無題 天の川は渡れない。そう言ったのは誰だったか。
はじめて七夕を知ったのは、まだこの世界が平和だった――当たり前過ぎて、平和の何たるかを知らない子どもの頃だった。
織姫と彦星の切ない恋物語。女の子たちが盛り上がっていたけれど、俺にはいまいちよくわからなかった。
好きな人と一年に一度しか会えないなんて、そんなの苦しいだけじゃないのか。好きなら待つのではなく川を渡る努力をすればいいのに。
「絶対、天の川は渡れない」
俺の心を読んだように、ぽつりと誰かが言った。
***
「こーよー、これはどこに置くのー?」
「キャビネットの横かな。あとで俺がやるから、来主は短冊用意して」
「はーい!」
元気よく返事をした来主は、ぱたぱたと走って来てカウンター席に座った。それから一騎が用意してくれた色紙とハサミとにらめっこをはじめる。
1557