待ち合わせ場所の燐音先輩は目立つ。きれいな赤髪を帽子に隠しても、シンプルな服装でもだ。装飾がないぶん、スタイルの良さが際立つんだろう。本人も自覚してるから、できるだけ壁際で縮こまってるんだけど、それが余計に人目を引いてる。そもそも一人にしたくないなら、星奏館から一緒に出てくれば済む話なんだけど。
でも、おれを待っててくれる燐音先輩ってすっごくきれいなのだ。目を伏せて、ちょっと退屈そうに手元を見つめて。ついカメラを向けたくなるそんな人が、たぶん、そうしてるあいだはおれのことを考えてくれている。そんなの、きらきらして見えるに決まってる。このほんのちょっとの時間は、おれだけの特別なのだ。
メインストリートからはずれた隅っこに姿を見つけて立ち止まる。おそろいで買ったUVカットのサングラスに、
そばで見つめるとすぐに気づいて目を合わせてくれるから、静かな様子を眺められるのはこういう時ぐらい。だから、待ち合わせ場所から少しはなれたところで、あの人をこっそり眺める今はおれにとって大事な時間になっている。
一分、二分。もうすこし。動けなくなる前に、みつけた、と送って、返事を待たずに人の波間を抜けながら小走りでそばに行く。燐音先輩も、メッセージを見るより早くこっちに気づいたみたいで、目尻を下げておれを見てくれた。
ああ、この顔も好きだなあ。ほっとして力の少し抜けた、かわいい笑顔。カメラの代わりに記憶に焼き付けておく。外じゃ抱きつけないのはけっこうもどかしい。
「せんぱい! お待たせ」
「おー。時間通りでえらいですねえ」
「燐音先輩も、いつもはやく着いててえらいね」
「そ〜? そりゃどうも」
小さな声はすっごく優しい。仕事のときより雰囲気も柔らかいんだし、真っ黒のマスクはやめたらいいのに。迫力をわざと出してるのは、ある意味対策なのかも。
さて行くか、と歩き出した燐音先輩の服を掴んでついていく。手をつなげないのは不便だけど、変に騒ぎにしてしまうほうがいやだから、妥協案として。
まあ、これも、SNSではアヒルの親子とか言われてるんだけど。そうやって受け入れられて、いつかおれたちのデートもみんなにも当たり前になって、からかわれる日が来なくなればいいのにな。
「藍ちゃん。前見ないと転ぶぞ」
「ん、うん。気をつける」
せっかくのデート。背中に隠れてちゃもったいない。
今日の行き先は先輩任せ。おれの好きそうなところか、燐音先輩の好みになるかの確率は半々ぐらい。でも、いつも二人で楽しめる場所を見つけてくれる。
「ねえ、なんか機嫌いいね? くじでも当たったの」
「さてなァ。かわいいのが走って来てくれたら、藍ちゃんもうれしいだろ」
「……あんたが走ってきたらトラブルって思うかも」
くく、と笑って先輩は黙ってしまった。おしゃべりの続きは目的地についてから、らしい。
歌い出しそうな先輩に「熱烈視線は二人きりン時にしような」とさとされるまで、あと十分。