかもう徒歩って面倒くさくない?飛び下りようよ」
    「急にとんでもないこと言うわねアンタ」
    「コライドンが居れば安全だからね。四人までなら乗れるよ!」
    「ここに居るの五人なんですけどっ!!」
    「オイラはカイリュー持ってっから大丈夫だぜーい。ショートカットさんせーい」
    「どいつもこいつも………」
    「しかし、確かに体力はなるべく温存したい。うん!私も賛同するよ!是非とも飛び下りようか!」
    「本気で言ってます!?好奇心に負けてない!?」
    ハルトの提案でショートカットをしようと決まり、オイラはカイリューに、他の四人はコライドンにライドして躊躇なく飛んだ。
    ゼイユとスグリは凄いビビってたし、ブライア先生は怖いくらい笑っていた。なんつーか、皆元気だなあ。





    で、なんだかんだ、時折野生のポケモンと戦わざるを得ない展開にもなりつつ、結晶だらけの深部に到着した。
    オイラとハルトは手持ちを戻しながら歩く。皆も後ろから続いていた。
    「なにここすっごい!てらす池みたい!」
    「恐らくゼロラボかな?オモダカさんが教えてくれた外観の様子と一致している」
    てらす池ってなんだ、と首を傾げつつ静かにしておく。

    どうにもここは最深部とも言えるがある意味違うとも言えるようで。ゼロラボ内の用途不明の部屋よりもっと下が目的地らしいが。

    ゼロラボの扉は閉ざされていて、「前はパネルを操作して開けた」と動いたハルトも開錠に失敗してしまった。

    「おかしいな……動かないみたい」
    以前は事前準備と中に居た博士のフォローがあったようだ。それが無いから開けられないのかね?

    『ピポン!』

    「お?ゼイユなんか言った?」
    「どう聞いてもあたしじゃないでしょバカ!!」
    立ち止まっていた矢先、操作パネルがなにやら音声を流し始めた。

    『あおのディスク ノ反応ヲ 検知シマシタ』

    『あおのディスク ノ反応ヲ 検知シマシタ』

    「おわっ、なんか喋ってる」
    「あおのディスク……?」

    『あおのディスク ヲ挿入スルト アクセス権ガ 拡大サレマス』

    『あおのディスク ヲ 挿入シテクダサイ』

    「ただの機械音声よ。わざマシンマシンと一緒じゃん?」
    「………………」
    音声はそこで止まる。オイラと同じくブライア先生も『あおのディスク』というワードが気になったらしい。
    考え込んでいれば、ハルトが「オモダカさんから持たされた謎のアイテムがそんな名前だったような……」と言い出す。そんなん渡されてたのか。知らなかった。
    「えー面白そう!あたしが許可するわ!ハルト、やっちゃいなさい!」
    「大丈夫なんかね。一応気を付けとけよ、ハルト」
    「う、うん」
    ここまでは大きな問題も無く来れたが……本番はこれからと言える。ゼイユ達がこの調子ならオイラだけでも気を張っておかなければ。
    マシンがひとりでに動き、プレーヤーのような物が現れる。ハルトが鞄から藍色のディスクを取り出して、そこにセットした。
    プレーヤーがまた勝手に引っ込んで読み込みが始まる。

    『あおのディスク 認証完了』

    『ゼロラボ内 エレベーター行キ先ヲ "ゼロの大空洞"ニ 変更シマシタ』

    エレベーターの行き先を変更?"ゼロの大空洞"?

    そのままの意味なのだろうか。理解させる時間も無く、ゼロラボのゲートが重い音を立てながら開いた。

    「開いた」
    「入るわよ!ハルトが先頭ね!」
    「えっ、あ、ハイ」
    「嫌ならオイラが前出るけど」
    なんだかハルトが躊躇い気味だったのでオイラが先に行こうかと提案したが、やんわり断られた。一応プライドはあるのかもしれない。道中はともかくラボ内はきっとそう広くない筈だし、強いヤツが前を行くべきだと思うんだが……オイラは二番目で妥協してやることにした。

    ハルト以外全員が初めて侵入するゼロラボは、随分散らかっていて暗かった。よく分からない設備やよく分からない物体が転がっていて、よく分からない数式の書かれたホワイトボードもある。
    ……見知らぬ少年の写真なんかもあったが、オーリム博士の身内なのだろうか?
    「おいカキツバタ。邪魔だから立ち止まんな。あと写真とかあんままじまじと見んな」
    あ、スグリが声掛けてきた。
    「へーい」
    「なにニヤけてんだよ」
    多分だけど、向こうから話しかけてくんのチャンピオン戦の申し込み以外では相当久々なんじゃないか?
    案外オイラは嬉しく感じられて、笑みを浮かべながら歩く。
    「ねえ!暗過ぎよ!頭ぶつけたんだけど!」
    そこへ前方に駆け出したゼイユが叫んで、スグリが「後先考えず走るからだよ!」と呆れる。
    「スグ、アンタ……ちょっと元気出た?」
    「…………煩いな」
    オイラとハルトは顔を見合わせる。この姉弟も近いうちに前みたいな関係に戻れればいいんだけどねぃ。
    「先生は?」
    「あっちでめっちゃ物色してるわ」
    ブライア先生はというと通常運転だ。資料をひっくり返して楽しそうにしている。
    「誰かの写真とかあったし、じっくり見ちゃダメでしょ……」
    「なー」
    「お前もめちゃくちゃ見てただろカキツバタ」
    「ふーん、倫理的じゃん」
    「ところであっちにエレベーターみたいなモンあるぜぃ。動くんだよな?ハルト」
    「あ、うん。前はアレに乗ってタイムマ、んんんっ!!オーリム博士の作った施設に……」
    ハルトがなにを言いかけたかは誰も追及しないことにして、ゼイユが唯一の大人なのに一番落ち着きの無い先生に声を張った。
    「先生ー!エレベーター!下!行けそう!下、下!!」
    「!! 下とね!!」
    無駄に反応良いな。
    ともあれ、全員でエレベーターの前に集う。
    「早速降りてみよう!」
    ワクワクソワソワする先生に急かされ、意を決して乗り込んだ。
    簡単な操作で動いてくれた多角形状のソレは、勢いよく落ちていく。よく知らねえ場所に向かう閉鎖的な空間は、まあそれなりにおっかないモンだが。
    オイラが不安がってちゃしょうがないし、いつもの調子で大きく息を吐き出した。
    「はぁあ〜〜〜っ、つっかれたあ。なあ、座っていい?」
    「本当ジジ臭いわねアンタ」
    「普段バトル以外で動かねえからだ」
    「だが、まだ到着まで時間はありそうだね。カキツバタくんだけでなく皆も楽にして休憩しようか」
    「はーい」
    それぞれ腰を下ろしたり壁に寄り掛かったりと、楽な体勢でその時を待つ。
    「ああ、なんて凄い!どんどん下へと降りているね!!」
    「……そりゃエレベーターですから」
    変な会話してんなあ。余裕があるみたいでなによりなにより。
    「結構スピードあんのね?浮遊感あるわー」
    「…………あの……さ!」
    不意に背を向けていたスグリが振り返る。揃って彼を見た。
    「ロック解除したあのパネル……エレベーターの行き先がどうとか言ってなかった?」
    「あ、オイラもそれ気になってた。行き先を変更とかなんとか」
    「ゼロラボ内のエレベーターは一基だけ………今乗っているものが該当するだろうね」
    「えーと」
    「つまり?」
    ……ハルトでさえ未知の空間に運ばれようとしている、と考えるべきじゃないか?
    「ふふふ……私達は一体何処へ向かっているのだろうね?」
    「「「…………………………」」」

    そのうち、エレベーターが停止した。
    ここで引き返そうなどとは誰も言い出さず、外に出る。

    その景色を見た途端、ブライア先生は感嘆の声を叫びながら飛び出した。

    「ここが……エリアゼロの更に奥?」
    ゼロラボ前とは比べ物にならないほど結晶に囲まれ、岩場で覆われたそこは、まるで異界のようで。
    スマホロトムを確認した先生曰く、さっきよりもっと下層に位置しているらしい。彼女のテンションは最高潮だった。なんスかその動き?
    スグリが角にあった机の資料を発見して報せると、もっと騒ぎ始めてもうやってらんなかった。オーリム博士のレポートというそれを漁る彼女に、ハルトはやけに冷たい視線を向けている。
    「『エリアゼロより更に下層には巨大な空洞が存在しており、その最深部にはテラパゴス……"ゼロの秘宝"が眠っている』」
    先生が読み上げたレポートには、奥深くに眠るテラパゴスのこと、地上では無いテラスタル現象『ステラ』のことが書かれてあった。
    テラスタイプステラ、か。この先にそれを纏う野生のポケモンが待ち受けているかもしれない。注意する必要がありそうだな。
    「伝説のポケモン、テラパゴス。ゼロの……秘宝……!」
    スグリがなにやら呟く。ハルトに勝った今、どうして彼はテラパゴスを見つけたがるのだろうか?
    「さ。とっとと探索終わらせて帰るぞ」
    「言われなくても」
    例の如くハルトが先頭、を歩こうとしたが、来たことが無いなら彼が前である必要は無くなったので、オイラと彼が二人並んで先陣を切ることにした。「スグリは一番後ろで背中を守ってくれる?」と隣の少年が頼めば、スグリは存外あっさり頷く。
    両サイドが奈落の底に続く崖となる狭い通路を怖々進んだオイラ達は、直ぐに立ち止まった。
    いや、正確には足止めを食らったのだ。
    「なにこれ?結晶で出来た……花みたい」
    ゼイユの言うように、まるで咲き誇る花のように広がり鎮座する結晶体が道を塞いでいたのである。
    綺麗なモンだがこのままでは進めない。だがブライア先生によると強引に壊すのは危険らしい。
    「じゃあどうすれば?」
    「ううむ……ん?」
    頭を悩ませていたら、近くから光り輝く"なにか"が見えた。
    「ありゃあ……」
    「こんなところにもポケモンが!?」
    どうやらソイツはキラフロルらしい。知識としてしか知らないが、それにしてもなんだか普通じゃなさそうな……
    「なんだ!?不思議なエネルギーを帯びている!?」
    「!! ちょっと離れて!!先生戦えないんだから!!」
    好奇心に従いまくる研究者を止めたゼイユが、バッとこちらを見た。
    「よく分かんないから、カキツバタ!!行きなさい!!」
    「やっぱオイラかあ。その為に来たんだしいいけど」
    「待って!僕も戦う!二人の方が早いし消耗も少なく済むよ!」
    「そうね!よし、任せたわ!気を付けなさいよ!」
    「ハルトとオイラで扱い違い過ぎじゃね〜?」
    わざとらしく笑いながらも、しかし任されてやろうとチャンピオン二人でキラフロルに向かった。
    キラフロルは、テラスタルの輝きに見えるが何処か異質なエネルギーを纏っている。一体なんなんだ?
    「なんだか底が知れなさそうですが……やりましょう、カキツバタさん!」
    「おーよ。ササッと片付けようぜぃ!」
    ハルトはコライドン、オイラはサザンドラのボールを握った。
    「キラシチウ!!」
    キラフロルは叫び、臨戦体勢に入る。
    「行け!!コライドン!!」
    「油断すんなよサザンドラ!!」

    瞬間、対峙する野生のポケモンはテラスタル結晶に覆われる。

    やはりテラスタルか、なんのタイプが来るかと観察していれば、

    なんと見たことも聞いたことも無い、様々な色の結晶を頭から生やしてきやがった。

    「なんだあのエネルギーは!?もしや……アレが……!?」

    テラスタイプ『ステラ』か……!?

    「攻撃される前に終わらせましょう!!」
    「そうだな!サザンドラ、"ハイドロポンプ"!!」
    あまり良い予感がしなかったので短期決戦を狙い、オイラは"ハイドロポンプ"を使わせた。
    みずタイプの技を一身に受けたキラフロルは大きく傾いて怯む。……ステラタイプの場合は、弱点は変化しないのか……?
    まだ分からないが推測していると、大きなダメージを食らったソイツのテラスタルが解除された。
    「トドメだコライドン!!"アクセルブレイク"!!」
    続けてハルトのコライドンが容赦無く攻撃を叩き込む。
    「キラ……シ……」
    思いの外あっさりと、ステラのキラフロルは倒れた。
    体力を奪われ逃げ去るポケモンを見送ったオイラ達は、仲間の元へ戻る。
    「ハルト、お疲れ!ついでにカキツバタも」
    「オイラはついでかーい」
    なんて緊張感の無いツッコミを入れたら、障害物であった結晶が淡い光に包まれる。
    かと思えば一瞬で綺麗さっぱり消滅して、仲間達は大袈裟に驚いた。
    「わっ消えた」
    「えー……光ってるの居なくなったら、結晶の花も消える感じ?」
    「かもしれねえな。分かりやすくて助かるぜぃ」
    今後また同じような形で通行止めになってたらああいうポケモンを探せばいいんだな。オッケーオッケー理解した。
    一方ブライア先生は、聞いてるのか聞いていないのか高揚していた。
    「やはり先程の………アレがテラスタイプ『ステラ』!全てのタイプの力を発していた!!」
    「えーっと……つまり?もしかして今のがゼロの秘宝ってやつ?」
    「違う……とは言い切れないが…………博士のメモには『ゼロの秘宝は結晶体で眠っている』……そう書かれていた。先程のキラフロルはテラパゴス………ゼロの秘宝ではない筈」
    「そもそもまだまだ進めそうだからねぃ。もっと深く、それこそ本当の最深部に居るんじゃねえかい?」
    「……奥まで行けば分かる。……行こう」
    今度はスグリが最前を進み、ブライア先生とゼイユも続けて先に行ってしまった。
    「せっかちなヤツら。オイラ達はのんびり行こうぜ、ハルト」
    「のんびりで大丈夫かなあ」
    「まー心配なのは分かるが、走って落っこちたりしたら元も子も無えだろい。アイツらもそこまで急いじゃねえからよ」
    「た、確かに……足元気を付けます……」
    素直で可愛いヤツ。スグリの件で、一時ハルトには負の感情しか抱いてなかったが。関わってみれば正直で親切でそこそこに強い良いヤツだと知れてきた。会話を聞くに、あの元チャンピオンが荒れたのだって、多分すれ違いや勘違いの所為だったのだろう。
    仲良くするかは向こう次第だが、オイラはこの少年に段々興味を抱いている。それに留学生とはいえ後輩だしな。あまり強く当たり過ぎないようにしなければ。
    二人で仲間を追い掛けて、狭い洞窟のようになっていた道を進む。足場が悪くていちいち歩きづらい。足というかあちこち疲れるなあ。
    「それにしても、カキツバタさんって本当に強いですよね。メンバーを見るにドラゴン使いなんですか?」
    「んー?言ってなかったっけ?まあそんなとこ。つってもリザードンとかジュカインとかも入れてるけど」
    「その二匹も立派な竜じゃないですか。タマゴグループがドラゴンだし」
    お。流石はチャンピオンランク、知識はあるようだ。
    「ドラゴンタイプのポケモンは確かに強力な種が多いですけど、でも統一パーティでチャンピオンになるだなんて……ホント凄いですよ」
    「止せやい。オイラっつーかポケモン達がスゲーの」
    「そう言える人は強いですよ」
    「褒め上手だねぃ」
    「それに、カキツバタさんってバトルを全力で楽しむ人ですよね?僕との勝負でも、あんなに実力差があったのに楽しそうだった」
    「へっへー、そりゃ実際べらぼうに楽しかったからよ。最近は……スグリと碌でもない勝負ばっかしてたから、尚更面白かった。お前も良いトレーナーだよ」
    「えへへ、ありがとうございます」
    とっくに開けた場所に出ていて、落下してしまわぬよう注意しながら歩く。
    「スグリも……強くなりましたよね」
    「…………そーだねぃ。それは認める。それだけは」
    「絶対、元の優しくてバトルを楽しめる彼に戻しましょう。絶対」
    「勿論よ。期待してるぜ、チャンピオン!」
    「カキツバタさんだってチャンピオンじゃないですか」
    「コロコロ交代し過ぎてあんま実感とか無えんだって」
    辺りの警戒も怠らず駄弁ってれば、スグリ達に追いついた。
    どうやらまた結晶花が妨害していて通れないらしい。
    「向こうの光るヤツ倒せば道開けるんじゃない?ハルト、なんとかドンで崖とか飛び越えてきなさいよ」
    「向こうって……あ。アレか!」
    後方にさっきと同じ光が見える。あのポケモンをどうにかすればきっと先に進めるだろう。
    「分かった、僕に任せ」
    「あー待て待て、単独行動は危険だ。オイラも一緒に行く」
    名指しされたハルトが意気揚々一人で向かおうとするので、オイラは慌てて止めてカイリューを繰り出した。こんななにもかも意味不明な場所で一人行かせるわけがない。
    彼は子供らしく活躍はしたい気持ちもあるようだが、大人よりよっぽど落ち着きがある。納得した様子で頷いた。
    「スグリ。ちゃんと二人を守ってろよ」
    「……分かってる」
    それぞれコライドンとカイリューに乗って崖を越え、目立つくらい輝くポケモンに勝負を仕掛けに行った。
    「オー!バー!!」
    今度の相手はオンバーン。案の定テラスタイプステラの力を纏ったソイツに、オイラ達は再び手持ちを出した。
    「コライドン!!」「サザンドラ!!」
    先ずはコライドンが動く。
    「コライドン、"ドラゴンクロー"!!」
    「バー……!!」
    ドラゴンタイプはオンバーンにこうかはバツグンだ。相手は大ダメージを受ける。
    けれどテラスタル解除までは削れなかったようで、ヤツは攻撃を仕掛けにきた。
    テラスタルによって強化された"ばくおんぱ"が放たれ、コライドンとサザンドラがダメージを負う。
    「うっるさ!!」
    「おーおー元気に叫んでらぁ!サザンドラ、"りゅうのはどう"!」
    オイラは耳鳴りに笑いながら指示を下す。モロに受けたオンバーンは怯み、テラスタルの力が弾けて散っていった。
    「コライドン!!"ドラゴンクロー"!!」
    最後に再び"ドラゴンクロー"を受け、オンバーンはひんしとなった。
    「ふぅー……耳壊れるかと思った……」
    「サザンドラとコライドンはまだまだ行けそうだな。お互い頑丈で強い子だねぃ」
    「自慢の仲間ですから。……こっちのコライドンは、前は敵だったけど……」
    なんだか気になる発言がされ、首を捻る。ハルトが持つ二匹のコライドンの片方は、元はあまり良好な関係性ではなかったって……?

    「でかしたわハルトー!カキツバター!結晶消えたわよー!!」

    「おっと」
    そこへゼイユの大声がして、オイラ達は話を打ち切り仲間の待つ方を確認する。確かにあの塊は消えていた。
    「合流しに行くか」
    「うん!コライドン!」
    「カイリュー」
    まあ昔話やら冒険譚やらは後でも語れる。二人で空を飛び、ゼイユ達の所へ戻った。
    「あの子、コライドンだっけ?やるじゃん!ひとっ跳びね!」
    「うちのカイリューも凄いですー」
    「それはそうね。ダメダメなトレーナーとは大違い!」
    「ひでー!」
    ゼイユがオイラを揶揄しオイラが手を叩いて笑ったら、スグリの口角が一瞬緩んだ気がした。
    目敏く気付いたハルトが振り向いた途端にまた真顔になってしまったが。友達とは真逆で素直じゃねーこと。
    「この調子で進んでいきましょ!」
    兎にも角にも、頷き合って更に先へと進み出す。
    今度の通路は短めで、坂を下って直ぐにあの結晶花に当たってしまった。
    「まーた結晶!岩っころのクセにあたしを止めるなんて生意気!」
    「ここ……鬼が山より入り組んだ地形だな」
    今回もオイラとハルトで野生のステラを探す必要があるようだ。なんか徐々に慣れてきたわ。
    再三スグリに「ここは任せるぞ」と伝え、ハルトと二人で近くの分かれ道に入る。
    ごちゃごちゃとしている空間ではあったけれど、先に進んでふと上を見ると例の光が見えた。思ったより早く見つけられたな。ラッキー。
    「んー、回り道しましょうか。うちのコライドン、滑空は出来るけど飛べないので」
    「ありゃ、そうなんかい。壁登ったりも出来ねえの?"ロッククライム"っつって」
    「うぅん、テラスタル結晶も登れるのかな……?分かりませんがダメ元で、」
    「あいや待って分かんないなら止めとこう。万一落ちたりしたら死ぬ。回り道するぞ」
    「はーい」
    怖いもの知らず、どころじゃねえなコイツ。
    今になってその緊張感の無さが筋金入りだと悟り、『コイツよく今まで死ななかったな……?』なんて頭を抱えたくなった。
    ともあれ迂回して目的のポケモンを目指していく。その間もハルトは「前にエリアゼロ来た時と全然違う!」「友達と冒険ってやっぱり楽しいですね!」なんて能天気な発言を繰り返した。頭おかしいのかなコイツ。少し打ち解けてきたと思ったが恐怖に塗り替えられてしまった。
    「って、友達?まさかオイラも友達なのかい?」
    「? はい!勿論!もう親友でしょ?」
    「早え早え親友認定早過ぎる。ついさっき初対面だったのに」
    「嫌ですか?」
    「嫌とかじゃなくて、」
    「じゃあ親友です!」
    「もーなにこの子ー。それスグリの前で言わないでくれよ?」
    とかなんとか言ってたら光るポケモンの元へ着いていた。
    今回はなんだか……レアコイル?のようで全然違う妙なポケモンだった。
    「な、んだコイツ!?」
    「パラドックスポケモン!スナノケガワだ!」
    「砂の毛皮!?」
    ハルトによるとスナノケガワというらしいポケモンは、三つの目でこちらを捉える。
    「じじじてっこー!!」
    どうあれ倒すしかねえんだもんな!初見のポケモンだが怯んでられねえ!
    「スナノケガワなら……マスカーニャ!!」
    「タイプ相性とか分かんねえけど、頼むぜサザンドラ!!」
    スナノケガワはステラを身に宿す。不気味な見た目と未だ不可解な点の多い現象に、エリアゼロの恐ろしさを直に痛感した。
    「マスカーニャ!!"トリックフラワー"!!」
    先手を取ったマスカーニャの急所必中技が直撃する。
    弱点だったようだが、ただこれまた相手は倒れずギリギリで持ち堪える。
    「あれ、動かない……か、カキツバタさん!!多分カウンター技が来ます!!」
    「オーケー、じゃあとっととテラスタルを叩き割らねえとな!!サザンドラ!!"だいもんじ"!!」
    命中率の低い技ばかり放ってる気がするが、急いで体力を削らなければと声を張った。
    "だいもんじ"はなんとかスナノケガワに当たり、ステラの解除に成功する。
    「よしっ!怯んだ!今だマスカーニャ、"エナジーボール"!!」
    ……ヒヤッとしたが、一度も技を受けずに倒せた。
    オイラとハルトは手持ちを戻しながらグータッチをする。後から『スゲー自然に拳合わせちまった』とハッとした。こういう言い表し難い"特別感"をスグリも覚えて拗れて、結果ああなってしまったのだろうか?

    「ハルトくーん!!カキツバタくーん!!進路が現れたよー!!」

    ブライア先生が遠くで叫ぶ。オイラ達は仲間達に置いていかれる前に追い掛けることにした。
    「何度もすまないね。礼を言うよ、二人共」
    一応待ってくれていた三人に、オイラは軽く手を振る。ハルトは照れ臭そうだ。こう見ると普通の子供なんだがね。

    先生が再びスマホロトムを取り出し、「進むほどテラスタルエネルギーの濃度が高くなっているようだ」と言う。

    つまりテラパゴスに近づいているってことかね?ずっと気を張るのと、あと足も疲れてきたわけだが……最奥はもう近いのだろうか。

    「先を急ごう!」
    ……次の地帯は、螺旋状になっていて一層足元が悪かった。岩ではなく結晶だけで道が成り立っている部分もあり、真面目にシャレにならない。高所恐怖症のヤツが来てしまったら軽く気絶するかもな。
    どうにかマトモな地面に降り立ったら、また結晶花が立ち塞がっていた。
    「道中にはステラのポケモンは居なかったから……」
    「ゼイユの立ってる水辺の奥かもな」
    「引き続き頼んだよ、チャンピオン!」
    「へいへい」
    「先生とねーちゃんは俺がしっかり見とくから。危なっかしくて目ぇ離せねえし」
    「うん!よろしくね、スグリ」
    「…………ん」
    そろそろ最深部に着いて欲しいところだがなあ。
    内心嘆きつつも、結晶花があるのと反対側に広がる水地帯へと向かう。
    「カキツバタ先輩、僕の後ろに乗りますか?ここをカイリューで飛ぶのは危ないでしょ」
    「いいの?じゃあよろしくー」
    今度は飛んで行くには少し天井が低かったので、オイラはハルトと共にコライドンに乗せてもらった。少年の相棒は温厚な性格なのか、特に怒ることも無く快くライドさせてくれる。
    ……あ、ハルト今、『カキツバタさん』じゃなくて『カキツバタ先輩』って言ったな?
    そう気付いた時にはコライドンは水に飛び込んでた。得体の知れない液体とも言えるのに全然普通に行くね?
    「カキツバタ先輩、もっとちゃんと掴まってください!落ちますよ!」
    「おー」
    コライドンが泳いで進み、足やマントが濡れていく。まあ仕方ないし生身で泳ぐよりはマシなので我慢だ我慢。
    それよりも、ステラは…………
    「居た!」
    「相変わらず目立つねぃ。つーかアレ……」
    ステラタイプらしき光の後ろには、妙にキラキラとした物体……というか、植物?木?のような物が生えていた。
    思わぬオブジェクトにオイラ達は仰天する。
    「凄い……キレー……」
    「綺麗だけど、なんか気持ち悪ぃな。ちゃんとした植物なんかね?」
    太陽の光も無いのにどうやって育ったのか。……疑問だったが考えたら負けな気がしたので振り払った。
    「木も気になるが、とにかくステラを倒すぞ」
    「そう、ですね!早くしないとゼイユに引っ叩かれるし!」
    「へっへー、違いねえ」
    オイラ達は切り替えて、陸に上がって直ぐに野生のポケモンにバトルを仕掛けた。
    「ゴゴゴゴゴゴ!!」
    今度の相手はキョジオーン。確か弱点はみず、くさ、かくとう、じめん、はがね……
    であれば、とオイラはここで繰り出す仲間を変えることにした。
    「マスカーニャ!!」
    「頼むぜ、ガブリアス!!」
    ハルトが驚いたようなワクついているような顔をする中、キョジオーンはテラスタルした。やはりテラスタイプはステラ。
    「行くよマスカーニャ!!」
    先手を取ったのはマスカーニャだった。相変わらず速えな。
    「"トリックフラワー"!!!」
    キョジオーンにこうかはバツグンで、巨体が揺らぐ。
    立て続けにオイラのガブリアスが好戦的に咆哮した。
    「ガブリアス!!"アイアンヘッド"!!!」
    技を一度も使わせないままテラスタルが解ける。キョジオーンのすばやさが低くて助かったな!
    「もう一度"トリックフラワー"!!」
    あっという間にキョジオーンは崩れ落ちた。ビックリするほど順調だな。
    「流石マスカーニャ!ありがとう!ガブリアスもカッコいいね!勿論サザンドラもコライドンも、三匹共凄いよ!」
    「オイラはー?」
    「カキツバタ先輩も凄い!貴方と一緒に戦えて本当に楽しいです!」
    「あ、いやジョークだったんだけど……」
    「???」
    ポケモン達を褒め出すハルトに冗談を言ったら普通にストレートに褒められた。天然って怖い。

    「お、おーい!先……進めるよ……!」

    「「!!」」
    と、スグリの控えめに呼ぶ声がした。
    オイラ達は互いを見て、こっそりとニヤつく。
    「はーい!!ありがとうスグリ!!」
    「ツバっさんもハルトも今行くぜーい」
    「カキツバタ先輩声小さい!!そんな声量じゃ届かないって!!……あ、今行くからねー!!」
    ハルトがコライドンを出し飛び乗るので、オイラもその後方に続く。
    来た道を戻れば、いつも通りあの三人が待ってくれていた。
    「ほら!スグ!二人になんか言うことあんでしょ!」
    「……いや、別に…………カキツバタとハルトに頼りっぱなしだなって思っただけだよ」
    なんだ、頼ってるって自覚あったのかい。特にオイラにとかプライドが許さないかと。
    「先……行かないと」
    スグリは一人で走り奥地へ向かってしまう。
    マジで、ちゃんとハルトに勝ったのに今更なにを考えてんだか……まさか認めてもらえてないからって拗ねてんのかね?
    「素直じゃないわねー」
    「ハハハ、輝いてるね!」
    「なにが?何処が?」
    「まあまあ」
    スグリだけでなくブライア先生も意味不明で、頭が痛い。
    「言っとくけど、アンタ達が居ない間あたし達も戦ってんだからね。お陰であたしもポケモン達もボロボロ!もうヤバソチャしか戦えないからなんかあったら助けなさいよ!」
    「そんなに消耗してんのかい。なーんか嫌な予感すんねえ」
    「止めなさいよ、そういうの案外当たるんだから!!」
    「先に『なんかあったら』って言い出したのゼイユだけどね……」
    ゼイユとブライア先生も歩き出し、オイラとハルトも続いた。
    「なあー、もう着いても良くないかあ?ツバっさん歩き通しでへとへとだぜぃ」
    「ドラゴン使いなのに体力無いんですね?」
    「だって動くのとかかったりぃし。あーあ、早く帰りてえ」
    不平不満を言いながら、結晶に囲まれた小さな空間に出る。スグリがなにやらテラスタルオーブを取り出してギョッとしていた。
    「テラスタルオーブが……反応してる?」
    「本当だ。あたしのも」
    「んー?あ、オイラのもだ」
    ゼイユとオイラ、あとハルトのオーブもなにやら光を発していて。
    「凄まじいほど濃度の高いテラスタルエネルギー……!!この奥から放出されているのか……!!」
    全員で先に続く道を見る。高濃度のエネルギーがこの先からってこたあ、
    「やっとゴール地点!?」
    「ゼロの秘宝……!!」
    「ホーントやっと、……って待てよ!!」
    「早く見たい!!スカーレットブックの真実!!」
    「先生まで!!」
    テラパゴスが居るかもしれないと分かるや否や、スグリとブライア先生が駆け出してしまった。止めても聞かねえんだから、この問題児共……!!
    オイラは顔を覆い、ゼイユもまた溜め息を吐いていた。
    「やれやれって感じ。……あたし達は余裕感出しながら行きましょ」
    「まあ、オイラもゆっくりのが性に合ってっけどよ」
    ずっと思ってたが、普通に色々人選ミスだよなあ。……オイラ含めて。
    何故ゴーサインを出せたのか、パルデアリーグ委員長様のお考えは難解である。

    ゆっくりと余裕感を出しつつ、三人で暴走特急二人の足跡を辿った。

    とうとう完全に結晶のみに囲まれ、素人でもエネルギーに満ちていると分かる雰囲気の道を下る。奥へ奥へと、突き進んで。

    そして間も無く、天井も壁も無駄に遠く広い空洞に到着した。

    「ここが最深部、ですかね?ツバっさん」
    「行き止まりっぽいから……多分そうだな。長かったあ」
    ハルトはなんか『ツバっさん』呼びにまで変わっていたけれど、今はそこに触れてる場合ではないので一旦スルーした。別に分かりゃあ呼び方など気にしないというのもあるが。
    「雰囲気違うわね……本当に行き止まり?じゃあ調査はここからね?」
    「あーそっか、調査目的だったな……オイラはバトル要員なんでなーんにも出来ねえぜい。頑張れぃ」
    「役に立たないわねえ」
    「へっへっへー」
    これまで見たこと無い、特大の結晶体の前でスグリがキョロキョロして先生が考え込んでいる。
    「ゼロの秘宝……何処だ!?」
    「………なあスグリ、お前なんでそこまでテラパゴスに拘るんだ?」
    「話は後にしてくれ!!それよりも」
    「!! スグリくん、アレだ!!奥の柱になにかある!!」
    聞いちゃいねえ。止めたくとも止まらず、問題児達は再度駆け出す。
    元気なのは結構だが、なんつーか……ガチめに嫌な予感がするというか。
    「この石が、秘宝……?」
    「確認するので待ちたまえ」
    目を凝らして彼と彼女が見つめる先を見れば、単に綺麗な形の石ころじゃないかという塊があった。
    思ったのと違うが、本当にアレが…………確か『眠ってる』とか、そんな話だったっけ?

    ただ、先生が待てと言っていたのにスグリは聞かなかった。

    「ゼロの秘宝さえ手に入れれば……カキツバタに勝って、俺が正しかったって証明出来る!!」

    「あん?」
    オイラ?
    なんとなくハルトと重ねられてる気はしてたがそう来たか。ハルトに真っ当に勝利して尚なにに固執してるのかと思えば……


    『ハルトも俺が間違ってるって言いたいのか?』

    『うん、間違ってる』


    『今のキミより前のキミの方が何倍も良かったよ』


    さっき考えた通り、『ハルトに否定された』からその執着と矢印の方向が一層狂って完全にオイラに向いたって?

    スグリの情緒が不安定なのは今に始まったことではないが、何処までオイラを巻き込んでくれれば気が済むのか。疲れてきてもう文句をぶつけるのも怠かった。

    珍しくちょっと頑張ってみた結果がコレかあ……

    ハッとした頃には、スグリはゼロの秘宝と思しき石を鷲掴んで引っ張り始めた。

    「おいスグリ!!止めろ!!ソイツは伝説のポケモン、しかも眠ってんだ!!扱い方には気を配らねえと、」
    「カキツバタは黙ってて!!俺に負けたくないからって止めるな!!」
    「そんなんじゃねえ!!ただなにが起こるか分からないって事実をだな……!!」
    「俺は……お前が、ハルトが羨ましい!!ポケモン強くて!!何処へでも行けて!!誰とでもなんにもしなくたって仲良くなれて!!」
    スグリは石を引っこ抜こうとしながら、悲鳴のように叫ぶ。
    「ハルトは、俺がずっと好きだったオーガポンにも認められて……!!カキツバタは誰も彼も、ハルトもねーちゃんも味方につけて!!」
    「スグも頑張ったじゃん!!」
    「ねーちゃんだって!!最初意地悪してたクセに!!直ぐハルトのこと好きだし!!カキツバタのことだって嫌いじゃなかったのかよ!!なのにいつの間にか仲良く笑ってる!!」
    「それは…………」
    「俺には……なにも無いよ」
    哀れに思うが、理不尽とも言える。オイラもハルトも才能だけで立ってるわけじゃないのによ。
    「血が滲む努力しても無駄だった!!カキツバタに敵わなかった!!俺には、もう、これしか……!!」
    「そんなことねえだろぃ!!お前はハルトに勝った!!オイラにだって何度も勝ってる!!なんでそれを受け止めねえんだ!!」
    「煩いってば!!!慰めなんて要らない!!!分かってんだよ!!!俺はお前より弱いんだって!!!」
    「っ、」
    分かってないだろ。強さが全てじゃないって、強いからって"特別"になれるわけじゃないって、お前は分かってない。分かりたくないだけなのかもしれないが、だが普通に考えればその程度の判別はつくだろ。なんでそんな最強に固執を……

    「やはりその結晶しか考えられない!!」

    おい、先生!?

    「さあスグリくん……ゼロの秘宝を引っこ抜くんだ!!」

    無理矢理にでも止めなければ。伝説のポケモンを乱暴に叩き起こすなんざ、良い方向に転ぶわけがない。

    「スグリ!!先生!!」
    手持ちのボールに手を伸ばした矢先、

    テラパゴスの結晶はくっついていた柱から外れて、引っ張られた勢いで放り出された。

    「あ…………」
    やけに滑らかな地面に転がった結晶に、二人が駆け寄る。
    オイラ達はスグリがそれを拾い上げるのを眺めることしか出来なかった。
    「間違いない!!その結晶こそテラパゴスだ!!」
    先生が興奮気味に告げ、少年が小さく頷く。

    直後、結晶が輝きながら手を離れ、宙に浮いていった。

    呆然と見つめていると、眩さは増していき。

    テラスタルエネルギーらしきものが収束し、テラパゴス……であろう小さく幼い容貌のポケモンが姿を現した。

    「これが……」
    「テラパゴス」
    テラパゴスは眠そうに瞬きと欠伸をする。本当に寝起きのようで。
    ふと、ハルトと目が合い、興味を抱いたように彼の元へポテポテ歩き出した。
    「あぁっ……!!」
    スグリは絶望したような顔で声を漏らしながらも表情を引き締め、マスターボールを取り出した。
    「スグリ!!もう止めろって、」
    「こっちだ!!」
    またもや制止は聞き入れられず、ポケモンを必ず捕獲する紫色が放たれる。
    マスターボールのセンサーはテラパゴスを感知して開き、あっという間に閉じ込めてしまった。
    ボールが一回。二回。三回揺れ……伝説のポケモン、ゼロの秘宝は捕獲される。
    「……………………」
    スグリは静かにボールを拾った。
    「今のが、テラパゴス……?捕まえ………たんだよね?」
    「これでやっと…………」
    オイラは、林間学校以降のスグリを強さ以外なにも認めちゃいかなかった。しかし今ほどの失望を覚えたことは一度だって無いだろう。
    本当に戻れるのだろうか。ここまで堕ちてしまったヤツが、今更……
    「素晴らしいよスグリくん!マスターボールを所持しているとは用意がいいね!!」
    「まあ……沢山貰ってたし」
    ブライア先生だけがこの空気を察知していなかった。何処までも鈍い教師だ。通常運転と言われれば否定は不可能なのが何処までも残念で仕方ない。
    「これでいつでもテラパゴスを研究出来るが……今ここでテラパゴスの力、見せてもらうことは可能だろうか?」
    「おい先生、正気か?ここでやる理由なんて一つも無えだろぃ。目的は果たしたんだ、もう帰るぞ」
    到底受け入れられない提案までしやがるんだから、ターゲットにされ兼ねないハルトの腕を引っ掴んで踵を返そうとした。

    「待てよ、カキツバタ」

    だが、スグリが静かで、だが変わらない狂気の滲んだ声で引き留めてくる。

    「俺も試したくて仕方ないんだ。……お前、ずっと俺に『話を聞け』って言ってたよな。ここで戦うって言うなら、少しは考えてもいい」

    「………………本気で言ってんのか。いつ他のポケモンが現れないとも限らないこんな危険な場所で?未知のポケモンを未知のエネルギーが密集してるここで戦わせるって?」
    「怖気付いたならいいよ。代わりにハルトかねーちゃんに相手してもらう」
    「っ、はぁー……お前マジでいい加減に」
    やるしか無いのか。今こそ無理矢理にでもスグリを止めなければいけないのか。
    勝てるのか?止められるのか?仮にも伝説のポケモンを従えたスグリに?
    「……準備出来たら、始めようよ」
    ……今度こそこの男の目を覚まさせる。きっと。
    「戦うなら話を聞く」と宣言したのは向こうの方だ。仕方ない。
    「カキツバタ」
    「ツバっさん……」
    「大丈夫だ。二人と先生は下がってくれ。流れ弾が当たったりしたら危ねえ」
    「…………分かりました」
    オイラはチャチャっとサザンドラを回復して、手持ちのメンバーも一応見直しスグリの前に立った。
    ハルト達も距離を取ってくれたのを確認する。

    「よく分かんないポケモン……戦わせて大丈夫なの?」
    「……二人を信じよう」
    「ああ!早く見たい!テラパゴス!!その力!!」

    三人の落ち着きの無さから目を逸らし、スグリの顔を見据える。
    「いつでもいい。やるぞ」
    「……位置さついて」
    ドクドクと心臓が喚く。きっとここで受けるべきではないと知りながら、勝負を始めようとポケモンを繰り出すスペースを作る。
    「覚悟はいい?」
    「…………」
    「今度こそ……カキツバタから、完全勝利を掴む!!」
    スグリとオイラはそれぞれボールを取り出した。スグリはマスターボール、オイラは通常のモンスターボール。
    それぞれ手中の球体を握り締め、突き出した。
    「行け!!テラパゴス!!カキツバタに力見せてやれ!!」
    「もう少しだけ付き合ってくれ……ボーマンダ!!」
    各々のポケモンがフィールドに現れる。
    テラパゴスはそのとくせいによるものか、ボールから出た途端に姿を変えた。サイズが大きくなり、それどころか形状も様変わりする。
    フォルムチェンジってやつか。
    「これがゼロの秘宝の真の姿!?これなら……勝てる……!!」
    伝説だから当然だが……油断ならねえな。
    「折角なんだし楽しんでやろうや、ボーマンダ!"かみくだく"!!」
    先手を取ったのはこっちだった、が、テラパゴスのダメージは薄い。そもそもが硬い……いや、こうかはいまひとつなのか……?テラパゴスのタイプは一体……?
    「テラパゴス!!"しねんのずつき"!!」
    推測を立てようにも、即座に反撃が飛ぶ。"しねんのずつき"は見事に当たり、体力が削られた。
    「タイプ一致の威力じゃない。ならエスパーは入ってない……?」
    考えて考えて、出した次の一手は。
    「もう一度"かみくだく"!!」
    「っ!!」
    同じ技だ。
    モロに食らったテラパゴスは僅かに怯む。さっきよりも削ることが出来たようだ。こうかはいまひとつでもなかったようだし……となると、最初の一手はタイプ相性を捻じ曲げるとか、そういうとくせいを持つのか?

    なんにしても、藍の円盤テラパゴスの体力は恐らく半分を切った。

    「テラパゴスの力はこんなものでは……なにか条件が足りていない……?」

    まだ本領を発揮していないと?確かに思ったような強さじゃねえが。
    「"しねんのずつき"!!」
    ブライア先生の独り言には触れられず、勝負は続く。
    オイラもスグリも、相性と威力を考えてとにかく同じ技を放ちまくった。いつもの一騎打ちと比べれば勢いもヒリつきもあまり無く。

    「トドメだ!!"かみくだく"!!」

    「……っ!!」
    最後のひと噛みで、テラパゴスは完全に消耗して浮いたままくたりと脱力した。コイツはただ寝てただけなのに、そう申し訳なさを覚えながらボーマンダを戻す。
    「な……なんで??」
    スグリは茫然自失だった。伝説のポケモンの強さすらも盲信していたのだから当然か。
    「テラパゴスさえ……ゼロの秘宝さえあれば……強くなれるんじゃ……ないの?カキツバタに勝てるんじゃないの!?!?」
    戦いは終わったので仲間達は歩み寄ってきた。ゼイユはずっと呆れ顔だ。
    「スグ。いい加減もう止め…………」
    「やはりおかしい」
    「え?」
    「あ?」
    ここでまた面倒を持ち込むのがこの研究バカだ。
    「テラスタルエネルギーの出力が低過ぎる。スカーレットブックに描かれた姿と違うのも気に掛かる……」
    「テラパゴスはゼロの秘宝じゃないってこと?」
    「いや………足りないのか?秘宝たり得る条件が………」
    「なあ、もういいだろ。研究なら後で出来る。こんなとこからはとっとと引き揚げて……」
    「!! そうか!!」
    そろそろ人の話聞いて欲しいんですけど。
    そんな心の声は口にしてもしなくても届かない。スカーレットブックを開いて凝視していた先生は続けた。
    「テラパゴスはテラスタルエネルギーそのもの!スグリくん!今直ぐテラパゴスをテラスタルしたまえ!!」
    「だからもう止めろって何度……!!」
    「テラスタルオーブのエネルギーに呼応して……秘宝は秘宝たる輝きを発するだろう!!」
    「…………分かった!!」
    もう二人は止まらない。約束など二の次で、スグリはテラスタルオーブを掴んだ。
    そのまま風圧に怯みながらもオーブを起動し、既に意識を取り戻していて佇むテラパゴスに向かって放る。

    テラパゴスは、普通のポケモンのテラスタルと同じ結晶に全身を包まれたかと思えば、

    頂点からエネルギーを吹き出し、オーブの力一つなど軽々超えるような風を生み出す。

    オイラ達は怯んで、踏ん張りながら顔を庇った。

    「やはり!!スカーレットブックは正しかった!!」

    唯一ブライア先生だけが喜んでいる。それはもう、狂喜だった。

    「テラパゴスが完全に目覚めた姿!!これこそが!!ゼロの秘宝!!!」

    テラパゴスはステラタイプとなり、巨大な姿と化している。なによりテラスタルエネルギーに満ち満ちていた。

    強力さは分かる。どれだけ凄いものかも、研究云々から見れば価値があるとも。しかし、ただ、なあ…………

    「なんか様子おかしいぞ!!」

    瞬間、テラパゴスが雄叫びを上げながら力を解き放った。

    技と思われる光線が弧を描き、スグリに向かって突っ込む。

    「……!!」
    彼は咄嗟に避けられない。

    気付いたら、オイラとハルトが仲間のボールを投げ、コライドンとリザードンがスグリを攻撃から守っていた。

    彼らはオイラ達にアイコンタクトし、頷く。

    「ヤバいよスグ!!」
    ただテラパゴスの暴走は止まらない。
    とうとう地面にまで亀裂が走った。尋常じゃない、早く止めないとマズいぞ!!
    「ボールに戻した方がいいって!!」
    「う、うん……!戻れ!テラパゴス!」
    天井から割れた結晶が降り注ぐ。オイラはボーマンダとサザンドラに皆の頭を守ってもらいながら、スグリがマスターボールを起動する姿を認めた。

    だが、ゼロの秘宝の真の力は、オイラ達凡人の想像など簡単に凌駕する。

    テラパゴスはテラスタルエネルギーで壁を作り、それどころかエネルギーを逆流させ、


    マスターボールを拒み、破壊した。


    「……………えっ?」

    無惨にも真っ二つに壊れ、転がるマスターボールにスグリは愕然とする。

    完全に暴走している伝説のポケモンが吠え、再度技を無茶苦茶に撃ち放った。

    「リザードン、フライゴン、"まもる"っ!!!」

    オイラは攻撃が誰かに当たる前に"まもる"を使わせる。しかし耐えられて精々数発。あくまで防御技で、テラパゴスを完全に鎮める手段にもならない!!

    「戦うしか無さそうだ!!ハルト、スグリ、ゼイユ!!」
    「分かった!!ゼイユ、ボールを」
    「だからあたしヤバソチャしか居ないってば!!」
    「それでも一人でも多い方がいい!!なにがなんでも止めねえと!!今のコイツがエリアゼロの外まで出たりしたら冗談にもならない!!」
    「それは……!!」
    勝手に起こされて勝手にテラスタルさせられたテラパゴスには悪いが、ここまで怒り狂って暴れてしまうならこちらも力技に出るしか無い。
    これは本気で人が死んでもおかしくないと察したんだ。
    「"まもる"が破られる!!」
    「スグリ、スグリ!!行くよ!!」
    「あ、ぁ、そ、そうだ、マスターボールはまだ……あ、有り得ない、偶然だ、だからもう一度……!!」
    「…………スグリ!?」
    オイラとハルトは比較的冷静だったが、スグリは完全にパニックに陥っていた。
    酷く動揺しながら未使用のマスターボールを取り出す。
    ……そうだ、コイツもオイラと一緒で何度もチャンピオンになってたから、マスターボールを複数個持って

    「テラパゴス!!頼む、止まって!!!」

    「ダメ!!スグ!!」

    "まもる"が破られると同時にスグリが飛び出し、マスターボールを投げる。

    しかし最強性能のボールは再び砕かれて、


    テラパゴスの攻撃が、またスグリへ


    「スグリ!!!」「スグっ!!!」

    今使ったばかりだ、"まもる"はほぼ確実に失敗する、ポケモン、間に合わない、止める、いや……!!

    皆が足を竦める中、オイラはほぼ無意識に地を蹴ってスグリの手を掴んでいた。

    「え、」

    そのまま力任せに引き、後方へ吹っ飛ばす。

    オイラも後ろへ下がり攻撃を躱そうとしたが、間に合うわけがなくて、



    腰と右肩に衝撃が走った。



    「…………!!カキツバタ!!!」

    無意識に何処かへ手を伸ばす。



    『人とポケモンの"声"を聴かないと』

    『私もおじーちゃんも、楽しくバトルするカキツバタが好きだから!』



    あ、ねき、

    ごめんなさい、


    全身が床に激突するのと同時に、あっさり意識が飛んだ。















    「えっ…………?」
    「は……」
    「あ、ぁ、カキ、ツバタ……?」
    俺は尻餅をついて動けなかった。ハルトに負けた時よりも、オーガポンに背を向けられた時よりも、ハルトに勝った時よりも、全ての衝撃を上回るくらい理解が及ばなかった。

    力無く倒れる黒い上着。白い頭が赤く染まっていく。

    一体、なにが起きたんだ……?

    バラバラに転がる二つのマスターボールの残骸が、また現実感を失わせていて。

    それでも、俺達が動けなくとも激怒し暴走するテラパゴスは意に介さない。何度目か叫び声を上げ、今度はなにかの技を準備するかのように力を溜め始めた。
    「っ!!カキツバタ!!」
    その視線がカキツバタに向いてることに気付いて、震える身体でなんとか駆け寄る。
    「カキツバタ!!カキツバタ、起きろ!!」
    「………………」
    「カキツバタ……!!」
    揺さぶっても声を掛けても、目は伏せられたまま。

    完全に脱力してごろりと転がる頭にゾッとした。

    「あ、ぁあ、お、俺の所為で、俺の、」

    俺が無理矢理テラパゴスを捕まえたから。迂闊にテラスタルなんてしたから。

    自分の失態を認めたくなくて、でも俺が話も聞かずに飛び出したからで、俺を、庇ったから、俺の所為で、

    「スグ!!カキツバタ!!こっち!!早く!!」
    とにかく急がないと、とカキツバタを連れて逃げようとするも、不摂生で筋力と体力の落ちた俺だけじゃ間に合わない。

    とうとうテラパゴスは光線を撃ってきた。

    狙いは当然俺達で……俺は咄嗟にカキツバタに覆い被さって少しでも衝撃を自分に逃がそうとした。

    「スグ!!!」

    目をギュッと瞑る。

    ……来ると思っていた痛みは中々来ない。恐る恐る瞼を持ち上げた。

    「っ間一髪……!!スグリ、ツバっさんも大丈夫!?」

    ハルトと彼のポケモン、そしてカキツバタのポケモンが壁になるように目の前に立っていた。

    「ハルト、なんで……!!」
    なんで何回も、そんな風に助けてくれるんだ?
    俺はハルトを突き放して、無視して、それに、カキツバタだって、
    「ゼイユ!!ブライア先生!!二人を!!」
    「分かったよ!!」
    「スグ、こっち!!一旦ハルトに任せなさい!!」
    「あっ……」
    ねーちゃんに引っ張られて離脱させられる。カキツバタも引き摺るようにテラパゴスから離された。
    「ねー、ちゃん、カキツバタが……!」
    「分かってるわよ!!……フワ男!!ちょっとちゃらんぽらん、聞こえる!?っ起きなさい!!」
    カキツバタは、テラパゴスの攻撃を食らってあちこちから血を流していた。特にお腹の近くと肩の傷が酷いようで、先生とねーちゃんが止血しようとする。
    「出血が止まらない……!!」
    「あーもうっ!!」
    ねーちゃんは制服の上着を脱いで手当てに使った。傷口に押し当てられた青い服がジワジワ赤くなっていく。
    「ね、ねーちゃん、カキツバタ……死ぬの……!?」
    「そんなわけないでしょ!!バカなこと言うなっ!!!」
    俺は怖くて、なにも出来なくて、冷静さを欠いたまま振り向いた。

    ─────ハルトがテラパゴスと戦ってる。

    一人で、いや、自分とカキツバタのポケモンと一緒に。

    「コライドン!!"アクセルブレイク"!!」

    どうしよう、どうしよう、俺の所為で、こんなことになるなんて、

    「ダメだ!!!全然効かない!!!」

    「スグ!!テラパゴス、なんとかしないと……!!」
    「こ、こんな筈じゃ……違う………俺の所為で……こんなことに…………!?」
    俺の所為で、カキツバタは怪我して、ハルトもあんなのと、ねーちゃんも、先生も、
    「ダメージを軽減するバリアか……!?テラスタルが有効かもしれないよ!!」
    「でもまだチャージが、」
    テラパゴスが技を放つ。まるで流星のようなテラスタルエネルギーがポケモン達に直撃した。
    「コライドン!!"ビルドアップ"!!」
    ハルトのコライドンがステータスを上げる。
    カキツバタの手持ち達は……主人の負傷に動揺してるだろうに、落ち着いて下がった。カキツバタが倒れた以上テラスタルを使えないから、サポートに回ろうという判断だろう。
    サザンドラがコライドンに"ドラゴンエール"を送った。
    再びテラパゴスの攻撃が降り注ぐ。
    「コライドン、回復だ!」
    ハルトは冷や汗を流しながらも、焦らず道具を使った。まんたんのくすりでコライドンの傷が癒やされる。
    他のポケモン達は様子を窺い、再度テラパゴスの一撃が。

    そこでハルトのボールホルダーが輝いた。テラスタルオーブのチャージが終わったらしい。

    「今だハルトくん!!テラスタルで反撃だ!!」
    「分かってます!!コライドン、テラスタル!!」
    ハルトはオーブを起動し、使用する。テラスタイプはかくとうだ。
    「"インファイト"っ!!!」
    テラパゴスに強力な技が叩き込まれる。あっという間に体力が削れた。

    こ、この調子なら、ハルトなら勝てるんじゃ……!?

    カキツバタとハルトを交互に見ながら希望を抱く。
    しかしそんなものは簡単に砕かれた。

    ひんしにもなっていないのに、コライドンのテラスタルが解除されたのだ。

    「……!?」
    「テラスタルエネルギーを吸収した!?」
    テラパゴスは再びバリアを張り、それどころかタイプも変わったようで辺りの様子が変わる。
    「あれほどのバリアをまた!?エネルギーを吸収し再展開したのか?」
    「スグ!!アンタも戦いなさい!!ハルトだけ頑張ってるじゃん!!」
    「む、無理だ……!!俺なんて……で、できっこない………!!」
    足が笑って立ち上がることも出来ない。こんな俺に戦えるわけがなかった。
    カキツバタも、目を覚ます様子どころか顔色が悪くなる一方で……ああ、俺の所為で……!
    「くそっ……!コライドン、もう一度"インファイト"!」
    暴走する伝説には攻撃がまるで通らない。
    コライドンは"しねんのずつき"で反撃され、とうとう倒されてしまった。
    「そうだ、エスパー使うんだった……!!次は、お願いマスカーニャ!!」
    次はマスカーニャが繰り出される。
    ハルトは必死に攻撃を続け、テラパゴスに対抗した。
    「"エナジーボール"!!!」
    攻撃がまるで通らずとも、諦めていない。ハルトも、彼の仲間も……ねーちゃん達も。

    俺だけ……ここでは俺だけが、挫けそうになっていた。

    「カキ、ツバタ!お、起きて!ハルトが……!!ハルトを助けてよ!!」
    「なに言ってんのスグ!!アンタが行くのよ!!」
    「だって、だってっ………!!」

    「今だハルトくん!!再びテラスタルで輝けるよ!!」

    そうこうしてるうちにテラスタルオーブのチャージが完了していた。ハルトがマスカーニャをテラスタイプくさにする。

    「"トリックフラワー"っ!!!」

    弱点ではなかったが"トリックフラワー"は急所を引ける強力な技だ。一発でテラパゴスのバリアが破れる。

    直後、マスカーニャのテラスタルが強制的に解かれた。

    「またもやエネルギーを吸収した!?そう何度も可能とは思えないが……」
    「スグ!ハルトが大変!ねえ!アンタも!頑張んなきゃ!!」
    「で、でも……ダメだ……お、俺は………おれなんか………」

    俺なんかには、出来ない

    「…………けほっ」
    「!! カキツバタ!!」
    そこでカキツバタが咳き込み、ゆっくりと目を開く。
    「よかった、起きたのね!!」
    「あ、ああ……カキツバタ、おれ、おれ………!!」
    「……す、ぐり………」
    カキツバタはまだ朦朧としてる様子だったし、かなり苦しそうだったけれど。視線をあちこちに飛ばして、なんとなく状況を理解したようだ。
    近づき擦り寄る自身のポケモンをそっと撫でながら、俺を見据える。……鋭い金色の目に、真っ直ぐ睨まれた。
    「スグリ……いきな、よ」
    「カキツバタまで、む、無理だって……だって俺、」
    こんな状況を招いた、カキツバタに怪我させた俺なんかに、なにが……


    「スグリっ!!!一緒に!!!」


    「!!」

    ハルトの大声が、やけに鮮明に響いた。

    「お前は、つよいよ。オイラも、はると、も、ずっと言ってんだろぃ」

    「…………!!俺、おれは……っ!!」

    「早く行け!!!お前なら、お前らなら、勝てるだろ!!!」

    ……ああ、そっか、そうなんだ。

    俺が聞かなかっただけで、二人はずっと、おれのことを


    「あああああああっ!!!!!」


    俺はボールを握り締めながら叫び、ハルトの隣に並んだ。

    「カミツオロチっ!!!」

    俺はカミツオロチを場に出す。
    ハルトはこんな大変な時なのに、何処か嬉しそうに笑っていた。……そういうところも、カッコいいんだよな……!

    テラパゴスはバリアを生み出す。

    でも、不思議ともう……怖くはなかった。

    「ハルト!お……俺も……戦う!!」
    「もう……本当!遅いのよ!」
    「二人で全部なんとかしちまいな!!」
    またタイプが変わったのだろうか。周囲の結晶の色が変わっている。
    「マスカーニャ!"トリックフラワー"!!」
    「パゴオオオオ!!!!」
    「カミツオロチ、"みずあめボム"!!」
    マスカーニャ、テラパゴス、カミツオロチの順で行動する。

    とにかく少しずつ着実に削り、やがてまたハルトはテラスタルを使った。

    「"トリックフラワー"!!!」

    テラパゴスが作っていた壁が壊れ、完全に体勢を崩した。

    相手は何度目かテラスタルの吸収と利用を試みる……が、とうとう不発する。

    「エネルギーの吸収やバリア再展開は不可能のようだね!!好機だよ!!」
    「あたしが許可するわ!!やっちゃえアンタ達ー!!」
    「ぶっ放してやりな……キョーダイ!!」

    俺はハルトに頷いた。彼も首を縦に振る。

    カキツバタのポケモンの応援するような鳴き声が響いた。

    「最後だ、マスカーニャ!!"トリックフラワー"!!」

    そして…………テラパゴスの結晶は砕け、さっきの小さなフォルムに戻った。

    「今ならボールに入るかも……!!」

    俺じゃない。ハルトが捕まえるべきだ。
    俺は相応しくないから……テラパゴスの為にも、ハルトが!

    ハルトは懐からマスターボールを取り出した。

    突き出されたボールが輝き、彼が振り被って投擲すると一気に結晶に覆われた。

    テラパゴスはマスターボールに入り、それから、それから


    一回。小さく揺れて、カチッと音がした。


    「…………」
    「終わ……ったの?」

    終わった。テラパゴスは鎮まって、捕獲に成功した。

    まるで夢でも見てるような心地だった。ずっとずっと。
    でも、少しずつ『勝った』という実感が湧く。静かに、落ち着いた感覚で。

    全身の力が抜けそうになったところでハッとした。

    「カキツバタ!!大丈夫か!?」
    「ツバっさん、怪我は!!」
    「うおお、ビックリした……」
    ハルトに話さなきゃいけないこととか、言いたいこととか色々あるけど!それよりも怪我人であるカキツバタだ!
    俺達二人が駆け寄ると、真っ青な顔の割にケロリとしているカキツバタは笑った。
    「ぜーんぜん大丈夫だぜい」
    「嘘言うな!!あんなの食らって大丈夫なわけ……!!」
    「ていうか喋らないで!!死んじゃいますよ!!」
    「それは本当にそう!大人しくしなさい!!」
    「ひでー」
    「だから喋んなって!!」
    なんとか出血は落ち着いたみたいだが、でも既に血を流し過ぎてる。怪我の具合も分かんねえし、早く病院に運ばないと……!
    「テラパゴスはハルトくんが捕獲し、調査は完了だ。まだまだ調べたい物もあるが……今は一刻も早く帰還せねばならないね」
    「流石にその辺の分別はあるようでなによりです」
    「じゃあポケモンに乗って!行きましょう!コライドン!」
    「カイリュー!」
    「うおっと」
    ハルトはコライドン、俺はカイリューを登場させ、カキツバタもずっと外に居たカイリューに抱え上げられた。
    他の仲間達はボールに戻っていく。
    「ブライア先生とゼイユは僕の後ろに!ちゃんと掴まっててくださいよ!軽く吹っ飛ぶんで!!」
    「心得たよ」
    「分かってるから早くしなさい!!」
    「じゃあ……帰ろう!地上に!」
    「はぁーっ……とんでもねえ目に遭った……」
    泣きたかったけど泣いてる暇も無くて、俺は皆と脱出を目指す。

    すっかり目は覚めていて……今後のことを考えなければ、カキツバタとハルトに謝らなければと、何度も思った。

    ねーちゃんにも。「ありがとう」って言わないと。リーグ部の皆にも謝罪しないと。それから、それから………


    色々考えているうちに、あっという間にゼロゲートにまで戻っていた。


    どうやら先生がオモダカさん達に連絡していたようで、カキツバタは勿論俺達も「念の為検査を」と病院まで運ばれたのだった。
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