夢にまで見た悪夢のような光景。それが今、俺の前で広がっている。
パチパチと爆ぜる黄色く赤い炎。ヴィクターさんなら何の成分かわかるであろうガスのような臭い。何をせずとも飛んできて俺たちを汚す煤。全部全部、あの日と変わらないというのに――。
ただ1つ、炎の中に残された人物だけが違っている。
「待てよ、ウィル!」
「離せアキラ!」
俺が珍しく強く突っぱねても、アキラは1歩も引かなかった。その表情は怒りか、はたまた別の感情からくるものかとても険しいものになっている。
「離すかよ。今離したら突っ込むつもりだろ」
「当たり前だろ! だって中には――!」
「アイツなら大丈夫だろ」
絶対シリウスが助けているに決まってる。たしかにアキラの言う通りだ。あのいけ好かないが仲間には優しい男なら、シンも……シャムスくんだってとっくに連れ出して逃げているだろう。このビルは作戦のために用意したこともあって、『ヒーロー』と【イクリプス】以外の人間はこの場にいない。だから大丈夫、大丈夫なはずなのに――。
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