komaki_etc 波箱https://wavebox.me/wave/at23fs1i3k1q0dfa/北村Pの漣タケ狂い ☆quiet follow Yell with Emoji POIPOI 224
komaki_etcDOODLE性癖パレット8.生理痛(男性生理)/みのり生理痛のみのり(恭二目線) みのりさんが腹を抱えてじっとしている。面白さを耐えているわけでもないし、重い一撃をくらったわけでもない。月に一度のあれだ。俺も重い方だからわかる。でも、みのりさん、いつも軽い方なのに。 「ホッカイロとかいります?」 「うーん、夏にそれは……熱中症になりそう」 寒気はないのか。みたところ、腹部の痛みだけらしい。俺は事務所のキッチンで白湯を沸かす。今日は打ち合わせだけの予定だ。ダンスレッスンがなくてよかった。 「めずらしいですね、みのりさんがそんなに重いの」 「最近コーヒーたくさん飲んでたからかなあ……ありがとう」 俺から白湯を受け取ったみのりさんは、両手でマグカップを包み込んで、その熱を味わっていた。顔も青白い。同じ痛みを知っている者として、さぞかし辛いとわかるのだが、こんな時なにも出来ないのが歯がゆい。 2171 komaki_etcDOODLE性癖パネルトラップ5.変温動物の秀変温動物の秀 潮の満ち引きは、月の引力に左右されているらしい。あいにくと俺は、月については詳しくない。太陽の光を跳ね返すことでしか光れない星のことなんて。 「どうした、秀。顔色が悪いぞ」 「……おはようございます、鋭心先輩」 音ゲーの途中で話しかけられてもミスをしないのが、俺のすごいところだ。ノーミスでクリアしてから、改めて鋭心先輩に向き直る。 「昨日夜更かししたからだと思います」 「近頃、毎日暑いだろう。体調管理には……」 「わかってますって」 鋭心先輩は「親なの?」と思うほど、時に過干渉だ。スマホの見すぎは目に悪いとか、フルーツを食べろとか。同年代のソレじゃないんだよな。まあ、見てて面白いからいいんだけど。次にプレイする曲を探しているうちに、百々人先輩が事務所に着いた。プロデューサーはまだ来ない、前の仕事が押しているのだろうか。 2410 komaki_etcDOODLE性癖パネルトラップ6/死体を山に埋めに行く隼旬死体を山に埋めに行く隼旬 真夜中に電話がかかってきたから、なんて非常識なんだ、と思った。いつもならぐっすりと眠っている時間だ。たまたま暑くて寝苦しく、眠りが浅かったから起きてしまったというものの。半ば寝ぼけた頭で、僕はスマホの表示を見る。 「もしもし……、ハヤト?」 「もしもしジュン? どうしよう、俺、人殺しちゃった」 「……え?」 寝ぼけているのだと思った。そうであれと思った。再度聞こうと思ったのに、なぜかそれはためらわれた。僕はスマホを握る手を右手から左手に変えて、「今どこですか」と聞いた。 「前にハイジョのみんなでピクニック行ったの覚えてる? なんて山か……」 「行きます」 そこなら、この家から歩いて十五分やそこらだ。こんな時間、僕以外で示し合わせてどっきりをしかけるようなこともしないだろう。ハヤトの声が震えている。僕は急いで着替えて、家の誰も目を覚まさないことを祈りながら玄関を静かに開けた。 2036 komaki_etcDOODLE性癖パネルトラップ3.泣くと真珠が止まらない/薫泣くと真珠が止まらない薫 痛みなどはなかった。まるで手品のようだった。 久しぶりに姉さんの夢を見た、気がする。目覚めた時には覚えていなかったが、仄かに頭痛がした。眠りながら泣いたのだろうと思って目元を指先で拭うと、ぽろり、と何かが指先を伝った。 涙の跡が固まったのかと思ったが、違った。眼鏡がないせいでよく見えなかったが、手探りで枕もとを撫でると、そこには真珠があった。真珠? 何故こんなところに。パールの付いた私服など、僕は持っていないはずだ。何かの衣装で引っかかったものが転がったか。いや、そんな衣装も最近着た覚えは全くない。 寝起きの頭で考え込んでいると、消えたと思っていた眠気の残骸が立ち昇ってきた。欠伸をすると涙が出る。この後顔を洗うのだから構わないと思っていた矢先――ぽろり。何かが頬を落ち、胸元へ転がっていった。今度は眼鏡をかけて辺りを探す。布の皺と皺の間に、また一粒、真珠が輝いていた。 2960 komaki_etcDOODLE雨想リクエスト内緒話ナイショ話 雨彦さんの家でレポートの宿題と戦っていた。なぜここでやっているかと言うと、世間では夏休みが始まったのだ。図書館も事務所も常に人が溢れている。その若々しいオーラが眩しく感じつつも、ひとりで静かに課題に向き合いたい僕は、逃げるようにして雨彦さんの家へと流れ着いたのだった。 「自宅では捗らないかい?」 「兄さんが早めの夏休みでねー。ゆっくり寝かせてあげたくて」 「なるほど。兄貴想いだな」 「近所のカフェも満員で騒がしくて」 街が賑やかになることはいいことだ、活気にあふれて物流が回る。この世界が華やいでいくのだから。ただちょっと、いつも木陰にいたかった僕にとって、木陰まで陽気な雰囲気が流れてくると、息苦しくなってしまうのだ。 2670 komaki_etcDOODLE性癖パネルトラップ「毒の小瓶を飲まないと仲間が助からない」想楽毒の小瓶 何も覚えていない。 気が付くと、という表現は、どこを「気が付く」の発端としているのだろう。視界が開けたら? 意識が戻ったら? 呼吸を感じたら? 今、僕にとっては、どれも違う。ただただ、は、と目を覚ましたら、真っ白な部屋にいた。 痛みもない。見たところ怪我もしていないし、縛られたり繋がれたりしていない。自由だ。思うままに身体を動かせる。なのに、どこかから重たい視線を感じる。身体中をがんじがらめにするような、息苦しい「なにか」。 ここはどこなんだろう? 僕はあたりを見渡してみた。床も壁も真っ白で境目がない。何歩歩いても、手をどこに伸ばしても、行き止まりに辿り着かなかった。このままじゃ酸欠で死んでしまうんじゃないかという圧迫感のなか、一つの机が視界に入った。薄茶色の、オーク材の、ありふれた机。華奢な脚が四本、僕の腰の高さで天板を支えている。 2242 komaki_etcDOODLEレイタツ(ホスト派生漣タケ)上書き あーあ、と思った。どうしよう、という考えは、しばらく思い浮かばなかった。 シャツに口紅がべっとり付いているなあ、というのは、匂いでわかっていた。朝に寝て昼に起きる生活をしていると、頭がぐらぐらしてくる。どの女の家に泊まったのかも覚えていない。化粧水が乱雑に並べられているユニットバスのトイレに立つと、オレの首筋にくっきりとキスマークが付いていた。 あーあ、というのは、他の女にとやかく言われるのがめんどくさいなあという感情から。どうしようというのは、タツミにとやかく言われるのがめんどくさいなあという感情から。小便を済ませ、寝室に転がっていた消臭剤を全身に吹きかけた。歯磨きがしたい。どの歯ブラシが自分のかわからない。何人男連れ込んでるんだコイツ。 1904 komaki_etcDOODLE性癖パネルトラップ4.失明/類目が見えない類 手探りで冷蔵庫を探し、中からペットボトルを取り出す。ひんやりとした空気が身体を包み、ここだけ別世界に来たみたいだ、と思った。 キャップを開けるまで中身はわからない。たぶん麦茶だろうか。口に含んでみるとやはり麦茶で、俺は喉を鳴らしてそれを飲み干す。カラカラに干からびていた身体がみるみる潤っていく。このペットボトルはどうしたらいいだろう? ゴミ袋がこの辺にあった気がする。適当に放っておくか。 「ただいまー。るい、無事~?」 「ウェルカムバック!」 玄関の方からガチャガチャと音が聞こえ、ミスターやましたの声がした。スーパーの袋の音もする、何か買ってきたんだろう。 俺は両手を広げておかえりのポーズをした。居間に入ってきたミスターの「なにそれ」という声にけらけら笑う。 2174 komaki_etcDOODLE性癖パネルトラップ2 1885 komaki_etcDOODLEアルテで海に行くリクエスト風が心地良いね それならば、と言われた。 それならば、海に行きましょうと。 「都築さんが行くのなら、ついていきます。心配ですから」 麗さんはそう言って、僕の荷造りを手伝ってくれた。日焼け止め、日傘、飲み物、タオル。滅多に使わない僕のカバンはぱんぱんだ。 季節はすっかり夏。ライブで「海の音を聞きたい」と言ったのは本心だ。この時期の、今だけの音というものが存在する。全身で浴びたいと思ったのだ。暑いのは苦手だけれど、暑いからこそ聞ける音もある。僕らは冷たい水を一杯飲んでから出発した。 少しだけ雲の多い日だったのは、幸いかもしれない。海辺に着くと人はまばらで、海水浴をしている人は思ったより少なかった。僕と麗さんは日陰を探したけれどうまく見つからず、持ってきた日傘で影を作った。 1540 komaki_etcDOODLE恭みのリクエスト魔法みたいだ ピエールに、また「密会!」と怒られてしまうかもしれないが、今日も今日とて、みのりさんは我が家に来た。曰く「居心地がいいから」とのことで、みのりさんの家に行く回数より、我が家に集合する回数の方が多い。たいしたものはない、気に入りの家電と貰い物の紅茶くらいしか。でもみのりさんはこれがいい、と言って床に座る。ああだから、座布団使っていいのに。 「ピエール、最近また背が高くなったかなあ?」 「そうかもっすね。そのうち越されたりして」 「あはは。その時が楽しみだなあ。俺が一番低くなるの?」 みのりさんはチューハイの缶を片手にけらけらと笑う。俺はようやく慣れてきたビールをちびちびと飲みながら、その将来のことを考える。ピエールが俺よりも高くなったとしたら。見える景色はだいぶ違くなりそうだ。 1778 komaki_etcDOODLE性癖パネルトラップ1花吐き病の輝 きっかけは朝のコーヒーだった。なんか胸につかえるな、と思って二、三度咳をすると、なにか平べったいモノが口の中に張り付く。ぺっと吐き出してみれば、それは黄色い花びらだった。タンポポのような、細長い花。刺身でも食ったか? 菊の花が小さく添えらえていることがあるけれど、あれを実際に口に入れたことはないなあ。そもそも、昨日は刺身を食っていないし。 料理のなにかトッピングに混じっていたのでは、ということにして、とりあえずその場は落ち着いた。コーヒーが美味しく飲めれば、それでいいのだ。 昼過ぎから、なぜか胸のつかえが取れなくなる。こほこほと目立たないように咳をしてみると、今度は白い小さなひらひらした花弁が落ちてくる。カスミソウではないのか? さすがにそんな花食ったことないぞ。言い訳が出来ずに頭を悩ませつつ、でも人前ではまだ咳を我慢することができた。誰も俺の足元に散らばる花弁など気にしない。 2513 komaki_etcDOODLE輝と薫 リクエスト「その一瞬で、世界は色づきはじめた」新星爆発 弁護士時代の夢を見た。 事務所の奴らやプロデューサーに話していない、思うようにいかなかったこと、苦しかったことは、実はたくさんある。その時のことを思い出しては、「あの時ああすればよかった」と一人で悔しく拳を握りしめる瞬間があった。もちろんアイドルという選択を誤ったとは微塵も思わないし、毎日楽しくて充実していてしあわせだ。 だけど時たま、「あの時ああしていれば」は、襲ってくる。 「おはようございます。あれ、輝さん、なんだか元気ないですね」 事務所でコーヒーを飲んでいると、翼の痛い一言が胸をつく。「そうか?」と明るく答えたが、翼の心配そうな顔はとけなかった。 「大方変な夢でも見たのだろう」 桜庭はそう言って俺の淹れたコーヒーを飲む。図星であるため否定できず、変に取繕った笑顔で翼の分のコーヒーを淹れた。砂糖たっぷり。これでなんとか誤魔化せたらいいのだが。 2420 komaki_etcDOODLE漣タケ七夕 事務所にプラスチックの笹が飾られた。どこかからの貰いものらしい。もふもふえんのみんなが作った折り紙の飾りが揺れる。 七夕は毎年、雨な気がするのに、今年は晴れた。前日の雷雨がひどかったから、雲はそこで全ての雨を流し切ったのかもしれない。靴が乾ききらなくて、今日はサンダルを履いてきた。久しぶりに履いたから、足の甲に日焼け止めを塗るのを忘れてしまいそうだった。 「笹、まだあるから、欲しい人どうぞ」 プロデューサーはそう言って、何人かに小さな笹を分けていた。俺は貰う予定はなかったのに、ほら、タケルも、と半ば押し付けられるような形で貰ってしまった。葛之葉さんから折り紙を数枚分けてもらい、かさかさと葉を鳴らしながら家へ持って帰った。 1904 komaki_etcDOODLEPタケ リクエスト台拭き 近頃、プロデューサーの態度が変な気がする。じーっと俺のことを見ていたかと思えば慌てて目を逸らすことが多くなった。俺はそのたびに顔に何かついているのか確認したり、服にタグがつけっぱなしなのかと心配したり、背後に霊でもいるのかと悩んだりしていたのだが、まあ考えすぎだろう、というところに落ちついた。プロデューサーは激務だ、きっとただ疲れているだけだろう。ぼーっとしてしまうことくらいある。 よく晴れた暑い日だった。俺は家で水分補給をしてくるのを忘れてしまい、事務所で何か飲もうと息を切らしていた。まずは顔を出さねば、とドアノブに手をかけたところで、中からなにやら大きな声が聞こえてくる。 「あ~~~~タケルのおっぱい揉ませてくれないかな~~~~!!」 1760 komaki_etcDOODLE隼旬リクエスト祈り 女性の大絶叫に、思わず振り向いてしまった。それがよくなかった。 子供が車道に飛び出していたのと、その車道を車が走っているのを視界でとらえ、あ、間に合わない、と直感でわかってしまった。全身の血の気がさあっと引いて、立っていられなくなって。人々の叫び声と、嫌な衝突音がどんどん遠ざかりながら、俺は意識を手放した。次の瞬間、俺の視界に入ったのは知らない天井だった。 「こういっちゃなんだけどさ。ハヤト、倒れてよかったよ」 アナウンスがひっきりなしに聞こえる。ここは駅の救護室らしかった。四畳ほどの部屋に簡単なベッドと椅子。椅子にはジュンが座っていた。ハルナは続ける。 「あんなん見たら、トラウマなる。ジュンも吐いたし、シキもナツキも顔真っ青だし」 2216 komaki_etcDOODLE鋭百リクエストまたね 軟口蓋を上げる、ということを、レッスンで何度も指摘されてしまった。欠伸をすると上がるでしょ、と言われるたびに欠伸をしていたから、疲れていないのに眠くなった気がする。 「お疲れさまでした。お先に失礼します」 「お疲れ様。しゅーくん、用事でもあるの? 嬉しそう」 ボイトレは、ダンスとは違う疲れ方をする。リラックスをしなければならない、という緊張をずっとしているからかもしれない。それでも隣で汗を拭くしゅーくんはピンピンとしていて元気そうだった。 「はい、このあと恭二さんたちとゲームするんで」 「わあ、それは楽しみだね。いってらっしゃい」 しゅーくんを見送って、さて、と僕は隣を見る。えーしんくんは淡々と帰り支度をしていて、その寡黙さはどこか上の空っぽかった。 2277 komaki_etcDOODLE雨想リクエストあなたのせい 折り紙のうさぎが完成した時には、もう十二時を超えていた。指先がかさかさとして、潤いを求めている。僕はキッチンに向かい、冷蔵庫から麦茶を出した。残りわずかだったら口を付けて直飲みしてしまおうと思っていたのに、二リットルのペットボトルは満タンだった。兄さんはまだ帰らない。 折り紙に集中して肩が凝るだなんて、なんとも間抜けだ。僕は固まった首をぐるりと回し、腕を大きく伸ばした。明日のレッスンではストレッチを念入りに行おう。酸素を取り入れたからか大きな欠伸が出て、それを合図に眠気がやってくる。 明日の授業は午後からだから、のんびりと寝られる。そう思っていた矢先、ぶ、とスマホが震えた。何の通知かなんて、見なくてもわかった。僕はリビングの電気を消しながら、LINKの表示を確認する。思った通り、雨彦さんからだ。 1713 komaki_etcDOODLE漣タケ、軽いレイプ。眠れない漣と迎えにきたタケル 3831 komaki_etcDOODLE漣タケ、海おかえり 海を初めて見た時のことを覚えていない。 いつからか海というものは当たり前に地球を侵食しているものだという認識はあったし、この星が青いということも知っている。でも、そういった知識のきっかけを思い出せない。なんだったか。夕陽が燃えよるようで、海のくせに赤いじゃないか、と思った記憶がある。焼き尽くされる水平線の向こうに太陽が沈むと、辺りが途端に真っ暗になった。それが妙に切なかった。 らーめん屋かチビの家に勝手に寝泊まりをして、朝になったら適当に出て行く、を繰り返していた。それに慣れきった二人は、今じゃ何も言わずに寝床を与えてくる。夕飯も勝手に出てくる。なんとも力の抜ける。コイツらは泥など食ったことはないのだろう。草むらの夜露の冷たさを知らないのだろう。こんな話はわざわざしないから、オレ様がそれらを知っていることもコイツらは知らない。 1827 komaki_etcDOODLE雨想、雨の日ポッカリ 身長しかり、靴のサイズだって結構大きい方だ――と、思う。左右に立つ者が異様なだけで。 僕は玄関で今日の靴を考えあぐねていた。小雨となると、スニーカーは避けた方がいいだろう。撥水加工のあるローファーにするか、それともいっそレインシューズにするか。 レインシューズは、梅雨に向けて最近購入したばかりのものだった。つやつやと光る黒、爪先の丸み。ショートブーツの形で、歩くとがぽがぽする。指の関節がすこし擦れるような感覚があるが、もう一サイズ小さいのは窮屈だったから仕方ない。 予報では雨は一日降る。ならば、うん、レインシューズで行こう。とっておきをおろすというのはどこかワクワクする。広げた靴たちを靴箱に収め、カバンを持ってドアを開けた。世界が広がったと同時に雨の音が耳に入ってくる。やはり部屋の中というのは世界から遮断されているのだ。 1894 komaki_etcDOODLE漣タケ、夏至夏至 アイスクリームのストロベリー味が好きだ。事務所で貰う差し入れでたまたま食べる機会があり、それからすっかりハマってしまった。ほどよい甘さと酸味がみずみずしい。 スーパーに売っているカップアイスもいいが、路面店のアイスクリーム屋で買うものは格別だった。世間では「自分へのご褒美」なんてものが流行っているらしいが、俺にとってはこれかもしれない。ほんの少しの無駄使い、ほんの少しの贅沢。コーンで頼んでしまえば、店から家に帰るまでの間に食べ切れるので、証拠隠滅も早い。 何から隠すのか――そんなの、わかりきっている。アイツだ。 漣は食べ物への執着がすごい。うまそうな匂いを嗅げば臆せず店に入っていくし、遠慮というものを知らないからブッフェ形式のパーティでも全てを食べようとする。 1435 komaki_etcDOODLE漣タケ、子育て。赤ちゃんを抱っこしてます抱っこ 人差し指を差し出すと、小さな手のひらで全力で握られる。湿っていてあたたかな、そして少しでも力を加えれば壊れてしまいそうなその行為を数度繰り返し、俺はくすりと笑みをこぼした。おでこにおでこをつけ、鼻に鼻をつけ、愛してる、と鼓動を送る。届いているかはわからないけれど、腕の中の命がこくりこくりと眠りに誘われだし、胸の辺りがほかほかとしてきた。赤ん坊の体温って本当にあたたかい。とん、とん、と背中を叩きながら、身体をゆらゆら振り、入眠を促す。しばらくすると深い呼吸が聞こえてきた。よかった、無事に眠れたようだ。ほ、と一息ついたところで、ガチャリとドアノブが静かに回った。 赤ん坊が生まれてから一番驚いたことは、アイツが乱暴な仕草をしなくなったことだった。相変わらずガサツではあるけれど、ドアを大きな音を立てて開け放ち、足で蹴飛ばして閉める、そういったことを控えている。彼なりに赤ん坊の生活を守っているのがわかった。今日だって、玄関が開く音はわからなかった。 1362 komaki_etcDOODLE雨想キャラメル 僕のカバンの中には、常に甘いものが入っている。飴とかチョコとかキャラメルとか、そんな小さなものばかりだけれど、ふとした時に口寂しくなると、それらはちょうどよく僕の心の隙間を満たしてくれるのだ。 「雨彦さん、キャラメルいるー?」 「おお、ありがとさん」 運転中の彼の口に、キャラメルをひとかけら放り込んだ。器用な彼のことだから、助手席の僕の方へ片手を伸ばすことくらい造作もないだろうに。雛鳥のように口を開けた様が少し間抜けでおかしかった。 「最近、よく甘いものを食べてるな」 「そうだねー。なんか小腹がすいちゃうんだー」 適当に誤魔化して、僕もキャラメルを頬張った。ほろ苦い甘さが口の中に広がる。窓の外の街路樹は立派に生い茂っていて、道に濃い影を落としていた。 765 komaki_etcDOODLE雨想 リクエスト「風呂上がりにキス」ごぼごぼごぼ 湯船に浸かると、あー、と気の抜けた声を出してしまうのは何故だろう。おじさんくさいだろうか。まだ「あ」に濁点が付いていないだけマシではないだろうか。お湯に顔面をつけて、あー、と叫んでみると、ごぼごぼごぼと泡が破裂した。 今日あった出来事を反芻するのに、湯舟は向いている。昼間はインタビューがあった。事前にいくつか質問を予想しておいたのが功を奏し、問題なく答えられはしたけれど、面白みにかけてただろうか。学生業との両立は難しくないですか。学校でも毒舌キャラなんですか。いいんだ、僕は僕らしく答えただけだ。プロデューサーに許可も得ている。 あー。ごぼごぼごぼ。髪がお湯の中で揺蕩う。いつまでもこうしていたい、と水の中で思うことがあるのは、人類が海から生まれたからかもしれない。それこそクリスさんが喜びそうな話題だ。 1942 komaki_etcDOODLE漣タケ雨粒 雨上がりの匂いに包まれながら、なんとなく公園へ立ち寄った。朝のランニングは一通り終わったし、息切れも汗まみれだ。隣で走っていたアイツも大人しく俺についてきて、がぶがぶと水を飲んでいる。 木々の濡れた匂い。土の匂い。これが六月の匂いだと思う。厚い雲の隙間からさす光が眩しい。 「……息がしづらい」 「籠るよな、なんか、水分が」 肺のなかが湿ってるような心地になる。もうすぐ梅雨だ。陸地で溺れそうになるこの時期が、昔は嫌いだった。リストバンドが汗でじめじめする。 「……チビ」 「……ああ」 ひと雨きそうだ、と伝えたいのだろう。声色で悟り、頷いた。雨の匂いが濃くなった。 この匂いを嗅ぎ分けられない人が世の中にはいるらしい、ということを最近知った。当たり前のことだと思っていたのに、雨が降りそう、と言うと驚かれたりする。アイツも嗅ぎ分けられるタイプだから、俺たちはよっぽどのゲリラ豪雨でなければ雨を避けられることが多い。 1932 komaki_etcDOODLE舞握ソリチュードを味わいに 朝から曇天は続いた。折り畳み傘は持っていたし、ぱらぱらと小雨が降るたびに何度も使おうとしたものの、本格的には降ってこず、その手の中の物を持て余すばかりだった。 「グッモーニン、ミスターあくの!」 「類はこんな日でも元気だな……」 事務所に着くと、部屋中が煌々と明るい。その理由が新しく取り換えた電球ではなく類の笑顔のせいだってことはすぐさま理解した。賢は買い出し、プロデューサーは誰かの付き添い。ここに来た理由は資料を受け取りに、でしかなかったけれど、S.E.Mがいるなら仕事の話が出来るかもしれない。この先のライブについて、少しでも情報を仕入れておきたい。 「事務所に居るの、俺オンリーだよ」 「えっ、道夫と次郎は?」 2058 komaki_etcDOODLEれおたい♀ 虎斗にょた白湯 痛みに蹲っていると、上からぱさりと毛布がかけられた。せっかく家に来てくれたのにこのざまだ。大人しく帰ってもらった方がよかったのかもしれない。 家、来れば、という誘いに、「今日は出来ない」と伝えた時の、先輩の顔。ぱちくりと目を瞬かせて、「ああ」と何かに納得したように溜息をついた。 「そういう意味で呼んでねえよ。そんな年中サカッてると思ってんのか」 「だって、毎回するから……」 「辛いなら、やめるけど」 それが、毎回の行為をさすのか、今日行くことをさすのか聞く前に、う、と腹痛に苛まれる。薬を飲んでいるのに、今回は重い。今日、部活が無くてよかった。 「……今日は帰っとくか。送る」 「や、だ」 「は?」 「一人で、いたくない……」 2138 komaki_etcDOODLEれおたい リクエストドライアイ 虎斗がしぱしぱと強く瞬きをしている。ぎゅっと瞑っては細目を開き、もう一度閉じてしばらく置いてから目を開く、そんなことを繰り返していた。 「どうした」 「ん、なんか……ドライアイっぽくて」 そんなら目薬させばいいだろ、と伝えると、そうだ目薬、とびっくりした声をあげてカバンの中をゴソゴソ探し出した。頭の中にその選択肢がなかったらしい。 「スマホの見過ぎか?」 「そんな見てないっすけどね……バスケ中に見開き過ぎとか……?」 それならオレも目が渇くはずだが、個人差があるのだろうか。生憎とオレは目薬を使う機会がないため持ち歩いてすらいない。 「うわ」 「オマエ目薬下手すぎんだろ」 虎斗の落とした水滴は見事に目の横に落ち、頬を伝う。涙に見えなくもないが、そんな儚い風景とは遠い事象につい面白くて笑ってしまった。 2146 komaki_etcDOODLE漣タケ、リクエスト麻婆豆腐大作戦 あ、麻婆豆腐にしよう、と思ったのは、アイツがばたんと家を出て行った瞬間のことだった。 昨日どしゃぶりだったから、靴を乾かしていたのだ。玄関先に新聞紙を敷いて、靴の中にも丸めて入れて。なのにアイツはよく見もせず、その上に自分の濡れた靴を置きやがった。おかげで俺の靴はびしょぬれのままだ。新聞紙も意味を成さない。 そのことについて苦言を呈したら案の定逆切れされて、日々の恨みつらみをついでにぶつけ――鍋の蓋も洗え、風呂に入ったら換気扇をつけろ、エトセトラ、エトセトラ――言い争いになり、アイツが出て行ったという流れだ。別に心配はしていない。夕飯の時間になったら何食わぬ顔で帰ってくることを知っている。 こうなったら、思いっきり辛いモノを食べてやろう。アイツも眉を顰めるくらいのヤツ。唐辛子とか、香辛料をたくさん入れて――そうと決まれば、買い物だ。俺は濡れていない靴を出してから、アイツがびしょぬれのままの靴で出て行ったことに気付く。まあ、外を歩いていれば乾くだろうが、少し気の毒かもしれない。アイツは気にせずズカズカ歩いてるだろうけど。 1678 komaki_etcDOODLEみの恭、リクエスト蝶よ花よ「憧れで蝶が殺せるかって話だよ」 驚いて隣を見ると、きらきらとした瞳はそのままに、みのりさんは微笑んだ。 「他人だからいいんだよ。アイドルって」 俺はまた彼の知らない一面を見てしまい、なんと表現したらいいのかわからない動揺を飲み込んで、机の上のコーラを見る。グラスが汗をかいている。パーティだもんね、これはパーティだよ、と言いながら注いだ彼は口をつけていない。 ピエールを見送って、そのままいつものようにコンビニに行き、いつものように俺の家に来たみのりさんは、今日はいいものがあるんだよとライブBlu-rayを取り出した。俺は作詞作業の続きをするもんだと思ってたからノートを取り出していたけれど、大人しく引き下がることにする。みのりさんがいなければ、こういう勉強は自分から出来ない。「ここだけでいいから」という部分まで慣れた手つきで飛ばされ、「ここだけ見て」と強調してきたその画面の向こうのアイドルはたおやかに笑っていて、アイドルが「偶像」に振られるルビだということを思い出す。作り上げられた神のようだ、と思った。 2318 komaki_etcDOODLE雨想。うたたねといつかの喧嘩エクスクラメーション はっと目を覚ますと、雨彦さんの肩に頭を乗せていた。ぐらぐらする頭を必死に正常に戻しながら、今がいつでここがどこなのかを冷静に思い出そうとした。えーと、たぶんここは、雨彦さんの部屋。 「起きたかい」 「寝ちゃってたんだねー……ふわあ」 あくびをひとつ零しながら、ゆっくりと身体を起こすと、肩から重みがぱさりと落ちた。温もりの塊を手繰り寄せると薄手の毛布で、雨彦さんの鬢付け油の香りがする。わざわざかけてくれたんだろうか。壁の時計はまだ帰宅するには早い数字を指していたから、もう一度毛布にくるまってみる。 「寒いか?」 「ううんー……あったかくて気持ちいい」 雨彦さんの肩は頭を乗せるのにちょうどいい位置にある。そうだ、お互いに台本を読んでたんだった、雨彦さんの手元の紙の束をチラっと見て、たくさんのエクスクラメーション――ビックリマークに驚く。そんなに血気盛んなドラマだったっけ。 1873 komaki_etcDOODLE雨想。深夜のドライブデート。深夜にて 夜中に目が覚めることは、ままある。歳のせいなのか体質なのか睡眠は浅い方で、寝つきも悪い。明日は朝の仕事が入っていないから、今起きても問題はないだろう。重い上体を起こし、首をぽきりと鳴らす。 時間を見るためにスマートフォンを手に取ると、LINKが数件溜まっていた。見てみれば北村からのメッセージで、夜道での白猫の写真と月の写真だけがぽかんと送られていた。うたを詠むでもなく、おやすみの文字もなく、北村らしい。 なんとなく。なんとなくだが、今電話をかけたら、繋がる気がした。北村ならまだ起きてるんじゃないかと。こんな真夜中に申し訳なさもあったが、好奇心が勝ってしまった。指がすいすいと画面をすべる。 陽気な発信音を数度聞いている間は、どうして自分がこんなことをしているのかわからなかった。声を聞かないと眠れない訳でもなし、寝る前の電話が日課でもなし。やはり迷惑だったか、起こしてしまうだろうか、と電話マークを触ろうとした瞬間、耳に届いた聞きなじみのある柔らかな声。 1321 komaki_etcDOODLE雨想。春の雨、早朝のドライブ早朝水族館 くしゃみをひとつすると、雨彦さんが「寒いか?」と尋ねた。そりゃあ朝の五時なんて、まだこの季節は肌寒いに決まっている。もう少し厚手の服を着て来ればよかった。 「風邪引かないでくれよ」 「お気遣いどうもー」 こんな時間のドライブは、酷くさみしい。歩道も車道も広々としていて、電柱が所在なさげだ。空が少し灰がかっている。仄明るい街並みはまだ寝息をたてていた。 「雨彦さん、眠くないのー?」 「ああ、しっかり目が冴えてるな。昨夜はよく眠れたようだ」 「それはなによりー。僕はまだ眠いなー」 「寝てていいぜ。着いたら起こすから」 ぐんぐんと進む車の心地に、つい頭がうとうとしてくる。身体に響く静かな振動は、ベッドの中とは違う安心感があった。雨彦さんは運転が上手い方だと思う。気持ち悪い揺れを感じたことはない。 1706 komaki_etcDOODLE雨想、情事中 923 komaki_etcDOODLE雨想。情事後の朝逃避行 三月なのに雪が降るとは、これいかに。 朝起きて、妙に外が静かな気がして、スマホで天気予報を開く。午前中いっぱい、雪の予報だった。薄い布一枚着込んだだけの上半身が外気に晒されて寒く、またのそのそと布団の中に戻る。 隣に寝転ぶ大きな図体に額を寄せた。彼は体温が低いけれど、寝ていると流石にあたたかい。腹の方に腕を回してみようか考えているうちに、大きな身体はごそりと寝返りを打ち、こちら側を向いた。見上げると、眠たそうな眼が僕を見つめている。 「おはようございますー」 「随分早起きだな」 「寒くて起きちゃってー。雪らしいですよー」 「ああ、なにか外が眩しいと思った」 この家のカーテンは陽をよく通す。寝つきが悪いのなら遮光カーテンにしたらどうだと言ったことがあるけれど、朝日を浴びたいのだ、明るい部屋の方がいい、と言われてしまっては返す言葉もない。キングサイズのベッドの上で、僕らは甘いまどろみを楽しむ。 2406 komaki_etcDOODLE雨想。昔想いを告げて、待たされていた時の話サロメ 電車の揺れがいつもより激しいだけで、怒られているような気持になる。 全国を低気圧が襲った。それほど影響を受ける体質ではないと思っていたけれど、全身が重い。頭が痛い。今日は授業が三コマあった。レポートはどれも手を抜かなかった。靴が窮屈に感じる。カバンをかけた肩が重い。 「……顔色が悪いな」 事務所に着いて、顔を見合わせた第一声がそれだった。雨彦さんはぽんぽんと僕の肩を叩いて、ソファに座るように促す。あたたかい緑茶か麦茶か、と聞かれて、少し迷って緑茶と答えた。ペットボトルのなかに、冷めたほうじ茶があるのを忘れていた。 「クリスさんはー?」 「前の仕事が押してるらしい」 ああ、そういえばLINKが来てたっけ。今日はぼんやりだなあ。大きく伸びをして深呼吸をする。こういう時は酸素が足りていない。 2798 komaki_etcDOODLE雨想。逢瀬の帰り道ホッカイロ 深夜も深夜、人通りの少ない道でのみ、雨彦さんは手を繋ごうとしてくる。 それは別に良いのだけど、冬だと「ホラ」と言ってポケットの中に誘導されるものだから、僕のひじは変な位置で固定されてしまう。これなら腕を組んだ方が恋人っぽいのではないかと思うが、僕らは指先の交わりだけで充分だった。 「ん? 今日はあたたかいな」 ポケットの中で、僕の指先を遊びながら雨彦さんが言う。僕はにんまりと笑い、左手に持っているそれを掲げてみせた。 「ホッカイロですー」 「なるほどな」 右手に雨彦さん、左手にホッカイロ。冬だけど、無敵だ。 さっと、目の前を白いなにかが通り過ぎた。猫だ。この辺にはノラが数匹いる。黒いのと、白いのと、茶のまだら。白いのはとびきり人懐こいから、僕も数度おなかを撫でさせてもらったことがある。今日はご機嫌ななめなのか、家の隙間に入り込んで、こちらをキッと睨んできた。 960 komaki_etcDOODLE雨想 事後半径二メートルの 死ぬ時に笑っていられたらいいなぁ、というのが、僕の目下の目標である。人生にはたくさんのレールが敷いてあって、どの道を歩くかは僕次第なのだけど、行き止まりだったり崩れ落ちてたり、途中で合流したりするその道の先は、想像することしかできない。 暗闇の先、どうか終着点が笑顔でありますように、と願ってやまないのだ。 納得したい。僕の選択全てを。何故こんなことを思うかというと、きっと不安で足元がぐらついているからだ。クォーターライフクライシスになるには、まだ若すぎるだろうか。安心したい。確かな安心が欲しい。 「また難しいことを考えてるな」 「……そんなに分かりやすいですかー?」 「眉間に皺が寄ってた。跡になるぜ」 2265 komaki_etcDOODLE雨想Re:おやすみ 元の形がわからなくなるくらい、覆われてしまう時。はじめの形を思い起こそうとするのと、今の形に浸るのと、どちらが尊い作業なのだろう。 控室の机の上で、ぴこんとスマホに通知がくる。クリスさんから、遅れてすまない、もう少しで到着する、とのLINKだった。前の現場が押したらしい。すいすいと指で操作し、返信ついでに今までのメッセージを読み返していた時。 「北村は、Reの世代じゃないか」 と、隣から声が降ってきた。 「Re……?」 「俺の若い頃はスマホじゃなかったからな。所謂ガラケーさ」 「うん、それはわかるけどー」 「だから、LINKもなくて、連絡は全部メールだったんだ」 今だって、かしこまった仕事の連絡はメールを使用する。事務所宛てに企画書が送付されたら、そのまま転送されることもあるし。大学の大切なお知らせだってメールだ。僕は右隣を見上げて、彼が何を言わんとしているのか測る。 2314 komaki_etcDOODLE雨想バレンタインデーサンクスデー 雨彦さんが実家の清掃会社と事務所の間に借りている寝泊まり用のワンルームに、仄甘い香りが広がる。 昨日のうちに、昨日までに事務所に届いていたチョコを運び込んでいたせいだ。僕の分もいったん置かせてもらっている。僕は自分宛の箱の中から板チョコ――海外製のもので、猫の絵が描かれているパッケージ――を取り出し、雨彦さんに「これ、今からどうですかー?」と訊ねた。Bitter、と書いてあるのが読める。 「ひとかけら。ホットミルクに入れると、ホットチョコレートドリンクになるんですよー」 「へえ、いいじゃないか」 じゃあマグカップを用意しよう、と動き出す彼の背を追いながら、今日という日について思いを馳せていた。 世間は華やぐバレンタインデー。日本ではチョコレートを贈る風習がある――ここ数年は、祭典が盛況のようだけれど。多分に漏れず僕らアイドル宛てにも、事務所に大量のチョコレートが届いていた。今目の前にあるのは、ほんの一部に過ぎない。 1912 komaki_etcDOODLE雨想♀。一人称は僕。2人で温泉に行く話小春日和 しなびた胸だなあ、と思ってしまった。 僕の行く末かもしれないのに、他人にそんなこと思ってしまうのは失礼だ、そんなことはわかっている。だけど、自分の若々しい張りのある肌が、いずれああなると思うと、どうしても途方もない時間が心を通り過ぎていく気がするのだ。 雨彦さんと温泉に来たのは、別に商店街の福引があたったわけでも、プロデューサーの提案でもない。僕から言い出したことだった。電車で一時間くらいのところにスパ施設があるので、平日の昼間ならと誘ってみたら、意外にも彼はくいついてきた。メインイベントの風呂自体は別行動になるにも関わらず、二人でのそのそと出かけることとなった。 のそのそと言うと亀のような、巣籠の熊のようなイメージがあるけれど、実際そんな感じだったので、言い得て妙かもしれない。乗り換えの駅で買い食いをしてみたり、あえて各停に乗ってみたり、僕たちはとにかく、のそのそと言うほかないほどのんびりと目的地に向かった。いつもは雨彦さんかクリスさん、プロデューサーの車に乗っての移動が多いから、こうして電車でゆっくり移動すること自体が久しぶり。僕は大好きな一人旅の時と同じような心地よい高揚感に包まれていた。 2555 komaki_etcDOODLE一緒にお風呂入ってる漣タケ 2ページで飽きた 2 komaki_etcDOODLEあんまり漣タケじゃない。タケルがジグソーパズルを漣とやる話ジグソーパズル タケルくんもやってみて、と小さな手のひらから受け取った小ぶりな箱には、たまに見かけることのある夜の絵が描かれていた。姫野さんは「ゴッホの絵、なんだって」と教えてくれて、嬉しそうに顔を綻ばせた。 「かのん、パパと一緒に一回やったから。なおくんとしろうくんにも貸したの。二人ともむずかしかったって言ってたけど、かのんは二日でできたんだよ」 「へえ、それはすごいな」 どこでこの絵を見たのか思い出せないが、おそらく有名な絵なのだろう。青い夜空が広がる下、街並みの中に、黄色く塗られた店が光っている。あたたたかな、美しい絵だと思った。整然とした石畳はどこか優雅で、星の輝きはやわらかだ。 「タケルくんに貸してあげる!」 2676 komaki_etcDOODLE漣タケ。成人してお酒を飲んでいますオレンジブロッサム 子供の頃に読んだおとぎばなしに出てくる「ぶどう酒」は、あんなにおいしそうだったのに。 大人になって初めて飲んだワインに顔をしかめる。てっきり濃厚なジュースみたいな味がすると思ったのに、渋くて、苦くて、まずかった。少ししょっぱいような、飲み込みにくい味。 「あはは、これはボディが重いからね」 俺にワインを勧めた番組プロデューサーはおかしそうに笑い、俺からグラスを受け取って残りをすいすいと飲み干していく。 「ドイツのアイスワインとかなら飲みやすかったかな」 「いえ、もう……結構です」 大人になったら、自然と酒が飲めるようになると思っていたのだ。身体が環境に適合していくように、胃とか食道も細胞が変化したりして。ビールが苦いという知識はあったけれど、まさかワインもこんなに重苦しい味だとは。匂いだけで脳が揺れそうだ。 2422 komaki_etcDOODLE漣タケ。とりとめない話みかん 店内ではなぜか「ももたろう」の曲がかかっている。俺はその軽快でチープな音楽を聴きながら、野菜売り場で困惑していた。 どうしてもみかんが食べたいのに、高いのだ。想像の倍くらいするやつしか売ってない。あのみずみずしい、爽やかに甘い果実の味を想像して涎があふれ出る。我慢できなくて、仕方なく一番安い詰め合わせを買った。隣に並ぶいちごの粒が、いつもより大きい気がした。 なぜみかんが食べたくなったかと言うとテレビでやっていたからで、なぜテレビを見ていたのかというと、アイツが帰ってこなかったからだ。騒がしいはずの夜がなんだかさみしいというのは随分癪だった。 出演したドラマの打ち上げと言っていた気がする。横柄な態度を取っていないか、迷惑をかけていないか、そんな心配をしていると、自分は彼のなんなのだという気分になってくる。俺が気にすることではないのだ。アイツだってきっとわきまえる時はわきまえる。 2419 komaki_etcDOODLE漣タケ。ほぼ同棲かさかさ ずっと段ボールを触っていたから、手がかさかさしてきた。指先の水分が全部吸い取られてしまったかもしれない。 近頃、もっぱら買い物を通販で済ませているせいで、家に段ボールが増えた。毎週のゴミ出しの日をすっかり忘れてしまい、かさばっていくそれらに溜息をつくのも飽きた頃、やっと前日に思い出すことが出来たのだ。明日、ランニングに行くときについでに出そうという算段である。 段ボールに張り付いている伝票を剥がしながら、牙崎、という名字が目に留まる。俺のだけじゃなくて、アイツの通販も俺の家に届くようになっていた。アイツ自身が買い物をしているわけじゃない。アダルト商品を買うのに、十八歳以上でないといけなかったから、名前を借りているに過ぎない。だいたいはコンドームだけど、その他にも、数種類、必要なものを買った。本来、入れるべきでないところに入れているわけだから、いろいろ準備が必要なのだ。思い出すのも恥ずかしく、俺は手回しシュレッダーに伝票をつっこむ。 2168 komaki_etcDOODLE漣タケ舞妓パロ鳩「なあ、チビ、鳩の目ぇ見えてんのかよ」 「ハト……? なんのことどすか?」 うちにだけ京ことばを使わないアイツを、姉さんなんて呼ぶ義理はない。おかあさんもこれには頭を悩ませているが、お客様の前ではきちんとしているし、何よりも花街一の舞の踊り手であるから、こっそり目を瞑っているのが現状だ。うちとしては、きつく咎めてほしいものだが。 「だぁら、簪だよ。その様子じゃ、まだ目ぇ入れてないみてーだな」 「目……」 ああ、思い出した。そうだ、この稲穂かんざしについている白い鳩には、目を描くことが出来るのだった。ご贔屓さんに目を入れてもらうと出世すると言われている。うちの鳩はまだ真っ白だ。 「だっせえの。貸せよ」 「ちょっ」 1167 12345