香水の話フリーナちゃんの匂いの話
「なぁなぁヌヴィレット。フリーナっていい匂いするけど、あれって何なんだ?」
「香水の事だろうか?」
「香水?」
白い妖精のパイモンと旅人の空と街中で出会い一緒に散歩をしているとパイモンが私に尋ねてきた。
「私やクロリンデ殿も彼女と同じ香水を使っている。貴族の嗜みの一つだと教えられた」
「そ、そうなのか?旅人?」
「貴族なら付けるのは普通だと思うよ。けど同じ香りというのも珍しいね」
「別に匂いはなんでも良かったのだが、彼女に使えるという意思表示でもある」
神の座を降りたフリーナだが、それでも私もクロリンデも彼女に使える部下であるという気質は抜けていない。
フリーナは嫌がるだろうが…長年の気質はなかなか抜けないものだ。
「そういえばヌヴィレット達は服装も似てるよね?」
「確かにそうだな!服にもなにか理由があるのか?」
「理由ではないが、私の服はフリーナがオーダーしたものだ。髪飾りも含めて。
クロリンデ殿の服もフリーナの案が採用されていると聞いたことがある」
「フリーナってそんな事もしてたのか」
「別に服は何でも良かったが威厳が大切だと言っていた。クロリンデ殿の服は分からないが……」
だが、クロリンデが決闘代理人になった時フリーナが悩んでいたのできっと彼女が贈ったものなのだろう。
「ある意味、ヌヴィレットやクロリンデにとって服や香水はフリーナを信仰している証でもあるね」
「そうだな」
信仰…そのような簡単な言葉で片付けられるほど、私の中に宿ったフリーナの思いは綺麗では無い気がするのだが、今はその言葉で置いておこうと思った。
夜も深けた時間。パレ・メルモニアの最上階にあるスイートルームで私はフリーナを膝に乗せ彼女の長い髪を指で梳く。
プネウムシアの力で髪の毛の長さを変えられる為、私といる時は長い髪でいる事が多い。
彼女のお腹に手を回し抱きしめるとフリーナが顔を上げる。
「ヌヴィレット、どうしたんだい?」
「なにがだ?」
「キミが甘えるなんて珍しいからさ…」
甘える。
確かに今の格好はそうなのだろう。
「君の匂いを堪能したくなった」
「え!?」
「香水を纏う君も好きだが、シャンプーや石鹸の匂いがする君もまた愛おしい」
「ちょっ、ぬ、ヌヴィレット!キミ、なんか変なもの食べた!?」
フリーナは体の向きを変え私と向かい合う。
「特に食べてはないが…今夜の食事はいつも通りで…」
「じゃあなんでいきなり香りのこと…今まで言わなかったじゃないか!!」
フリーナの頬は赤く染っている。
「今日、旅人と出会って香水の話をした」
「そ、そうなの?けどなんで香水?」
「君からいい匂いがすると言っていたからだ。私やクロリンデも同じ匂いの香水を使っているというと驚いて色々聞かれた」
「僕はもう水神じゃないから香水は変えてもいいんだよ?同じ匂いにしろなんて言ってないし……」
フリーナは困った顔をする。
「私やクロリンデは君を守れることを誇りに思っている」
「え?」
「神に使えるというのは人としては最高の名誉でもあるそうだ。そして私も君を守りたいと思っている。香水が同じなのはその好意の現しでもある」
「そうなのかい?けど何度も言うけど僕は水神じゃないんだ。それに皆を騙していたんだよ…崇められる存在じゃないんだ」
フリーナは私達を騙していたことに罪悪感があるらしいが、彼女の振る舞いは全て神としての役目であった。
本来、神の役目など人が触れてはいけないものでもある。
「君がいなければフォンテーヌは今頃、滅んでいた。だからそのような考えはしなくていい」
「ヌヴィレット……」
私はフリーナを抱きしめる。
「私は君に使えれることが嬉しかった。だからその好意を現れはずっと続けたい」
「わかったよ。香水のことはもう言わない。この話はクロリンデには内緒にして…」
「ああ」
クロリンデに話しても彼女は仕事中、フリーナと同じ香水を付けることを辞めないとは思う。
「フリーナ」
私はフリーナの顎を掬い上げ、口付ける。
「んっ…ふっ…」
口付けを離すとフリーナは涙を溜めて私を見る。
愛おしい…
そう思いながらフリーナにもう一度口付けたのだった。
end