「雲居の空」第3章~蛍3.
「蛍…… 綺麗だね」
常世の国から帰るころには夏の夜とはいえ、すっかり暗くなっていた。帰り道はずっと言葉を交わさないでいたが、宮殿が近づいたころ、あえて千尋は風早とふたりっきりになることにした。さすがにここまで来れば安全だろう、そう思って。
短い命を輝かせるかのように光を放つ蛍が自分たちの周りを飛び交っている。明かりが灯ったり消えたりするのを見ながら、千尋はアシュヴィンとの会話を風早に話した。
「そんなことを言ったのですか、アシュヴィンは」
半分は穏やかな瞳で受け止めているが、半分は苦笑しているようだ。
苦笑いの理由がわからず、千尋は風早の顔を見つめる。
「『昔』、あなたが嫁いだとき、全然相手にしてもらえず、あなたはアシュヴィンに文句を言ったのですけどね」
1381