月明かりの水浴びフリーナの以外な行動を目の当たりにしたのは彼女がまだ水神だった頃だ。
夜、時折、フリーナは何処かに出かけておりそれを心配したセドナが私に話をした。
フォンテーヌを護る彼女に何かあるといけない。
そう思い、悪いとは思いつつ夜に出かける彼女を付けると、フリーナはフォンテーヌ郊外にある小さな泉で水浴びをしていた。
いつもの美しいドレスを脱いで、白い肌が月に照らされたその姿はとても美しく、普段見える元気な彼女とは違い、何処か寂しげだったのを覚えている。
あまりの美しさに見惚れてしまったという事は隠し私は音を立てずその日はその場を後にした。
それからも彼女を護る為だということにし、フリーナの水浴びを見守ることはあった。
幸い、フリーナは私の気配には気づかなかった。
だが今思えば、あの水浴びはフリーナにとって唯一、水神の重荷を外せる瞬間だったのだろう。
五百年に渡る長き演技の幕は閉じ、フォンテーヌも平和になった。
私の仕事も減り、最近では早く仕事が終わる日もあり、本日もまさにそんな日だった。
食事を取り、夜のフォンテーヌを見ながら、歩き郊外にでた。
足はそのままあの湖に向かっており、昔の記憶を辿りに歩みを進めると、湖についた。
「〜♪〜♪」
すると歌が聞こえて来て、湖を見渡せばフリーナが湖の真ん中で歌を歌っていた。
水神だった頃の姿で水浴びをするフリーナはやはり美しく、その歌声もとても綺麗だ。
舞台を降りたのが勿体無いと思ってしまう。
もしまたフリーナが舞台に上がればあっという間にフォンテーヌの人気者となり、昔と同じく、歌劇場は終始満員の人となるだろう。
「おや、ヌヴィレットじゃないか」
私の気配に気がついたフリーナは振り向き、私の所まで歩いてくる。
水に体が半分浸かってはいるが、裸の彼女はあまりにもその、目のやり場に困る。
白い肌に華奢な体が月明かりに照らされて美しく、きっと民が見たら大変なことにはなる。
「君はもう少し恥じらいを持つべきだと私は思うのだが……」
「なんで?」
「もしこの場に来たのがこの国の民なら君のその姿はあまりにも……」
するとフリーナはクスクスと笑う。
「民だったら、水元素を使ってる体を隠すよ。そこまで恥じらいを捨ててるわけじゃないし……」
「では何故、私の前ではしない?」
するとフリーナはまた微笑む。
「キミには何度も見られてるからね。気付いてないとでも思ったの?僕が水神だった頃、キミ、良く僕を付けてきたよね」
なるほど。あの尾行はバレていたらしい。
彼女は人間だが、純水精霊でもある。フォンテーヌ人は全て純水精霊だが、フリーナの場合、生まれも違いその為、純水精霊の力が強いのだろう。その為力はなくとも気配を察知する力はあったということか……
「ヌヴィレットも入らない?」
「私は…良い」
「どうして?キミ、雨に濡れるの好きなのに水浴びは嫌いなのかい?あの奇行は民の前では辞めた方がいいよ。きっとまた、最高審判官様が業務で病まれたなんて言われてしまう」
確かにそんな事件もあった。私は水龍なので雨を浴びるのが好きなのだが、それをフォンテーヌの民は奇行だと思い大騒ぎになった事件だ。
遠い過去だが、あの時はフリーナが大騒ぎをし、弁明した。
今思うとあの時間はとても楽しいものだったと思う。
フリーナは肩まで水に浸かり、私を見つめる。
色の違う美しい瞳が私を捕らえている。
まるで一緒に水浴びをして欲しいというように……
私は息を吐き、服を脱ぎ、裸となり湖に入りフリーナの横に座る。
「気持ちいいでしょ?」
「ああ…そうだな」
私はフリーナの腰に手を回し抱き寄せる。
「ヌヴィレット……」
「久しぶりに時間が取れた。君と恋人としての時間を過ごしたいと今夜は思ってもいた。」
「だからここに来たのかい?」
「ああ。ここにいる気がして……」
フリーナの頬を撫でるとフリーナは甘えたように私の手に頬を擦り寄せる。
私とフリーナが恋仲のことはフォンテーヌの人々は知らない。なんとなく隠して付き合っている。
今宵、私がこの場所に来たのも、フリーナに会いたいと思ったからだった。
私はフリーナの長い髪に手を入れる。
手触りの良い美しい長い髪。
短い姿も好きなのだが、私的には長い方が好きだ。
「君は元素力で髪の長さも変えれるのだろ?」
「そうだね。けどこの能力は元から合ったものだよ。今はもう水神は降りたから長い方でいることもないんだけど……たまにはね」
「どちらも良く似合っている」
髪を撫で、そして背中を触る。
フリーナはビクリと体を震わせ、私の肩に手を置く。
彼女の弱い場所は全て知っている。
好きなことも…全て…
「フリーナ」
「ヌヴィレット…んっ…」
フリーナを呼び顔を上げさせ、唇にキスをする。
少し離してまたキスを贈る。
舌を絡め、深いキスを贈り、唇を離すと銀の糸が私とフリーナを紡いだ。
「ヌヴィレット…好き…大好き」
「私もだフリーナ。愛している」
細い体を抱きしめ、愛を囁く。
月明かりに照らされたフリーナは美しく、やはり彼女は神につくられた少女なのだと思う。
私達は見つめ合い、何も言わずにまたキスをし、互いに愛を確かめたのだった。
end