定期報告 治安維持局長官の席は、常に空席になっている。イリアステルからやってきた新長官が、行方を眩ませてしまったからだ。元から権力者の意思に添って統治されている街は、トップが不在になったくらいで運営に支障をきたしたりはしない。長官代理の肩書きを押し付けられた哀れな男が、大企業の社長たちの意思を組ながら、街の政治を回していた。
しかし、その日は違った。常に空いているはずの座席に、ひとつの影が近づいて来たのだ。それは白い布を見に纏った、子供程の背丈の人物である。ローブのような布を翻しながら、どっかりと椅子に腰をかけると、彼は目の前に手を伸ばした。
少年の目前に、光のモニターが現れる。それはしばらくノイズを走らせると、ひとつの像を描き出した。それは薄暗い背景の中に浮かぶ、仮面を被った人影である。人影は少年の姿を捉えると、低くくぐもった声で呟いた。
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