花束からの逃避行例えば、ありったけの愛。髪を撫でて、愛しているのだと毎日言ってくれた。
心躍る冒険の話。この世界はこんなにも美しいもので溢れているのだと彼が語ってくれなかったら、冒険者になろうなどとは思わなかっただろう。
フルールという姓だって、あなたがくれたもの。名前を言う度にあなたのものだと感じられて、幸せな気分になれる。
それから、それから。
沢山もらった。沢山。ばかなあたしでは、数え切れないほどに。
今年のヴァレンティオンはそういう催しなのだろう。街のあちらこちらで、花束を渡す恋人たちの姿を見かけるようになった。友達かもしれないが、まあそこはどうでもいい。
はっきり言ってしまえばブランシュはヴァレンティオンが苦手だ。どんなにプレゼントをあげたくても、愛を表現したくても。それを届けたい人には永遠に届かないから。
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