さににこ未満「あ、あのね、日光くん」
隣を歩く主が口を開く。敵襲の心配もないのだから後ろを歩くべきなのだが、どら猫曰く主は近侍に話し相手を望むから横に並ぶのがよいらしい。
それにしても妙に遠慮がちな口調である。
他の刀たちへの接し方を見るかぎり、付喪神という存在をそれほど恐れているふうではなかったが。新参者の自分が相手ではそうもいかないものか。
「何だ」
新入りの自分が主を待たせるのは好ましくない。即座に返答すると歯切れの悪いせりふが続く。
「えーと、その。しばらくこの本丸にいて気付いてるかもしれないけど、私はあんまりこう、堅苦しいのは得意じゃないんだよね」
「うむ」
それも既に知っている。
本丸を率いて数年となれば刀剣男士の扱いにも慣れているのだろうし、もともとおおらかで打ち解けやすい性質と聞いている。居並ぶ名刀、たとえば一文字一家の長たる山鳥毛を相手にしてさえ、まるで臆するところがない。だからこそなおさら、はっきりしない態度が気にかかる。
1974