vs誘惑 正面から伸びてきた指先が、咥えていた煙草を奪い取る。落としていた視線を上げれば、欲を携え揺らめく赤と翠にかち合った。膝の上に加わる重み。名前を呼ぶよりも先に、唇が奪われる。
(おお……)
随分とまあ、積極的になったものだ。最初は触れるだけのキスでも顔を真っ赤にしていたくせに、今となっては一丁前に自ら舌を突っ込んでくる。煙草の苦さで顔を顰めていたのが嘘のようだ。
拙いなりに一生懸命動くそれは、普段されている動きを真似しているようだった。特に執拗に繰り返される箇所は、おそらく自分がされて気持ちのいいところなのだろう。冷静なままの頭が、その箇所を一つ一つインプットしていく。
「ん……」
頑なに閉ざされたままの瞳が、うっすらと色を取り戻す。ぱちりと視線が合えばギョッと瞳は見開かれ、その勢いで唇も離れていった。二人の間を繋いでいた糸がぷつんと切れる。
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