本気⑤数週間後
悠仁への気持ちに気付いてから、会うたびに悠仁へ気持ちを伝えた。
振られたことを気にしたこともあったが、悠仁が変わらず接してくるから、その内に気にしなくなった。押せばいけると思った。
自販機の前、食堂、稽古場、トイレで会った時にも伝えた。兎に角会えば伝えた。
部屋を訪れても出ない時は、扉の下からメモも入れた。
お陰で、俺が悠仁を好きなことは周知の事実になったし、傑や硝子にもネタにされる。
なかなか2人になるタイミングが無いと、会った時に伝えるという手段しか思いつかなかった。
しかし悠仁は、いつも眉を顰めて笑ってその場を離れてしまう。何か返事をするわけでもない。
しばらくすると悠仁と会うことがなくなった。
完全に避けられている。
実技の授業の時に悠仁を見かけたが、別段変わった様子はなく、いつも通り笑っていた。
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放課後
何もすることがなく、傑に付いて来た自販機。
適当に買ったいちごオレのパックにストローを刺すと傑から話しかけてきた。
「悟。箱根で悠仁と何があったんだい」
「あ?」
「悠仁と顔を合わせる度に、告白しているようだけど、何を企んでいるんだか」
「ほっとけ」
「おや…本当にどうしてしまったんだ」
悠仁のことは、自分で思っていた以上に執着している。
今までの女みたいにすぐ忘れるだろうと思った。だが、好かれていると思った相手に『違う』と言われれば、忘れられなくなる。
ただ、それだけが理由で告白している訳じゃ無い。俺は悠仁が良い。
あいつが俺を好きだと言うまで、諦めるつもりはない。
「夏油先輩じゃん!」
その声にピクリと耳が反応した。
「おや、悠仁。君も何か飲むかい?奢ってあげるよ」
「え、いいの?ありがとう!」
傑の金で出てきたコーラを嬉しそうに受け取る悠仁は、やっぱりいつもと変わらない。
だが、俺の存在は無視しているようだった。
「おい、悠仁」
「ん?どったの、先輩?」
「俺、お前が好きだって言っただろ。他の男に媚びてんじゃねーよ」
「え…」
「ちょっと悟」
自販機に悠仁を追い込むと、傑は俺と悠仁を引き離そうとする。
「俺、悠仁が好きなんだけど」
「悟、それ本気だったのか?」
「本気」
悠仁は、顔を俯かせるが耳は赤くなっている。この話をしたくなくて、意図的に避けていたことが分かる。
「いや…先輩、本気じゃないだろ?」
「だから、本気だって…」
「でも、俺には胸…ないよ。先輩は女の人が良いんだって」
「えっ…」
ここでその話をされるとは思わなかった。
確か、あの露天風呂の時に、「胸は、やっぱり女だわ」とか言った気がする。
まさか、それを気にしていたのか。
「それはそれだろ。俺は悠仁が良いんだ」
「信じらんねぇよ。五条先輩はヤリたいだけだろ」
「ちげーよ!」
「あの日は、先輩疲れてたんだって。何か勘違いしてるよ。俺もう行くから。夏油先輩、これありがとう!」
悠仁は、俺を押し除け走って行ってしまった。
それを追いかけたくても、何を伝えて良いか分からない。
なす術なく悠仁の姿を見送ると、肩に手が置かれた。
「悟。詳しく話を聞こうか」
その手は、殺気に満ちた傑のものだった。