「七緒ちゃん、今日はりんごが安いよ!」
東京来て二度目の冬。
新しい年まで数日となったその日、コートにくるまれながら七緒はマンションまでの道を歩く。去年の冬に幸村と一緒に買ったものだが、もこもこした感触が気に入っていて、それを着るだけで寒さが吹き飛ぶような気がする。
そして、商店街を歩いていると、すっかり顔なじみとなった果物屋の店員に話しかけられる。
「りんごか……」
幸村の出身である信濃はりんごの産地として有名だが、幸村が過ごした時期はまだりんごの栽培がされていなかったらしい。
そのため、こちらの世界でりんごを口にしたときはその甘さと酸っぱさが混ざった味に目を白黒させていた。
でも、それは最初だけのこと。その後、りんごは幸村の好物のひとつに加わった。
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