『パンはパンでも、』(仮)
──パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?
答えは、売りきれのパンだ。
烏丸は、けさ妹から出されたなぞなぞに、頭の中で答えた。
11月のとある週の日曜日、烏丸はパン屋にいた。烏丸はこの店でよくパンの耳をもらっている。店によっては有料のこともあるが、この店は金をとらない。だからちょくちょく立ち寄っていたのだが、いま彼の瞳には「パン耳0円 ご自由にお持ちください」のポップが一つ、むなしく映るばかりである。
経験上、早々に品切れした場合は「完売しました」のフダに差しかえられている。この値札がいまここにあるということは、つい先程までパンの耳があったということで──。ポップの文字列を端から読んでは、何もない空間に想いをはせ、レンガの壁紙をみつめる。
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