無題「しばらく閉閑しようと思っている」
「そう仰ると思っていました」
「それから忘機、君に頼みたいことがあるんだ」
静かにそう言って茶を啜ったあと、藍忘機の兄である藍曦臣は窓の外に視線を移した。
雲夢にある雲萍城の観音廟で起こった出来事は、瞬く間に仙門百家に知れ渡った。
各世家の宗主達が蓮花塢に滞在していたこともあり、わらわらと集まってきた彼らがことの顛末を面白おかしく語り合っていたことを藍忘機もその場で聞いている。
噂話に興じる者達がいるなか、藍曦臣は仏像や燭台が散乱し、内部が倒壊した観音廟をじっと見つめていた。普段は聡明で凛とした兄の後ろ姿は見るからに茫然自失といった様子だったことを覚えている。
無理もないだろう、建物のなかにはかつて兄が義兄弟と認め、契りを交わしたふたりの人物が眠っているのだから。
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