その名を知れば 朝一番に淹れるコーヒーは最高だ。
そんな洒落たことを自分が思うようになるとは──。クレーバーはカップに口をつけて大きく息を吸い込みながら思った。
そう、去年の自分なら思いもしなかっただろう。故郷の田舎町の炭鉱で働いていた時の自分なら。
炭鉱の仲間とちょっとした揉め事を起こしたのが発端だった。小さな田舎町だ。些細なことでも居づらくなる。家族もいないクレーバーは、さっさと町を去ることにした。そして所持金で来られるそれなりに大きな町として辿り着いたのがここだったのだ。
偶然やってきたその町は、大きな大学のある町で若者も多く、居心地は悪くなかった。安い店も多いし、なんなら大学に潜り込んで、空調の効いた部屋で少しばかり時間を過ごしたり、運がよければ食堂でタダ飯を頂いたりなんてことも出来た。
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