それでも(五悠) 五条先生が女の人と浮気をした。指折り数えるのも嫌になるほどその行為は何度も繰り返されてきた。だから、どうしてこんなことするの?と必死に塞き止めていた感情を露わにしながら腕に縋り付くと先生は面倒臭そうに俺を突き飛ばした。
勢いよく床に転がる。口の中を切ったのか、鉄の味が広がって何だか気持ち悪い。ゴホゴホと咳をしてから顔を上げると俺を跨ぐようにして見下ろしていた。
「ちょっと遊んだだけなのに何で責められないといけないの?」
遊んだだけ?それだけで片付けられるの?
「ちゃんと悠仁んとこに帰ってきてるんだからいいじゃん」
そう言われた瞬間喉の奥から空気が漏れた。ああ、そうか。元々先生は自由奔放な性格で、そんな先生を俺が必死に繋ぎ止めていただけだ。
「そう、だよな。帰ってきてくれるだけ……、まだいいよな……」
嫌いになるチャンスなんていくらでもあった。けど、噎せ返るような甘い匂いを纏わせて帰ってきても先生を嫌いにはなれなかった。あの人だけはやめておけ、と同期に止められても好きが加速する一方だった。馬鹿だよなほんと。ちゃんと言うこと聞けばよかったのにさ。
「悠仁なら分かってくれるって思ってたよ。……あー、でも。心配しないで。僕には悠仁だけだから」
「……ほんとに? 俺だけ?」
「うん。心は悠仁だけのもの」
先生の親指が口の中に捻じ込まれていく。
そうやって、また、嫌いになれない理由を作るんだから酷い大人だよ。結局都合の良い相手でしかないと分かっていてもその言葉だけで悦びを感じさせてしまうのだから。