夕凪 人間は身勝手だ。自分の都合で周りを利用する。
島を奪われてからの日々は、地獄という言葉でも生ぬるいものだった。対話することさえ許されない牢獄の中で、自我を切り取られては喪失の痛みを刻まれる。いなくなった方がマシだと何度思ったか。
だから思い知らせてやろうと思った。僕が受けた憎しみを、人間たちに。
《やめろ!》
聞こえた声に手を止める。マリスの必死な顔が、赤い鏡像として浮かび上がった。
《美羽もアルヴィスも僕たちが止める。アルタイルは君のものだ!》
胸を搔きむしられるような焦燥が伝わってくる。僕に対して常に平静を装っていたマリスらしくない必死さに、彼がどれだけ本気なのかが伺えた。
それは、一体何に対する焦燥なのだろう。日野美羽を僕に同化されることか、あるいは―――感情を獲得したこのフェストゥムの存在が消えることか。恐らくどちらもだ。
2660