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    藍燐 没

    #藍燐
    bluePhosphorus

    「お前死んでも寺へはやらぬ 焼いて粉にして酒で飲む」の話



     二人暮らしには少々広いリビンクのソファで、片方は酒を煽り、片方はストローでソフトドリンクを吸い上げながらドラマに集中しきっている。原作アリの悲恋モノで、彼氏だけが死んで終わるやつ。燐音の主演作品だ。
     結末は藍良も読んで知っているから、生きてるあんたを横に置いて見たい、という要望を聞いている最中だった。リアルタイムは難しいからと、毎週、録画したのを二人で眺めている。次回予告まで堪能してから、生きてるよね、ここにいるもんね? と安心したがる藍良にあちこちを揉まれるまでが恒例だった。
     そういえば。アルコールでゆるんだ思考を巡らせる。死別の詩で、情念深いものがあったはず。このドラマはそこまでの執念を描いてはいないけれど。
    「藍ちゃんが先に死んじまったらァ、焼いた骨、酒に混ぜて飲んじまおうかな」
     酔うと口が滑る自覚はある。けれど今回のこれは故意に滑らせている。藍良の返事はないが、聞かなくても心中の想像はついた。信じられない、と顔に書いてあるからだ。戸惑いながらしっかりと映像を止める藍良に、殆ど空にしたサワー缶を揺らしながら、大袈裟に笑ってみせる。
    「こっわいな。ぶっそうなこと言わないでよ」
    「そーゆー詩があんの。なぞって読んじまうくらい、藍ちゃんのこと愛してるってこと♡」
    「ああ、歌詞みたいな? だったらわかるかも。燐音先輩、恥ずかしいこと言うときってなんか引用しがちだもんね」
    「教養があるって言ってくださァい。あんまり意地悪だとカレシ様が泣いちゃうぜ〜?」
     脈絡なしに言うことで、冗談として受け取るだろうと算段をつけて言っていた。けれど、叶うならしてやろうと思えるのも本当だった。母が生涯を終えた時、痕跡をひとつも手元に残してやれなかったのを悔いていたからだ。
     母愛用の道具や布類はすべて故郷に置き去りにした。眠る人の持ち物を連れ出すことは燐音自身が許さなかった。身ひとつで飛び出しておきながら、ひと時でも恋しがるとはとんだ矛盾だろう。けれども、柔弱な思考も燐音の一部であり本心だった。そうであると認めたらば、拒絶して遠ざけていた頃よりも心が軽くなるのだ。今回打ち明けたのも、燐音にとっての藍良が、そうした考えもするほどの存在であるのだと伝えたくてしたのだった。
     腹に飲み込めば、己の裡に取り込める。焼いて粉にしたところで消化などできないし、肉にもなりやしないが、心の乾きは多少ましになるだろう。それほどの想いを向けられるのだと、藍良には知っていて欲しい。だから、実行するかは問題ではなかった。
    「燐音先輩は、おれの一部が欲しいの?」
     ストップをかけられた液晶は、憔悴しきったヒロインの横顔を映し続けている。彼女は、燐音の演じた男と同じ墓には入れない。藍良もおそらくは。望まれたとしても、きっとあそこへ連れ帰ってはやれない。この子は、羽ばたける広い空が似合う。
     本人を連れる気は甚だないくせに、骨を欲しいとねだる。矛盾だ。人を狂わせる恋とはそういうものだろう、たぶん。
    「一部でいいの? アイドルしてるおれ以外なら、ほとんどあげたっていいんだよ」
    「例えだよ、ものの例え。そんぐらいの気持ちだって知っといて欲しいの」
    「言葉とか態度じゃ足んない? おそろいの指輪作ろうって言っても、ずっとはぐらかすのに?」
    「……形はなくっていいから、この関係だったって証拠が欲しいんだっつったら?」
     サワー缶の残りを煽り切り、翡翠の視線を受け止める。まばたく間に藍良の唇が触れて離れていく。肩を抱いてもう一度をねだる。二回目のキスは見つめ合いながら。
    「レモンよりぶどうのが好きだな。最終回見るときはそっち飲んでよ」
    「へーへー。買い物メモに突っ込んどいて下さァい」
     はじめはこの目が燐音を見るのだけで十分だった。現代ではお堅いと言われがちな婚前不交渉を不満顔で受け入れてくれたのも、燐音の欲を丁寧に膨らませたのも、枷をひとつずつ外していったのも藍良だ。
     今はもう視線だけじゃ足りない。目線だって、座っていなくも平行線で合うようになった。
     重苦しい詩を聞かせたくなったのは、燐音へ変化を促すことを惜しまなかったかつての少年への、意趣返しを含んでいたのかも。
    「おれの灰、飲んでもいいよ。その代わり、小指の骨だけあげる」
    「そンだけ? 心臓に近いとこのじゃなくて?」
    「あんまり多いと体に悪いかもでしょ。おれのせいであんたのパフォーマンスが悪くなるの、やだもん」
     それが狙いなのだと言えば断られるだろうか。喜びはそのうち薄れてゆくけれど、悲しみならば焼き付ければ思い出すたびに疼くから。
    「」
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