セベジャミワードパレット1.
◆1:「走る」「明け方」「神様」
さあっと雨の走る音がする。風にあおられてなびく雨のカーテンに陽の光がきらめいていた。ガラスの向こう側は明け方のように白々と明るい。涼やかな雨音と透明な光が建物全体を取り囲み、まるで世界から切り離されたみたいだった。色鮮やかな草花が放つ生命力に満ちた香り、肌にまとわりつくあたたかな空気。厚いガラスに守られた植物園の片隅で、初夏の夕立の音に耳を澄ませている。これ以上ないほどに穏やかな気分だった。
「やみそうにないな」
ふいに静かなつぶやきが静寂を破る。ちらりと隣を見れば、薄灰色の瞳が先ほどのセベクと同じようにじっとガラスの向こうを見つめていた。足を組み、木製のベンチにもたれかかった彼の姿はふだん座学の授業で見かけるときよりもリラックスして見えた。
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