Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    airinpeche

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    airinpeche

    ☆quiet follow

    藍燐 果報に愛念

    #藍燐
    bluePhosphorus

    2024.05.29

     空気が揺れている。なにか音がする。それに誘われるまま瞼を上げると、夕陽が淡い金色を輝かせている。
    「はぇ」
     間抜けな音が出た。眼前にほとんど見る機会のない光景があったからだ。寝起きで油断したのと見とれたせいで、つい口がゆるんでしまった。
    「燐音先輩? 起きたの?」
     咄嗟にもう一度眠ったふりをする。どうしてってそりゃあ、この時間の終わってしまうのが惜しいから。
     さっき見上げたのは少年のおとがいで、俺を呼ぶ声だってよく知っている。寝かせられている暖かいのは藍良の腿だった。おまけに、頭まで優しく撫でるサービス付き。さっき聞こえたのは鼻歌だろうか。やけに機嫌が良さそうだった。
    「ん〜? あれェ、いま声がしたのに……?」
     睡眠時の再現をしようと呼吸を抑えながら記憶を遡る。仕事終わりの休息にと、旧館へ忍び込んだ時には誰の気配もなかった。それで気を抜いたのか、実家よろしくかつての私室で眠っていたところに来たらしい。そう深く眠るつもりはなかったのに、この子の気配に安心でもしていたのだろうか。
     いつ目覚めよう。藍良はもう私服に着替えていたから、少しくらい引き止めたって構わない。二人の時間を喜ぶのは彼だけではないのだから。
     寝返りのふりで腹に頬を擦り寄せる。くすぐったいのか、驚いたのか、薄い体が震えた。藍良はどんな顔をしているのだろう。寝言としてごまかさず、開き直って見てやればよかった。
    「……あと十分したら起こすからね。おれ、そろそろお腹すいちゃったんだから」
     ああ、これ、狸寝入りってバレてるな。じゃあいいか。首裏に腕を回して引き寄せる。あんまり柔軟させると背中を痛めるってんで、遠慮してちょっとだけ。
    「目覚めのキスはくれねェのかよ、ハニー?」
    「起きてる時にしろって怒るから、あとでやったげる」
    「……ははっ! 合格判の代わりに、燐音くんからしてやろっかァ?」
    「グゥ……! 今日はいいっ、今度ちょうだいっ!」
     頭上で照れ隠しのしかめっ面が赤と橙に染まっている。ずいぶん素晴らしい光景だ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    su2vu

    MOURNING⚠️超絶捏造
    原稿の息抜きに
    本体Hiが巽の実家の教会に併設された孤児院で過ごす話 巽ひめ バスタブに張られた水からはいつも独特の匂いがする。よく見ると白い沈殿物が浮いてきたり、水中を漂う髪の毛に羽虫が絡まっていたりするので、俺はいつもそれを摘んで、それから洗い場の排水口へ放り投げることにしていた。だってそうしないと、間違って俺の口にでも入ってしまったら、喉の奥に引っ掛かる長い髪の毛の感覚と、夜通し戦い続けなければならないからだ。
     俺が「ボウトクテキ」なことを言ったとかで、大人が俺の言葉に悲鳴をあげた。耳の奥がじんじんするくらい甲高い声で、すぐに何人かの大人が集まってきた。本当にそんなことを言ったのか、と訊かれたので、俺は正直にええ、と言って頷いた。俺はそのとき、「はい」と返事をするよりも「ええ」と頷いた方が賢そうに見えるだろうと思って、そう言った。だけどそんなことは些事だった。俺は大人の考えていることが全然わからない子供だった。きっとすぐに「なんだ。そんなことか。そんなことで驚くんじゃない」と、騒いだ大人の方が怒られるに決まってる、そう思った。でもそうはならなかった。俺の肯定は、その場に集まった数人の大人の顔色を瞬時に青く変えてしまった。
    1767