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    メノウユキ

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    メノウユキ

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    数日サボりましたが、今日から二話一気にのせます。
    また、誤字などがありましたら優しく指摘してもらえると幸いです

    五話 黒コートの正体 首にあてているカッターナイフに力をこめようとしたとき、突然外が騒がしくなってきた。
    「随分と町が騒がしいと思ってきてみれば……お前ら、何やってるんだ?」
     声が聞こえた。大きくはないが、低く、威圧的で冷たい声だ。
    「門番だ! 奴が来たぞ!」
    「慌てるな! 数の利はこっちにある。一斉にたたんじまえばいい話だ!」
     直後、無数の金属をぶつける音が聞こえた。男たちが持っていた鉄パイプで何かを殴りつけたのだろうか。私はカッターナイフの刃をしまい、何とか外を見ようと麻袋の穴を探す。丁度片目でのぞき込めるような穴があったので、恐る恐る外の様子を見る。明かりが少なく、ぼんやりとしか見えなかったが、男たちが一人の人間に向かって鉄パイプを振り下ろしているときだった。
     私は思わず目をそらす。一対大人数では勝ち目はないだろう。
     そう高をくくっていたが、
    「甘く見られたものだ」
     という冷たい声と共に聞こえたのは男たちの情けない悲鳴だった。
     怖いもの見たさでもう一度穴から外の様子を見ると、男たちは一人の人間を除いて地面に倒れていた。
     あの数を一体どうやって倒したんだろう? これは夢だろうか?
    「く、くそ。これじゃあ商品の納品が間に合わねぇ。早いとこ応援を呼ばねぇと……」
     残された男がそう言って携帯電話のようなものを取り出すが、すぐに棒状の何かが男の手に向かって真っすぐ飛んできた。持っていた携帯電話は男の手を離れて地面に落ち、無機質な音を立てて割れ、部品が辺りに散らばっていった。
    「ヒッ……」
     男は甲高く悲鳴を上げる。その後、カランカランと飛んできた棒状のものが音をたてて地面に落ちた。どうやら飛んできたのは男たちが使っていた鉄パイプみたいだ。
    「これ以上面倒ごとを増やすな、鬱陶しい」
     声だけで心底面倒くさいということが伝わってくる。どうやら門番と言われる存在は嫌々こういったことをしているのだろうか。
     しかし、チャンスだ。今の内にこの場から離れよう。男たちを制圧した人物がこちらの味方とは限らない。私の存在がばれる前に麻袋から出て逃げなくては。
     何とかもがいて麻袋から出ようとするが、男たちが袋の口をきつく縛っているせいかなかなか思うように出ることができない。早く……早くここから離れないと……。
    「さて、回りくどいことをするのも好きじゃない。単刀直入に聞くが、お前に指示を出した奴は誰だ。こんな夜も更ける時間に組織的に動くなんてお前たちに後ろ盾がいるからできることだろ? 吐くんならお前は逃がしてやってもいい。興味もないし」
    「は、はぁ? おおおお前なんかに教えるわけないだろ?」
    「……まぁそういうとは思ってたけど」
     直後、聞くに堪えない男の悲鳴と複数の割り箸が一気に折れたような音が響いた。思わず私は耳をふさぐ。しかし、わずかながら打撃音のようなものが何度も何度も聞こえた。
     ゴキッバキッ!
     複数回聞こえた後、門番と思われる冷たい声が男に絶望を突き付けるように言い放った。
    「お前には意見する立場はない。そこまではわかるか? この町に足を踏み入れて、人さらいをした時点でお前は終わってるんだよ。この先お前がどこでどう死ぬかなんてどうだっていいが、お前を動かした奴にはちょっとした挨拶をしておかないと失礼だろ? 早めに言わないと、お前がこの先困るだけだぞ? まぁ、言うタイミングはそちらに任す。人は誰しも言いたくないことの一つや二つあるもんな? その間、ワタシはお前の体を壊すが」
     門番がそう言った直後、またバキッ! という骨が折れるような大きな音が聞こえる。
     男は形容しがたい悲鳴を上げる。痛みのあまりのたうち回るようなばたばたとした音が耳をふさいだ手や指の隙間から聞こえた。
     震えが止まらなかった。クラスで噂されていた黒コートの都市伝説の話。本当に乗っ取ろうとしているのだろうか?
     いや、あれは乗っ取ろうというより、まるで自分の縄張りを守っているような感じだった。人さらいをしようとした男たちを倒したところを見ると、あの黒コートはこの町で暗躍しているというより、外部からくる自分に害があるものに対して根絶しようとしているのだろうか。だが、今は考えている暇はない。早くこの場から立ち去らないと気がどうにかなってしまいそうだ。
     バキッ! ゴキッ! メキャッ!
    「あ、やりすぎたか? まぁ、いいか」
     一方的な暴力の音がある程度した後、男の声が聞こえなくなった。門番は興味なさそうにそういう。
     人さらいの危険はなくなった。でも状況はさらに危ない。人数は一人になったとはいえ、戦闘になれば勝ち目はない。もしかしたら私もあの男と同じことをされるかもしれない。
     その考えが頭によぎった瞬間歯がかみ合わないほど体が震えだした。死ぬ。本能がそう叫んでいた。
     足音が近づいてくる。まるで死という概念が形となって現れ、まさにこちらに近づいてくるようだ。
     殺される……?
     開けるなと強く願うが、その願いはむなしく打ち砕かれて麻袋の口が広くあいた。
    「……」
     私は何を叫ぶこともなく、無意識に上を見た。
     そこには夜が具現化したかのように黒く、丈の長いフード付きのコートをまとった人型の何かがいた。フードを深くかぶっていて、表情がわからない。
     門番はしばらく無言で私の様子を見ていた。先ほどのことを見られたから殺す気なのだろうか。
     死にたくない。その考えばかりが私の思考を鈍らせていた。
     しかし、恐怖のあまり声が出ない。ただただ相手を凝視することしかできない。
     なんて醜いのだろう。生きることを諦めたのに、こんなにも揺らぐなんて。
    「たすけて……ください……」
     かすれる声でそう言い、手にしていたカッターナイフを捨てて私は頭を下げる。ぎゅっと目をつぶってそう絞り出す。会ったばかりの人物にそう言っても仕方ないかもしれない。
     でも……それでも……。
    「お前、どっかで会ったか……?」
     不意にそう声が聞こえた。先ほどのような冷たい声ではなく、どこか聞いたことのある無機質な声だった。
    「え?」
     間の抜けた声を出し、思わず私は顔をあげる。
    「あぁ、なんだお前か」
     すると門番はフードを脱ぐ。
    「配……達員さん……? なんで……ここに?」
     そこにいたのは、夕方ごろに会った配達員だった。帽子をかぶっていなかったので一瞬判別はつかなかったが、よく見ると声と表情で彼だとわかる。
    「それはこちらのセリフだ。夕方に言った忠告無視しやがって……そんな寝間着姿でうろついて、何やってるんだアンタ」
     門番、もとい配達員は頭をかきながら困り果てたようにそう言った。
     逃げることに必死だったので指摘されるまで自分がどんな姿だったかすっかり忘れていた。今になって恥ずかしくなってくる。
    「立てるか?」
    「は、はい」
     私は急いで麻袋から這い出て立とうとするが、足にうまく力が入らずに立ち上がることができない。それを見かねた配達員は無言で手を差し出す。
    「あ、ありがとうございます」
     差し出された手をつかみ、何とか立ち上がったが、その瞬間足に強い痛みを感じてバランスを崩してしまう。しかし、咄嗟に配達員が支えてくれたおかげで倒れずに済んだ。
    「ご、ごめんなさい! すぐに立ちますから!」
     私は思わず大きな声でそう言い、何とか立とうと踏ん張ろうとするが、痛みがひどすぎて配達員の支えがなければ立つことができない。
    「大丈夫か? 見たところケガしてるみたいだが……ん?」
     配達員はそこで言葉を切ると、ある一定の方向を射抜くような目で睨む。直後、遠くで男たちの声が聞こえた。先ほど大きな声を出したせいか、だんだん声が大きくなっている気がする。
    「チッ、数が多いな。正面から向かっていくのは無謀か。逃げた方が早い」
     逃げる? でも私は走れない。私をここに置いておとりにでもするのだろうか?
     そう考えていると彼は、軽々と私を持ち上げて俵担ぎのように肩に担ぎ上げた。私は状況が読み込めず、茫然としてしまう。
    「とりあえず安全地帯までお前を運ぶ。掴まるところはないと思うがせめて舌をかまないように歯をくいしばっておけよ?」
     その直後、とんでもない衝撃を感じたと思ったら周りの景色が目まぐるしく変わり始める。
    「逃げたぞ!」
    「追え!」
     男たちの怒声にも近い声が聞こえた。どうやらどこかで待ち伏せをしていたようだが、配達員さんは男たちの間を縫うように駆け抜け、あっという間に距離を離す。
     平然と人一人を担いで走り回っているが、並大抵の体力ではできないことだ。この人は一体何者なのだろうか。この人も異形たちの仲間なのかもしれない。
    「やっぱりただのチンピラか。ペリがいないということはペリ避けでもどっか設置してるみたいだな……チッ……無駄に用意周到だな」
     独り言のように彼はそうつぶやいた。聞きなれない単語が、交じっているところをみると、やっぱりこの人はただものじゃない。ということは、昼間異形が逃げていたのも……?

     ◇

    「ここならしばらく追ってこないだろう、降ろすぞ」
    「は、はい」
     彼にそう言って降ろされた場所は神社だった。賽銭箱の前にある石造りの階段に座り、何とか落ち着きを取り戻す。いまなら聞ける気がする。今起こっていること、どうして私が狙われているか、この人は何者なのか。
    「あ、あの」
    「なんだ?」
    「助けてくれて……ありがとうございます。それで……いくつか……その……聞きたいことが……」
    「その前にちょっと時間くれ。応急処置用の包帯と傷薬がどっかにあったはずなんだが、見当たらなくてな」
     彼はそう言ってコートを脱ぎ、内ポケットの中をくまなく探す。コートの下に着ていた服は半そでの黒いシャツに黒いズボンと夜の暗闇に溶け込むような服装で、腰のベルトには複数の見慣れない刃物と短刀と思わしきものが固定されていた。現代ではなかなか見ない武器だ。この平和な世の中でそんな武器を装備していれば警察に連行されるのがオチだろう。
     そんな物々しい武器を見て少し怯んでしまうが、当の本人は全く気にせずに探し物をしていた。
    「お、あった」
     彼はそう言うとコルク栓の小さな瓶一つと新品同然の包帯一本、薄手の布を二枚取りだした。
    「あの……何を?」
    「お前の足の応急処置だ。見た感じ大けがではないにしてもその状態で放置していると後々感染症になる可能性もある。何よりお前が嫌だろ?」
    「は、はぁ」
     真顔でそう言う彼に私は曖昧にそう返答する。ケガをしたときに治療してもらった機会はなかったわけではないが、基本的に邪魔者扱いされていたので放置されることもしばしばあった。それこそ、異形たちに追いかけまわされて転んでけがした時も基本的に気味が悪いと言われて近づくことさえされなかった。
     だから至極当然のように言う彼の言う言葉が新鮮だ。
    「少し染みるぞ」
     彼は瓶のコルクを開け、中の液体を布につけると私の傷だらけの足に当てる。
    「イッッ!!」
     直後、電気が走るような痛みを感じ、思わず声に出してしまった。治療してくれている配達員さんを蹴り上げないように何とか足は動かさないようにしたが、それでも痛みが強く、思わず声を出してしまう。
    「もうしばらく耐えろ。傷口消毒しないと手当の意味がない」
     足を消毒した後、慣れた手つきで包帯を足に巻き始める。数分もしないうちに両足の応急手当が終わった。まだかすかに痛みはするが、大分マシになった気がする。あの瓶に入っていた薬は傷薬と言っていたので痛み止めの効果もあるのだろうか?
    だが、頭痛の方はマシになったとはいえ、さっきからズキズキ痛む。一体これはなんだろう?
    「一応応急手当はしたが、明日以降念のため病院とかに行って診てもらえ」
    「は、はい。ありがとうございます」
    「別に気にするな。これも仕事だ」
     彼はそう言うと、コートを着ながら辺りを警戒するように見回す。今のところ男たちがくる気配はない。配達員が逃走時にどういうルートでここまで来たかはわからないが、少なくとも常人では追いつけないような速度は出ていた。当分は追ってこないだろう。
    「それで? 何が聞きたい? といっても話せることは多くないがな」
     彼はこちらへ向き直り、無表情でそう言った。
    「あぁ、えっとその……配達員さんは一体何者なんですか?」
     突然そう聞かれたため少し戸惑うが、何とか聞きたいことを伝えることができた。
    「何者……その回答になるものはかなり範囲が広いが、この町の自警団のようなことが一番回答に近いかもな」
    「自警団……? 警察とかでは手に負えない事案を取り扱ったりしてるんですか?」
     あの異形もやっぱり見えているということだろうか? 
    「その認識であっている。特別この町の治安が悪いわけじゃないんだが……まぁ、個人的な理由があってこの町を外部の人間に取られるのは困る。だから、アンタを襲った輩を追い払ったりすることがワタシの仕事だ。他にも兼任していることはあるがな」
    「そう……なんですね」
     私は視線を少し落としてそう返した。
     個人的な理由というのはわからないけれど、配達員がただものではないというのは理解できた。
    「そういや、こっちからも聞きたいことがあった」
     彼はそこで言葉をきる。気になって視線をあげると彼の背後には、先ほど私を追いかけていた首なし少女が浮いていた。
    「は……配達員さん! 後ろに!」
     そう言いかけた時、私ははっと手で口をふさいだ。
     彼は見えるとは言っていない。背後に首なしの少女がいるなんて言ったら、いくら人間相手に強い配達員でも……。
    「あぁ、なんだお前か。どうした?」
     しかし配達員は普通に振り向き、首なし少女に対して話しかけた。
    「え?」
     思考が止まる。
     この人、見えるの?
     首なし少女は配達員に対してジェスチャーで何かを伝える。対して配達員は相槌を打ち、コミュニケーションをとっている様子だった。
    「そうか、わかった。この辺は危ない、表通りまでいけばまだ安全だろう。表通りの高い建物に避難しろと近くのペリにも伝達してくれ」
     首なし少女は指でオッケーサインをしたあと、その場を去った。
    「やっぱり、見えるんだな。あの首のない少女」
     心拍数があがる。
     彼の表情は全く変わっていない。
     どう返事をするのが正解なんだろう。私は今まで、人の顔色を窺って返事をしてきた。だけど、見えてはいけないものが見えるなんてことは今まで指摘されたことはないし、言ったとしても信用されなかった。
     今目の前にいる人は、本当に見えているのだろうか? 私が見えるなんて言えば、あの男たちのように得体のしれない人間に売り飛ばすんじゃないだろうか。
     私は無意識に両手を祈るように握っていた。そうしなければ、震える体を抑えることはできないと感じたからだろう。
    「わ、私は……」
    「門番と青目のガキだ! 神社にいるぞ!」
     沈黙に耐え切れずにそう切り出したとき、かぶせるように男の怒声が響いた。
    「随分と早く追いついてきたな。結構距離を離したはずだが……」
     配達員はそう言い、鳥居の方へと視線を向けた。私も同じく、鳥居の方へ目を向けると先ほどとは違う集団がぞろぞろとこちらへ歩いてきた。彼らの手には鉄パイプや警棒、ナイフなど各々武器があり、こちらにむけて殺気立ったような視線を向ける。
    「は! 門番だがなんだか知らねぇが、多勢に無勢だな。とっととその青目のガキをこちらに引き渡したらどうだ?」
     先頭にいる男の一人が怒声に等しい声でそう言い放つ。私は肩を震わせながら恐る恐る配達員の方へ視線をずらすと彼は涼しい表情で
    「多勢? 烏合の衆の間違いだろ。何より、未成年の女一人に男が大人数で攻め立てて恥ずかしくないのか? アンタら、夕方にも忠告したよな?」
     と言い返す。
     夕方? 私はもう一度男たちの方へ目を向けると、夕方に出くわした男たちと同じ顔をしていた。
    「は? 何を意味の分からねぇことを言ってんだてめぇ」
     彼らは夕方に会った配達員だとは思っていないようだ。あの時は帽子を目深にかぶっていたから、もしかしたら遠目で見てもわからなかったのかもしれない。
    「構わねぇ、やれ!」
     号令を合図に複数人の男たちは各々の武器を振りかざして配達員に向かっていく。
    「面倒くさいな……まぁ、ここまできたら仕方ないか。アンタはここで動かずに待っていてくれ。ケガしたくなかったらな」
     視線だけこちらを向けて配達員はそう言うと、男たちに対して歩いて向かっていった。
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