独占欲の果てフリーナを自分のものにしたいと思ったのは何時からだろう?
彼女の表情存在全てが愛おしい。
だから私は彼女を自分の手の届く所に置きたかった。だがフリーナは休むと言ってパレ・メルモニアを去った。
手の届く場所から私の管轄外に彼女は……
最初はそれでも良かった。しかし日々を重ねるうちに思ってしまった。
『もし彼女が外の世界で汚いものを見たら?』
そう思うと耐えれなくなった。
そういえばメリュジーヌが言っていた。人は大切なものは箱に入れて保管するのだと。
なるほど…その手があったか……
そして私はフリーナを鳥籠の鳥にしようと決めたのだった。
「ヌヴィレット…どうして?どうしてこんなことするの?」
パレ・メルモニアの最上階。フリーナが使っていた部屋で今、彼女は目に涙を溜めて私を見つめている。
彼女の細い腕と足には青のリボンを巻き、リボンに着いた鎖を窓枠に付ける。
「ヌヴィレット…僕、なにかした?キミを怒らせることした?」
フリーナの声は震えており涙が頬を伝う。
「僕がキミを騙していたから怒ってるの?五百年も騙してたから?それともメリュジーヌの迫害を止めれなかったから?」
確かにメリュジーヌをフォンテーヌ邸に招いた時、そのような事があった。
だがフリーナは何もしなかった訳では無い。彼女もメリュジーヌの迫害に心を痛めていたのを知っている。
「怒ってなど居ない」
「ならどうしてこんなことするの?」
フリーナは私を見つめている。
私はフリーナの頬を撫で涙を指で掬う。
涙から読み取れるのは戸惑い、不安、恐怖という負の感情。
「フリーナ。私は君に怒っている訳では無い」
「じゃあ…どうして…どうして…」
「君はこれ以上汚いものを見るべきではないと思った」
「汚いもの?」
フリーナは分からないという顔をする。
「そうだ。だからこの場所にいて欲しい」
「汚いものなんて見てないよ。キミが僕に見せなかったじゃないか…」
確かにその通りだ。
私はフリーナに汚いものを見せなかった。メロピデ要塞のことをフリーナが詳しくないのもそれが理由のひとつではある。あの場所にフリーナを近づけさせたことはない。
「汚いものなんて今までも見てない。だからお願い、ここから出して…いつもの優しいキミに戻って…ヌヴィレット」
「私は至って普通だ。フリーナ」
「ヌヴィレット……」
私はフリーナの瞳にキスをする。
「この処置は先程も言ったように全て君を思っての事だ。今は嫌かもしれないがすぐに良くなる」
「何言ってるの?話が噛み合ってないよ?」
フリーナの体はカタカタと震えている。
私はフリーナの額に口付けを落とす。
「ヌヴィレット…」
フリーナは涙を流しながら私のキスを受け入れる。
少しは安心してくれて良かった。
今は彼女には分からないかもしれないがそれはそれで良い。
時間は沢山あるのだから……
フリーナside
ヌヴィレットによってスイート・ルームに閉じ込められた僕はただ、毎日、彼の帰りを待ちながら過ごす。
水神の頃から着ている服は脱がされ今の僕はヌヴィレットが買ってきたであろう白のネグリジェを着て過ごしている。
手足に付けられた枷は外すことは出来なくて、僕はただヌヴィレットに従うしかない。
最初は閉じ込められたことが嫌で何回もヌヴィレットに出して欲しいと頼んだ。しかし彼は絶対僕を外には出さず、そして何度目かの時に、ベッドに倒されて彼に抱かれた。
怒りを含んだような瞳を向けられ怖かった。
だけど行為は優しくてどろどろに思考が溶かされていく感覚がした。
それからヌヴィレットは定期的に僕を抱く。
抱かれる度に彼に愛されているのだとわかる。優しい行為は気持ちよくて理性すら奪われるほどで、最近はもうこのまま、ヌヴィレットに身を任せた方が良い気がすると思ってしまう。
「フリーナ」
「ヌヴィレット。今日は早いね」
「平和な日だったからな」
ぼんやりと胸の中で様々なことを考えていると、ヌヴィレットが入ってきた。
今日はいつもより帰りが早い。
「ねぇ、ヌヴィレット。どうして僕を閉じ込めたの?」
ずっと疑問だったことを僕は問いかける。
体を許し、この生活に慣れた今だからこそ、答えてくれる気がした。
僕がもう逃げないと言うことは彼もわかっているはず……
「君を私だけのものにしたかった」
「え?」
「私だけを見てほしい。汚いものなど見て欲しくない。そう思った」
隣に座るヌヴィレットを見ると彼は僕の頬を撫でる。
「胸の中にある君を独占したいという思い。それが止めれなく、そして人は大切なものは箱に保管すると聞いた。だから私は君をこの部屋に……」
ヌヴィレットはそう言うと僕を見つめる。
『ああ…そうなんだ。キミは本当に人間らしくなったんだ。けど独占欲なんて感情知らないから…こうしたのか…』
言葉にはしないが僕はそう思った。きっと言葉にしたら彼を酷く傷つけてしまうから……そして自分の酷い過ちにも気がついてしまった。
ヌヴィレットの手に自分の手を重ね、彼を見つめ言葉を紡ぐ。
「僕はキミの手を離すべきじゃなかったんだね」
「フリーナ……」
「キミはもう立派に人間のことわかってると思ってた。フォンテーヌはキミの統治下に置かれ平和となったし、予言も終わった。僕の役目はもうないと思ってたんだ」
役目がない僕はこの場所に居ては行けないと思った。だから離れた。
けど違ったんだ。
僕はヌヴィレットの手を離したらいけなかった。
今の彼はメリュジーヌをとても大切にしてるし、人にも優しくなった。メリュジーヌは彼を父のように尊敬してる。敬愛してる。
けどメリュジーヌはヌヴィレットと同じ人外であるからこそ、その愛はヌヴィレットも分かる愛だと思う。
だけど人の愛は複雑で、形も沢山ある。
ヌヴィレットが僕に抱いた独占欲も愛の形のひとつだ。
けどその欲の愛を彼はどう対処したらいいか分からなくて、僕を閉じ込めた。大切なものは保管したらいいという人間の考えに基づいて……
閉じ込めるというのは独占欲の中で一番、簡単な対処法だ。
本当はもっと側にいて僕が教えなきゃいけなかったんだ。人の愛し方を……
なのに僕は自分のことばかりで……
だから僕ができることは一つしかない。
「ヌヴィレット。僕、ずっとここにいる」
「それは本当か?」
「うん。キミが僕にいて欲しいと願うなら僕はこの部屋からでない。ずっとキミだけを見るよ」
ヌヴィレットの愛を受け入れる。
そして彼がもしこの先闇に堕ちる選択を誤ってしたらなら僕だって一緒に堕ちるようにしよう。傍に入ればそれが出来る。
それが一番良い方法だ。ヌヴィレットの愛を受け入れ、彼の長い人生を僕は彼と歩む。
いつか闇に堕ちる選択をしても、一緒に堕ちればきっと怖くもない。
僕はヌヴィレットにキスをする。
「ヌヴィレット。僕、キミのこと好きだよ」
「私もだ。君を愛している」
胸の中にある好きという気持ちは嘘偽りない気持ちだ。
だって四百年一緒に居たんだ。好きにならない方がおかしい。
だからこれからはずっといる。ヌヴィレットの手はもう離さない。
僕はヌヴィレットに抱きしめられ、そして目を閉じたのだった。
ヌヴィレットside
フリーナがこの部屋から出ないと言った日から私とフリーナは本当の恋人になった。
行為も毎夜となり、彼女の愛はとても心地よい。
毎日の暮らしは明るくなり、仕事も順調に進む。
行為の後眠るフリーナを私は見つめ、彼女の薄い腹にある刻印を指でなぞる。
私のものだという証。青色の刻印はフリーナが私に堕ちた証でもある。
この先長い時間を私とフリーナは生きていく。
だがきっとそれでも私は怖くない。
フリーナという最愛の少女がいるのだから……
「愛しているフリーナ」
私は彼女にキスを贈ったのだった。
end