1
「ねェ、ヒロくんもしっかりしてきたしさ。燐音先輩も、そろそろ自分を優先したっていいんじゃない?」
「燐音くんはいつでも自由気ままにやってますゥ」
「あー、ちがくて、私生活をね? ファンへの隠し事は増えちゃうけどさ、恋、してみるとか、どう」
「どうって? アイドルは恋愛禁止なんじゃねェの」
「そうだけど。でも、どきどきするのも大切じゃない? おれたちはファンと一緒に楽しんだり、誘惑したりがお仕事でしょ。私生活が充実してたら、燐音先輩はもっともっとすごいアイドルになるでしょ。おれはそれが見てみたいなァって」
「藍ちゃんは魅力的な俺っちを堪能したいの?」
「うん。だっておれ、アイドルみんなのファンだもん。計算とか、演技とかの枠を超えて輝く燐音先輩も見てみたいよ」
「で、まずは恋に手を付けろって。恋ねェ。やるなら相手の了解得なくちゃなんないけど」
「さいしょは片想いでもいいんじゃないの? ていうか、すぐ他人を好きになんてなれないでしょ」
「んや、そこはもう解消してんだわ」
「へ? ……えっ!? 燐音先輩好きな人いるの!?」
「うん。藍ちゃん」
「へえ、おれ。……はァ!?!」
「おい、その反応はねェだろ」
「だって、え!? 刷り込みじゃないんだから!?」
「……だってもなにも、もう結構前からだし……」
「……おれを? 好きなことが?」
「んな何回も言うなよ」
「ご、ごめんなさい……。て、照れてる……? 燐音先輩が……?」
「たまげさせて悪かったよ。もう言わねえし」
「も、え、あ、あきらめちゃうの……!? まだ返事もしてないよ!?」
「別に、どうこうなるつもりもなかったし。うっかり言っちまったけど、こんな図体の野郎に好かれたって気味悪いだろ。忘れてくれ」
「……っマヨさん! たすけてマヨさァん!!」
「え」
「は、はあ〜い……」
「マヨイちゃん!? いつから!?」
「さ、最初から、ずっとですぅ……。お邪魔しないように息をひそめていたんですけど、すいませんっ、私なんかがお二人の大切な時に……」
「……」
「ごめんマヨさんっ、燐音先輩逃さないで!」
「はあ、ええ、構いませんけれど……燐音さん、呼吸を止めていませんか……?」
「えぇえ!? 燐音先輩!! 燐音先輩ッ!! ちょっとっ、応える前に死なないでよッ!?」
2
「ま、まさか自分から死にかけるなんて。びっくりすることしでかすの、やっぱりヒロくんのお兄さんなんだなァ……」
「気配に気づかねえとか、浮かれ過ぎだろ……くそ、やっぱ俺の柄じゃねえって……」
「燐音先輩? なにぶつぶつ言ってるの?」
「あのぅ、差し出がましいようですが、よろしいでしょうか……?」
「うん? あっ、マヨさんもありがとねェ! おれ一人だと捕まえらんなかったよ!」
「ええと、そうやって覆い被さっていれば逃げられないのでは……で、ではなくて、ですね。先程のことで……」
「さっきの? ……あ、告白? そうだよね、マヨさんぜんぶ聞いてたんだもんね」
「ええ。藍良さん、お返事に迷っていたでしょう? 今すぐに結論を出す必要はないのではないかなあ、と。燐音さんも、今は正気ではないようですし……」
「俺っち酔っ払っちまってるのかも〜! だから聞かなかったことにしてくれよ」
「お酒の匂いはしませんよ。ですから、まずは落ち着いてください。藍良さんも、考える時間が必要でしょう。嫌ってはいないからと、二つ返事で承諾するものでもありませんから……」
「なかったことにすりゃ早いじゃん」
「私は当事者ではありませんけれど、燐音さんがご自身の心を蔑ろになさることは賛成できませんから」
「……ねェ燐音先輩。考える時間をくれる?」
「フラれるまでの時間を味わえって? ひっでえ提案しやがる」
「どんな答えになるかはわかんない。でも、流されて言いたくないよ。ちゃんと考えるから、おれのこと待ってて。おねがい」
「……ああ。うん。……でも、なるべく早く切ってくれよ」
3 巽ひめ要素あり
「はー、びっくりしたァ……。マヨさんがいなきゃ危なかったかも。巻き込んだりしてごめんね」
「いいえ、私はただ居ただけですから。通りがかった天井裏でまさか告白を盗み聞いてしまうなんて、驚きました」
「……ねえマヨさん、もしもの話なんだけどね。おれが告白受けたとしてさ、ここにいたのがタッツン先輩だったら、なんて言うかなァ?」
「巽さんですか……形から入る関係も否定はしませんよ、とかでしょうか」
「……あ〜。実体験のやつ……」
「あちらは、でも、巽さんははじめから腹を括っていたようなので、比較対象にはならないと思いますけど……」
「すごかったよね、ヒロくんが察するくらいあからさまで……普段からけっこう強引なとこあるけど、あんなにぐいぐい行くひとなんだって、改めておどろいちゃった」
「HiMERUさんは手強い方ですから。燐音さんも、もしかすると同じくらいに」
「……う〜ん。……おれを好き、なのかあ。あの、燐音先輩が……」
「好意を伝えられて、どうでしたか。嫌な気持ちにはなりましたか?」
「ううん。うれしかったよ。おれのきもちが恋愛になるのかはわかんないけど」
「すぐにそちらへ誘導しなくてもいいんじゃないでしょうか。お仕事やファンサービス以外で、個人的に手を繋げるかとか、ハグができるとか、そういった接触ができるかなんかを、まずは想像してみて……」
「うーん。できると思う」
「では、あの、真っ赤になってしまった燐音さんを抱き締めて、なだめられるとしたら? 藍良さんは引き留めますか。それとも、ジュースなんかをお渡ししてはぐらかしますか?」
「……むこうがいやじゃないならぎゅってするかなァ。喫茶店とかはそのあとに行くとおもう」
「では、藍良さん以外の……燐音さんと親しい方もあの場にいたとしたら? その方に任せて去りますか。それとも……」
「……別の人にあの顔を見せていいかってこと?」
「そうですね、そちらも考えられますね。実際は、私も覗いてしまいましたが……藍良さんがあの燐音さんを独占できたとしたら? どのような対応をされますか?」
「……うーん! おれに言ってくれたことだから、他の誰かには任せたくないかも……!」
「そうですか。結論を急ぐ必要はありませんが、もう藍良さんの中で答えは出ているような気がしますね」
「……いまのまま言っていいかなァ?」
「どうでしょう。私の考え方ですから従う必要はありませんけど、もう少し確信を得てから応えて差し上げてもよいのでは」
「どうしてか聞いてもいい?」
「たとえば、先程の気持ちを伝えて、はっきりと恋仲にならずに過ごしたとして。やっぱり好きなんじゃなかったかも、なんて思うのは、藍良さんにとってもよくはないでしょう」
「キープしといて飽きたら振るみたいになっちゃう。……かなしむだろうな、そんなことしたら」
「でも、あくまで私の考えで想像なので。どうか藍良さんなりのお返事をしてくださいね」
「うん。……うん。そうだね。そうするよ。ありがとう、マヨさん」
4 途中
「せーんぱい。隣、座っていい?」
「お好きに〜。俺っちそろそろ帰りますんでェ」
「待って! 逃げないで、おれと話してよ」
「気まずいの。わかんない? 優しいセンパイばっかなんだから、俺に構ってないでもっと有意義な話してろよ」
「燐音先輩に用事があるの! おれ、あれからたくさん考えたよ。どうして好きになってくれたかわかんないままだけど、あんたが本音を聞かせてくれたんだから、おれからも本気で応えなきゃ、だめじゃん」
「ンな重く考えなくていいけどさァ。気持ち悪かったんならはっきり言ってくれよ? 気にするのもやめろってんなら、そうするし」
「なんで振られるって決めつけてるの。先輩が言ってくれたとき、おれ、ちょっとでも嫌だって顔してた?」
「んー。直視できなかったからわかんね」
「おどろいたけど、いやではなかったんだよ、ぜんぜん」
「だから惰性で受け入れますってかァ? お優しいこった」
「ううん。惰性とかじゃない。あんたがおれの隣を選んでくれたら、うれしいよ」
「藍ちゃんのだ〜いすきなアイドル屋さんでェ、頭も良くてェ、近くにいたら便利だから?」