嘘をつくのがとにかく下手な「兄者、晩酌でもどうだ」
膝丸が部屋を訪ねてきたのは、髭切がちょうど床を延べおわったときだった。折よく、明日はともに非番だ。見あげた髭切の方も、もう少し夜更かしをしたい気分だった。
「いいね、この前買ったお酒、開けようか」
二振りとも酒には滅法強い。本丸に置かれているものでは度数も量も足りなくて、自分たちで酒を買うことはままあった。その酒をこうした夜だったり、どちらかが誉を取ったときなどに景気よく開けて楽しむのだ。
さて、あの酒はどこに置いたのだったか。思い出そうと、弟にやっていた視線を部屋のなかへ戻す。すると、まるでその視線を追うように、
「兄者」
膝丸が再び、そう呼んだ。
「うん?」
見やった弟は、何か言いたいことがあるのだろう。
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