観用少女、プランツドール。時には観用少年。彼らの糧は、あたたかなミルクに、時折与う砂糖菓子。それから、なにより大切なのは──
「ほら、藍良。夕食にしよう」
眺めていた絵本を閉じた小さな手を取りエスコートする。ソファに横並びでというのが、食事時の定位置だ。限らず室内では大抵隣り合っているのだけど、この時間は特に身を寄せ合っている。
青磁の一点模様が特徴のティーカップに温めたなみなみミルクをたたえ、甘えてくる子に飲ませてやるのが日に三度。朝、目覚めてからと、入浴後に着替えをしてやるのが日に二度。仕事の息抜きと称して、髪や肌の手入れをしてやるのが何度か。出会いの日に見た藍色の衣装がよく似合っていたからと、安直に藍良と名付けて、そんな生活を始めてから四ヶ月あまり。
「今日はさ、」
自分の分の適当に作った焼き飯をそこそこかき込んで、ぺったり張り付いてくる少年に湯気の落ち着いたカップを差し出す。沸騰ぎりぎりまで温めたミルクを、ぬるくなるまで冷ましてから飲むのが藍良の好みだ。
なのだけど、今は食事の気分じゃないらしい。もう飲んで構わないと示しても、いやいやと首を振って、口をつけようとしない。
「藍良。あーいら。ひと口だけでも飲んじゃくれないか?」
嘆願相手の少年は、ぷい、と顎を高くした。拒絶されたミルクがむなしく揺れる。こうなっては長いのだ。頼む間にどうせもっと冷めてしまうから、いっそあたたかいうちに俺が飲み干してしまおう。なにしろ、プランツ用のミルクは人にとっても栄養満点の高級品なのだから。この生活を維持する為にも、俺が健康でいなければならない。そう思いカップに口をつけると、隣で薄金色が揺れた。
「お、っとと」
慌ててカップをソーサーに置き戻す。なにかというと、藍良が寄りかかってきたのだ。肩に掴まり、伸び上がって、口元についたミルクをぺろりと舐め上げる。まだ足りない、もっと。表情が訴えるくせ、自分で飲もうとはしてくれないで、こちらの口元を睨むばかり。
この対処法は……一つ心得ている。一般的ではないだろうし、できれば癖づかせたくはない方法なのだけど。
「なァンだよ。口移しでもして欲しいって?」
からかうつもりで言っても、藍良は真剣に頷いた。
よくわかっているじゃないか。小さな口をあーんと開けて、今にも言い出しそうな子の為に、もう一度カップを傾ける。飲み込まぬよう口に含んで待つと、閉じた唇にこどものように温かな唇が触れる。あわせたままこじ開けようとするので、一気に注いでしまわぬよう、口の開きを調整しながら少しずつ含ませる。
「……満足した? これ、あんまりやらないって約束しただろ」
だから残りは自分で飲みなさい。そう続けても、藍良は俺を見上げるばかり。まだまだカップは満たされている。何度口移せば済むだろう。まったく、ずいぶん甘えたに育ったものだ。
抱き上げろと主張する藍良を無碍にするわけにもいかず、諦めて、開きかけた文庫本を紙袋にしまい直した。