こたつでいちゃいちゃ、あかくろ ある寒い日のこと。
ぬくぬくとした部屋の中で、顔には出さずとも、黒子は焦っていた。
本格的な冬はもう少し先だというのに、近頃は毎日とても寒い。今朝は今季の最低気温を大幅に下回って、日中も晴れ間は出るものの気温は上がらないらしい。
赤司とデートの約束をした日は、よりにもよってそんな寒い日だった。
クリスマスが近づいてきて、街はきらびやかに彩られている。少し前から始まっていたクリスマスマーケットに行ってみたいと言ったのは、珍しく黒子のほうだ。とは言っても、絶対行きたい!というわけでもなく、赤司の家にお邪魔した時にたまたま見ていたテレビでクリスマスマーケットの特集をしていて、へー。行ってみたいですねぇ。と何となく言っただけなのだけれど、赤司はそれを覚えていてくれていたらしい。何気ない一言を覚えてくれていたのは素直に嬉しかった。
だがしかし、寒い。寒すぎる。
風がぴゅうぴゅうと強くて冷たいし、道ゆく人もみんな寒いと肩をすくめて早足気味に歩いていた。待ち合わせ場所に現れた完全防備姿の黒子を見て赤司は苦笑していたけれど、そんな赤司ですらマフラーをぐるぐる巻きにして「寒いね」と言うのだから、やっぱり今日は寒いのだ。
目的としていたクリスマスマーケットは、休日なのでそれなりに混んでいて、昼間ながらもキラキラしていてとても素敵だった。美味しそうなものを半分こして、少しずつつまんでゆく。食の細い黒子でも食べ切れる量を赤司はシェアしてくれたし、黒子がかわいいと言ったスノードームも買ってくれた。ちらちらと雪の降るスノードームの中に、プレゼントを持ったサンタと、隣に2号みたいな黒ぶちの犬が並んでいる、可愛らしいデザインである。
しかし、寒い。寒すぎるのだ。
ぷるぷると震える黒子に「どこか中に入ろう」と赤司が心配そうに言ってくれた気持ちは大変有り難い。けれど、しっかり暖まったほうが良いだろう、と言われて赤司の家に連れて行かれたのは少し、いやだいぶ想定外だった。だって今日は一日外にいるつもりの、完全防備だったのだから。
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「ぬくいです…」
ふう、と黒子はひと息つく。大学生になってから一人暮らしを始めた赤司のマンションは、想像してたよりもはるかに普通っぽくて親しみやすかった。けれど所々に彼のこだわりがあるのか、置いているものが全て高そうではあるから気軽にぺたぺた触ることは出来ない。
そんな赤司の家に、最近デテンと現れたもの。冬の風物詩、こたつである。
黒子が好きそうだと思って買ったんだ、と楽しそうに報告された時には、この人、とってもかわいいですね…。と少しキュンとしてしまった。さして広くはないリビングに鎮座するこたつの中で、ぬくぬくと黒子は丸くなる。
「少しは暖まった?」
湯気のたつマグカップを持って、赤司も黒子の隣にもぞもぞと座り込んだ。すっかり黒子専用になった、赤いラインの入ったマグカップ。甘いココアの中に、ぴりっとほんのり生姜の香りがした。
「はい、すっかり…ありがとうございます」
「でも、まだ冷たい」
こたつの中で、赤司の爪先がぴとりと黒子の足先に触れる。靴下越しでも、黒子の足はひんやり冷たかった。
「足と手はいつも冷たいですよ」
「本当だね。冷えてる」
「えっと…赤司くんの手は、あったかいですね」
赤司のあたたかい手が、マグカップを握っていた黒子の手にそっと触れる。それから少し距離を詰めるように身体が触れ合った。
顔が近い。誤魔化すようにさりげなく、ココアをまた一口こくりと飲み込む。わざとらしくない程度に目を逸らしたのに、赤司は黒子の何もかもを見通すかのようにじっと見つめていた。
「…なんですか」
「いや?二人きりだなぁと思って」
「そうですね」
黒子を見つめる赤司の瞳がほんのり色づく。捕らえた獲物は離さない、そんな表情だ。
いや、ダメだ。今日は、流されてはいけない。たじろぐ黒子の白いうなじに、赤司はそっと指を這わす。こたつの中はぽかぽかで、下半身はすっかり暖まっていた。
「ぅ…だ、だめです、赤司くん」
「どうして?」
「だって…ぁう、」
かぷり、と音を立てるように、赤司が黒子の耳たぶに唇を寄せる。「ここも冷たい」と言って、赤司はそのまま耳のふちを小さく舐めた。ぞわぞわとした感触に、黒子の身体がふるりと震える。
「ひぅ…だめ…」
そう言う黒子をお構いなしに、赤司の指先はどんどん下のほうへと下がってゆく。するり、するりと身体のラインをなぞるように降りてゆく指が、黒子のニットの裾の中へと入ろうとした。
くすぐったいのと、恥ずかしいのとで、黒子はいやいやと小さく頭を振る。今日はやめてほしい。恥ずかしい。そんな黒子の気持ちもつゆ知らず、赤司は一枚、二枚、と、服を掻き分けてゆく。
「……」
「うぅ…」
「…何枚着てるんだ?中身が出てこない」
「だからダメって言ったのに…」
真剣に黒子のニットの裾を捲る赤司を前に、黒子は恥ずかしくて両手で顔を覆う。厚手のニット、その下のシャツ、長袖のインナー、それからそれから…。玉ねぎみたいに剥いても剥いても中身が出てこない。
だって今日は寒いし、外を出歩くからと思って防寒に防寒を重ねたのだ。彼に剥かれる予定なんてなかったのだから仕方ない。
「これ、あったかそう」
「わぁ!勝手に見ないでください!」
「なるほど、冷えなくていいね」
やっと中身近くまで辿り着いた指が、黒子の下着のゴムをぺちっと伸ばした。ちなみにこの下着はおへそまですっぽり覆える腹巻きと一体型みたいなもので、裏起毛になっていてとってもあったかい。
「気になるなら、キミのお誕生日にプレゼントしますよ…」
「あはは、いいね。お揃いだ」
なんだか楽しそうに笑う赤司を見て、黒子もめくるめく妄想を重ねる。腹巻きパンツを履く赤司くん…。それは見たい。見たすぎる。
「ところで、やっぱりダメ?」
「…もう良いですよ、見られちゃいましたし」
さすがに厚着しすぎて、部屋の中では暑いくらいだ。少し脱ぐくらいがちょうど良いのかもしれない。黒子が頷けば、赤司はこたつのスイッチをかちりとオフにした。窓ガラスに、ほんのり結露が浮かんでいる。